映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

Dolls(ドールズ)

2013年05月01日 | 西島秀俊
破滅への道行だけれど



            * * * * * * * * *


さて、いよいよ北野武監督作品。
何がいよいよなんだか・・・。
いやあ、芸術的作品って触れ込みで、ちょっと緊張する~。
えーと、冒頭まず登場するのが人形浄瑠璃だね。
そう。そもそも、そっちの知識がまるでないのでよくわからないんだけど、
ものの解説によれば、近松門左衛門作「冥途の飛脚」の一シーンとのこと。
つまりは愛のために破滅する男女の物語だね。
のっぴきならない事情で、窮地にたった二人、というのはよくわかったよ。
だけどその終わりの所で、なんだか二人は希望を見出して顔を明るくしているようにみえた。
もちろん人形だから表情は変わっていないんだけどね。
どうしてだろう・・・と謎を残したまま、本編のストーリーが始まります。


西島秀俊さん演じる男は、恋人を捨てて、社長令嬢と婚約。
その結婚式の日のこと。
元恋人(菅野美穂)が自殺を図り、命は取り留めたけれど気が触れてしまった、
と友人に聞き、式場を抜けだして、彼女のもとに行きます。
その時点でもう会社へ戻る道は絶たれてしまったと同じなんだね・・・。
そこまで考えたのかどうか。
彼は、表情を亡くし虚ろな目をした彼女に同調し、二人で当てもなくさまよい歩くことになる。
赤い糸ならぬ、太く編みこんであるロープで結び付けられた二人。
桜の並木道。
夏の海辺。
紅葉の道。
そして雪の山道・・・。
美しく四季に彩られた背景をただひたすら歩み続ける男女。
ストーリーは、なおも2組の男女の愛を描いていくね。
何十年も一人の男を待ち続けた女。
相手のことを思いやるが故に、自ら失明する男。



これらは、愛と言うよりも妄執。
恋=狂気と言っているようだね。
はたから見たらほとんど喜劇とさえ思える・・・。
そういえば、男女の情愛を描いているというのに、どこにも濡れ場が出てこないよね。
ひたすら情念の世界なんだ。
二人を結びつけるロープは互いに絡みつき逃れられず、
ついには命取りとなっていく・・・ということか。
そこで、冒頭の人形の表情に戻るわけです。
ああ・・・、結局二人の愛を昇華させるための解答は「死」ということなのか。
世間のしがらみから離れ、つらいこの道行から開放される方法が、それ、ということなんだね。
監督はそのことを是としているわけではないと思う。
あくまでも冷静に見つめている気がする。
日本的な男女の情念の世界を、巧みに描ききったとはいえるだろうね。
うん、それにしても、表情が変わらないはずの人形に、表情をもたせる技術というのがさ、
やっぱりすごいと思った。
文楽、おそるべし。
西島さんはどうでした?
愛の巡礼者としては、なかなか良いのではないでしょうか。
感情を押し殺して、ひたすら無表情と沈黙のまま・・・って、
こういう役が多いのは、今作のイメージだったんでしょうかね。
うん、でも長髪はあんまりいただけないかも。
そうだよ~。
一番似合うのはお侍の髷さ!
はは・・・。

「Dolls(ドールズ)」
2002年/日本/113分
監督:脚本:北野武
出演:菅野美穂、西島秀俊、三橋達也、松原智恵子、深田恭子

日本的美意識度★★★★★
西島秀俊の魅力度★★★☆☆
満足度★★★☆☆