平凡のようで、決して平凡ではない、家族の系譜
* * * * * * * * *
謎多き祖父の戸籍──祖母の予期せぬ"帰郷"から隠された過去への旅が始まった。
満州、そして新宿。
熱く胸に迫る翡翠飯店三代記。
第22回伊藤整文学賞。
* * * * * * * * *
ある中華料理店の家族の歴史が描かれています。
おじいさんが亡くなったある夏の日。
孫の良嗣は、自分の家族のことを考えてしまったのです。
出入り自由の寄り合い所帯。
まるで簡易宿泊所か、子供の頃庭の木の上に作った"家"、ツリーハウスみたいに、
頼りなく危なっかしい。
親戚もいないし、お墓もない。
なんだかうちは変だ・・・。
良嗣は祖母が「帰りたい・・・」とつぶやくのを耳にし、
祖母の行きたいところに行ってみようと誘います。
それは昔、祖母と祖父が出会った満州でした。
ストーリーは戦前へとタイムワープし、
祖父母が満州へ旅立つところへさかのぼります。
日本が戦争に負けて、満州から引き上げてくる経緯、
そして息子や娘たちのこと、孫達のこと・・・、
家族の系譜が現在と交互に語られていくのですが、
良嗣が疑問に思った家のルーツが解き明かされていきます。
合間に、その時代のトピック的な出来事が挿入されているのも、
時代とともに移り変わっていく家族の様子が、
より具体的にイメージされていいですね。
中華料理店は翡翠飯店と名前ばかりかっこいいけれど、
決してそう繁盛しているとはいえないし、
父親はサボってばかり、
叔父はひきこもり。
ぱっとしない家族。
けれど、では、ぱっとした家族って何かというと、よくわからない。
祖父母は何もかもから「逃げて」きて、
ものすごい負い目を持っているがゆえに、
ひたすら一生懸命働いて生きてきたわけです。
意外と掘り出し物のお嫁さんがきたし、
孫の良嗣も気持ちが優しい。
ひきこもりの叔父は、かつて危ない宗教にハマったけれど、
あわやというところで犯罪者にならずに済んだ。
亡くなった家族もいることながら、
結構うまく行ったほうなのではないか・・・?
と、逆に思えたりもするのです。
どこの家族も実はこんなふうな歴史を持っているのではないかなあ。
例えば、私はよく、
うちのご先祖は良くも物好きにこんな寒い北海道まで移り住んできたものだ
・・・と思うことがあるのです。
ご先祖といってもたかが私の祖父母の代。
そういう経緯をきちんと調べてみれば小説の一つや2つ・・・。
ね、きっとどこの家でもそうなのですよ。
ファミリー・ツリーという映画がありましたが、
それは「家系図」の意味。
だから、この題名のツリーもそれに掛けてあるのかも、と思いました。
満州からの引揚げの物語・・・といえばものすごく重くなりがちなのですが、
良嗣の視点が若々しく、時にユーモラスでもあり、
じっくりと楽しめる一冊でした。
どの年代の方が読んでも共感を持てるのではないかと思います。
「ツリーハウス」角田光代 文春文庫
満足度★★★★★
ツリーハウス (文春文庫) | |
角田 光代 | |
文藝春秋 |
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謎多き祖父の戸籍──祖母の予期せぬ"帰郷"から隠された過去への旅が始まった。
満州、そして新宿。
熱く胸に迫る翡翠飯店三代記。
第22回伊藤整文学賞。
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ある中華料理店の家族の歴史が描かれています。
おじいさんが亡くなったある夏の日。
孫の良嗣は、自分の家族のことを考えてしまったのです。
出入り自由の寄り合い所帯。
まるで簡易宿泊所か、子供の頃庭の木の上に作った"家"、ツリーハウスみたいに、
頼りなく危なっかしい。
親戚もいないし、お墓もない。
なんだかうちは変だ・・・。
良嗣は祖母が「帰りたい・・・」とつぶやくのを耳にし、
祖母の行きたいところに行ってみようと誘います。
それは昔、祖母と祖父が出会った満州でした。
ストーリーは戦前へとタイムワープし、
祖父母が満州へ旅立つところへさかのぼります。
日本が戦争に負けて、満州から引き上げてくる経緯、
そして息子や娘たちのこと、孫達のこと・・・、
家族の系譜が現在と交互に語られていくのですが、
良嗣が疑問に思った家のルーツが解き明かされていきます。
合間に、その時代のトピック的な出来事が挿入されているのも、
時代とともに移り変わっていく家族の様子が、
より具体的にイメージされていいですね。
中華料理店は翡翠飯店と名前ばかりかっこいいけれど、
決してそう繁盛しているとはいえないし、
父親はサボってばかり、
叔父はひきこもり。
ぱっとしない家族。
けれど、では、ぱっとした家族って何かというと、よくわからない。
祖父母は何もかもから「逃げて」きて、
ものすごい負い目を持っているがゆえに、
ひたすら一生懸命働いて生きてきたわけです。
意外と掘り出し物のお嫁さんがきたし、
孫の良嗣も気持ちが優しい。
ひきこもりの叔父は、かつて危ない宗教にハマったけれど、
あわやというところで犯罪者にならずに済んだ。
亡くなった家族もいることながら、
結構うまく行ったほうなのではないか・・・?
と、逆に思えたりもするのです。
どこの家族も実はこんなふうな歴史を持っているのではないかなあ。
例えば、私はよく、
うちのご先祖は良くも物好きにこんな寒い北海道まで移り住んできたものだ
・・・と思うことがあるのです。
ご先祖といってもたかが私の祖父母の代。
そういう経緯をきちんと調べてみれば小説の一つや2つ・・・。
ね、きっとどこの家でもそうなのですよ。
ファミリー・ツリーという映画がありましたが、
それは「家系図」の意味。
だから、この題名のツリーもそれに掛けてあるのかも、と思いました。
満州からの引揚げの物語・・・といえばものすごく重くなりがちなのですが、
良嗣の視点が若々しく、時にユーモラスでもあり、
じっくりと楽しめる一冊でした。
どの年代の方が読んでも共感を持てるのではないかと思います。
「ツリーハウス」角田光代 文春文庫
満足度★★★★★