計算なし。戦略なし。
* * * * * * * * *
星野一彦の最後の願いは何者かに"あのバス"で連れていかれる前に、
五人の恋人たちに別れを告げること。
そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」
―これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。
なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。
特別収録:伊坂幸太郎ロングインタビュー。
* * * * * * * * *
主人公星野は、特に取り柄もない男ですが、
なぜか恋人5人を掛け持ちしていたのです。
しかし、何らかのトラブルが有り、
"あのバス"に乗せられて、何処かへ連れ去られようとしていた。
そのため、5人の恋人一人ひとりに別れを告げることにしたのです。
物語はその一人ひとりと会う場面ごとに章立てしてあります。
それぞれの出会いや相手の状況など、とてもユニーク。
どの冒頭も、「あれも嘘だったのね」と、
それぞれの女性が、星野との出会いのシーンを疑うところからはじまるのが、またいい。
これは5又どころじゃなくて、もっとたくさんいたら、
もっと楽しめるのに、などと不謹慎なことを考えたりもします。
そしてさらにこの物語を更に面白くしているのが、
星野の見張り役、粗暴な大女、繭美。
読み始めて、うわー、ニガテ、と思ったのですよね。
やたら粗暴で・・・。
でも読み進んでいくうちになんだか印象が変わって行きました。
それは著者の設定の変化などではなくて、
彼女がそんな風に変わっていったのは、まさに星野の影響だと思われるのです。
自分を飾らず人懐っこく、
自分が損だとわかっていてもつい「正しい」ことをしてしまう。
そんなタイプ。
繭美は彼を馬鹿なやつ・・・と思いながらも、
心動かされていく・・・。
そもそも、繭美はただの粗暴な女怪人かと思いきや、
そうではないのですよね。
終盤星野のことを
「おまえは計算ができない。戦略がない。」
と、分析します。
サッカーをする子供が、何も考えずにただボールをわ~っと追いかけるみたいに
目の前に現れた女性と後先考えずに付き合ってしまうのだ、・・・と。
実はなかなかするどい繭美さん。
実は本作の主人公は彼女の方なのかもしれませんね。
最後まで"あのバス"というのは一体何なのか、
星野がどうしてそんなハメに陥ってしまったのかの説明はありません。
でもそれでよかったのだと思います。
星野は、何らかの多額の借金を作ってしまったのであろうことは想像がつくのですが、
たぶんそれは自分自身のためではないはずです。
この5人のうちの誰か、
もしくは又だれか別の人物のために
負ってしまった借金のような気がします。
それこそ、計算も、戦略もなかった・・・。
だけれど、全くそのことについて後悔する風でもない。
実は繭美以上に人間離れしている星野・・・。
“あのバス”については、巻末のインタビューでは
"死のメタファー"であるというふうにあります。
例えば、癌で余命わずか、という設定でも全然構わないんですね。
殺人を犯して、自首するところでもいいし・・・。
とにかく自分の未来がない、
つまり親しい人と共にいるという未来もない。
そんな状況で、自分は何ができるのか。
というストーリーであるのかも知れません。
面白くて、悲しくて、怖い。
伊坂幸太郎らしさあふれる一冊。
「バイバイ、ブラックバード」伊坂幸太郎
満足度★★★★★
バイバイ、ブラックバード (双葉文庫) | |
伊坂 幸太郎 | |
双葉社 |
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星野一彦の最後の願いは何者かに"あのバス"で連れていかれる前に、
五人の恋人たちに別れを告げること。
そんな彼の見張り役は「常識」「愛想」「悩み」「色気」「上品」
―これらの単語を黒く塗り潰したマイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美。
なんとも不思議な数週間を描く、おかしみに彩られた「グッド・バイ」ストーリー。
特別収録:伊坂幸太郎ロングインタビュー。
* * * * * * * * *
主人公星野は、特に取り柄もない男ですが、
なぜか恋人5人を掛け持ちしていたのです。
しかし、何らかのトラブルが有り、
"あのバス"に乗せられて、何処かへ連れ去られようとしていた。
そのため、5人の恋人一人ひとりに別れを告げることにしたのです。
物語はその一人ひとりと会う場面ごとに章立てしてあります。
それぞれの出会いや相手の状況など、とてもユニーク。
どの冒頭も、「あれも嘘だったのね」と、
それぞれの女性が、星野との出会いのシーンを疑うところからはじまるのが、またいい。
これは5又どころじゃなくて、もっとたくさんいたら、
もっと楽しめるのに、などと不謹慎なことを考えたりもします。
そしてさらにこの物語を更に面白くしているのが、
星野の見張り役、粗暴な大女、繭美。
読み始めて、うわー、ニガテ、と思ったのですよね。
やたら粗暴で・・・。
でも読み進んでいくうちになんだか印象が変わって行きました。
それは著者の設定の変化などではなくて、
彼女がそんな風に変わっていったのは、まさに星野の影響だと思われるのです。
自分を飾らず人懐っこく、
自分が損だとわかっていてもつい「正しい」ことをしてしまう。
そんなタイプ。
繭美は彼を馬鹿なやつ・・・と思いながらも、
心動かされていく・・・。
そもそも、繭美はただの粗暴な女怪人かと思いきや、
そうではないのですよね。
終盤星野のことを
「おまえは計算ができない。戦略がない。」
と、分析します。
サッカーをする子供が、何も考えずにただボールをわ~っと追いかけるみたいに
目の前に現れた女性と後先考えずに付き合ってしまうのだ、・・・と。
実はなかなかするどい繭美さん。
実は本作の主人公は彼女の方なのかもしれませんね。
最後まで"あのバス"というのは一体何なのか、
星野がどうしてそんなハメに陥ってしまったのかの説明はありません。
でもそれでよかったのだと思います。
星野は、何らかの多額の借金を作ってしまったのであろうことは想像がつくのですが、
たぶんそれは自分自身のためではないはずです。
この5人のうちの誰か、
もしくは又だれか別の人物のために
負ってしまった借金のような気がします。
それこそ、計算も、戦略もなかった・・・。
だけれど、全くそのことについて後悔する風でもない。
実は繭美以上に人間離れしている星野・・・。
“あのバス”については、巻末のインタビューでは
"死のメタファー"であるというふうにあります。
例えば、癌で余命わずか、という設定でも全然構わないんですね。
殺人を犯して、自首するところでもいいし・・・。
とにかく自分の未来がない、
つまり親しい人と共にいるという未来もない。
そんな状況で、自分は何ができるのか。
というストーリーであるのかも知れません。
面白くて、悲しくて、怖い。
伊坂幸太郎らしさあふれる一冊。
「バイバイ、ブラックバード」伊坂幸太郎
満足度★★★★★