戦う勇気ではなく逃げる勇気
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本を片手に、戦う勇気ではなく逃げる勇気を。
言葉を愛する仲間たちに贈る、待望のエッセイ集。
「国でいちばんの脱走兵」になった100年前のロシアの詩人、
ゲーム内チャットで心通わせる戦火のなかの人々、
悪い人間たちを化かす狸のような祖父母たち──
あたたかい記憶と非暴力への希求を、文学がつないでゆく。
紫式部文学賞を受賞したロングセラー『夕暮れに夜明けの歌を』の著者による、
最新エッセイ集。
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奈倉有里さんのエッセイ集です。
著者はおそらく、今時なぜロシア文学なのか?と
人から問われることが多いのだろうと思います。
それは彼女自身が日々考えていることだろうと思うのですが、
人から問われたとしても、そう簡単に説明できることではないのだろうとお察しします。
本巻は、そのような著者の思いが凝縮された一冊だと思います。
著者がロシア留学中とその後の研究生活の中で
知り合った多くのロシアの人たちにも、思いを馳せています。
著者の知り合いと言えば多くは文筆にかかわる人たち。
そうした人々であればこそ、今の政権やこの度の戦争については反発がないはずはない。
けれどもそれを声高に言うことはまさに命にかかわることなのですね。
だから、心ならずもロシアから出て活動せざるを得ない人もいるということ・・・。
著者はロシアにとどまっている人、去った人を問わず、
なんとかそういう人たちの力になりたいと切に思っているわけですが、
それは同時に私たちの課題でもあります。
本を片手に、戦う勇気ではなく逃げる勇気を。
まさに、そのことです。
貴重な一冊。
それにしても、この戦争はいつまでつづくのでしょう・・・。
また、別件ではありますが、著者は新潟県柏崎の
とある古民家を購入して住むことにした、とあります。
新潟には彼女の祖父母の家があって、子どもの頃に夏休みをそこで過ごしたので、
大変馴染みのある場所ではあるのですね。
でももう一つ大きなポイントは、そこに原子力発電所があること。
彼女を知る人なら、原発については反対であろうことは想像できるのですが、
ではなぜわざわざそこに住もうとするのか。
「柏崎原発を人類の当事者として考えたい」と、彼女は言うのです。
返す言葉もありません。
自分にはさして影響のない場所から「原発なんていらない」というのは簡単ですが、
その場所に住む人々こそが、いろいろな意見を発する意味があるわけで。
奈倉有里さんはおとなしそうに見えて、実に、思い切った行動をする方なのです。
今後も注目して応援していきたいと思います。
「文化の脱走兵」奈倉有里 講談社
満足度★★★★☆
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