繰り返し続いていく“時”と、限りある“生”
* * * * * * * * * *
このアニメを見終わって、
さて、これは一体どういう物語だったのだろう、と思いました。
ストーリーは誰もが知るあの「竹取物語」そのもの。
竹から生まれたかぐや姫が美しく成長し、
多くの貴公子から求婚されるけれども、結婚を拒み、
やがて月の世界へ帰っていくという。
ただし、高畑監督が8年50億円を費やして描きたかった物語は
ただ古典のストーリーをなぞるというだけのはずがありません。
しかしまあ、はじめから答えはこのポスターに大きくでていたわけです。
「姫の犯した罪と罰」そう、そのことです。
さて、かぐや姫は一体何のタブーを犯してここへきて、
どうやってその罪を贖うことになるのか。
罪については作中でもさらりと触れられていました。
月の世界で、「地球に憧れたこと」への罰として、
地球に降ろされたと彼女は言っていませんでしたっけ?
しかし、お祖父さんお祖母さんと共に暮らした
山の春から秋にかけては、
かぐや姫にとって至福の時でした。
美しい自然。
大好きなお祖父さんお祖母さん。
近所の子供達と野山を駆け回り、
捨丸兄さんにちょっぴり憧れる。
ところが、都へ出てきてかぐや姫の生活は一転します。
広く豪華なお屋敷に、美しい着物。
けれど何も思い通りにならない窮屈な暮らし。
ある時“女のしるし”を見てからは、
何一つ心の底から楽しいと思えることもありません。
至福の時はあまりにも短く、残りは辛いことばかりだ。
時は流れる。
人の心を置き去りにして、どんどん時は流れてしまう。
あっという間に、あの楽しかった日々は過去のものとなり、
そして、たとえその故郷の山に帰ってみても、
懐かしい人々はいなくて、見知らぬ人が暮らしているばかり。
あの美しくきらめいていた日々には、どんなに帰りたくても帰れない。
そうした絶望を彼女が味わう事こそが
“罰”だったのではないでしょうか。
人は泣いたり笑ったりしながら短い一生を終える。
そう、おそらくは月の世界(=天上)から見れば、
人の世は常に移り変わっていく、なんともはかないうたかたにすぎないのでしょう。
そういう無常観が根底にあるのだと思います。
回れ回れ回れよ水ぐるま回れ、
回ってお日さん連れて来い。
わらべ唄にあるように、
何度も何度も一日は繰り返し、季節はめぐり、そして又繰り返してゆくけれど、
人は決してとどまっておらず移り変わりそして消えていく。
(けれどもそれはまた、新しい命が生まれてくるということでもあるのですが。)
その限りある人の世で、
精一杯に生きていく人々こそ美しいと、きっとかぐや姫は思ったのでしょう。
けれども、自分は異端者であり、決してその人々と同じ“生”を生きることはできない。
そのことがまた、彼女の孤独感、絶望感を深めているのです。
私は思うのです。
月の世界であのわらべ唄をうたっていたお姉さんは、
実はかぐや姫自身なのではないかと。
彼女は自分自身の未来を観ていたのです。
だって、それを傍で観ていたのでしょう、と?
天上の世界のことですから、それくらいの不思議があっても・・・。
人の世とは違って永遠の時が変わらずにあるその世界、
何の不足があって、地球などにあこがれるのか、懐かしむのか。
月においては、そういう感情はタブーなのかも。
けれどもかぐやにとっては、
地上の美しい山野や季節の移り変わり、そして人々の暮らしを
繰り返し思い出し、慈しまずにはいられない。
なんだかしんみりと色々な考えが巡ってきます。
非常に奥深い作品だったと思います。
また本作は女性史的見地から考えてみても、面白いと思うのです。
例えば、“女”となって初めて“名前”が与えられること、など。
・・・でも今回はこれくらいにしておきましょう。
さてところで、本作の初めのほうで、
しきりに故郷の山を思い出し、懐かしがるかぐや姫が
私には「アルプスの少女ハイジ」と重なってみえました。
アルプスの山を離れたハイジは、山を懐かしがるあまりに心を病んでしまうのですよね。
そこには非常にしつけに厳しいロッテンマイヤー女史がいたわけですが、
こちらにもちゃんと相模という家庭教師兼お目付け役がいます。
このあたり、高畑監督はきっと、ハイジを意識していたと思います。
また、かぐや姫に求婚する貴公子たち、
これがそれぞれの声を務めた俳優さん達によく似ていました。
これは声を先にとって、その声に基づいた画を描くという
「プレスコ」の手法のなせる技。
そのため、2012年6月に他界された地井武男さんが翁の声で出演
という奇跡的な出来事も起こります。
そして、赤ちゃんの本当に赤ちゃんらしい動き、仕草が素晴らしく可愛らしい!!。
寝返りもやっとの赤ちゃんが
おすわりをして、ずり歩きをして、立ち上がって、歩き出す
・・・そういうイベント的な出来事が
次から次へとあっという間に起こる。
その瞬間をこんなにたくさん一度に見られるなんて、
なんて幸せ。
実際に赤ちゃんがこんなに早く成長してくれたら楽なんですけどね~。
「かぐや姫の物語」
2013年/日本/
監督:高畑勲
出演(声):朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子、高畑淳子、立川志の輔、川上隆也、伊集院光、宇崎竜童
日本度★★★★★
満足度★★★★★
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このアニメを見終わって、
さて、これは一体どういう物語だったのだろう、と思いました。
ストーリーは誰もが知るあの「竹取物語」そのもの。
竹から生まれたかぐや姫が美しく成長し、
多くの貴公子から求婚されるけれども、結婚を拒み、
やがて月の世界へ帰っていくという。
ただし、高畑監督が8年50億円を費やして描きたかった物語は
ただ古典のストーリーをなぞるというだけのはずがありません。
しかしまあ、はじめから答えはこのポスターに大きくでていたわけです。
「姫の犯した罪と罰」そう、そのことです。
さて、かぐや姫は一体何のタブーを犯してここへきて、
どうやってその罪を贖うことになるのか。
罪については作中でもさらりと触れられていました。
月の世界で、「地球に憧れたこと」への罰として、
地球に降ろされたと彼女は言っていませんでしたっけ?
しかし、お祖父さんお祖母さんと共に暮らした
山の春から秋にかけては、
かぐや姫にとって至福の時でした。
美しい自然。
大好きなお祖父さんお祖母さん。
近所の子供達と野山を駆け回り、
捨丸兄さんにちょっぴり憧れる。
ところが、都へ出てきてかぐや姫の生活は一転します。
広く豪華なお屋敷に、美しい着物。
けれど何も思い通りにならない窮屈な暮らし。
ある時“女のしるし”を見てからは、
何一つ心の底から楽しいと思えることもありません。
至福の時はあまりにも短く、残りは辛いことばかりだ。
時は流れる。
人の心を置き去りにして、どんどん時は流れてしまう。
あっという間に、あの楽しかった日々は過去のものとなり、
そして、たとえその故郷の山に帰ってみても、
懐かしい人々はいなくて、見知らぬ人が暮らしているばかり。
あの美しくきらめいていた日々には、どんなに帰りたくても帰れない。
そうした絶望を彼女が味わう事こそが
“罰”だったのではないでしょうか。
人は泣いたり笑ったりしながら短い一生を終える。
そう、おそらくは月の世界(=天上)から見れば、
人の世は常に移り変わっていく、なんともはかないうたかたにすぎないのでしょう。
そういう無常観が根底にあるのだと思います。
回れ回れ回れよ水ぐるま回れ、
回ってお日さん連れて来い。
わらべ唄にあるように、
何度も何度も一日は繰り返し、季節はめぐり、そして又繰り返してゆくけれど、
人は決してとどまっておらず移り変わりそして消えていく。
(けれどもそれはまた、新しい命が生まれてくるということでもあるのですが。)
その限りある人の世で、
精一杯に生きていく人々こそ美しいと、きっとかぐや姫は思ったのでしょう。
けれども、自分は異端者であり、決してその人々と同じ“生”を生きることはできない。
そのことがまた、彼女の孤独感、絶望感を深めているのです。
私は思うのです。
月の世界であのわらべ唄をうたっていたお姉さんは、
実はかぐや姫自身なのではないかと。
彼女は自分自身の未来を観ていたのです。
だって、それを傍で観ていたのでしょう、と?
天上の世界のことですから、それくらいの不思議があっても・・・。
人の世とは違って永遠の時が変わらずにあるその世界、
何の不足があって、地球などにあこがれるのか、懐かしむのか。
月においては、そういう感情はタブーなのかも。
けれどもかぐやにとっては、
地上の美しい山野や季節の移り変わり、そして人々の暮らしを
繰り返し思い出し、慈しまずにはいられない。
なんだかしんみりと色々な考えが巡ってきます。
非常に奥深い作品だったと思います。
また本作は女性史的見地から考えてみても、面白いと思うのです。
例えば、“女”となって初めて“名前”が与えられること、など。
・・・でも今回はこれくらいにしておきましょう。
さてところで、本作の初めのほうで、
しきりに故郷の山を思い出し、懐かしがるかぐや姫が
私には「アルプスの少女ハイジ」と重なってみえました。
アルプスの山を離れたハイジは、山を懐かしがるあまりに心を病んでしまうのですよね。
そこには非常にしつけに厳しいロッテンマイヤー女史がいたわけですが、
こちらにもちゃんと相模という家庭教師兼お目付け役がいます。
このあたり、高畑監督はきっと、ハイジを意識していたと思います。
また、かぐや姫に求婚する貴公子たち、
これがそれぞれの声を務めた俳優さん達によく似ていました。
これは声を先にとって、その声に基づいた画を描くという
「プレスコ」の手法のなせる技。
そのため、2012年6月に他界された地井武男さんが翁の声で出演
という奇跡的な出来事も起こります。
そして、赤ちゃんの本当に赤ちゃんらしい動き、仕草が素晴らしく可愛らしい!!。
寝返りもやっとの赤ちゃんが
おすわりをして、ずり歩きをして、立ち上がって、歩き出す
・・・そういうイベント的な出来事が
次から次へとあっという間に起こる。
その瞬間をこんなにたくさん一度に見られるなんて、
なんて幸せ。
実際に赤ちゃんがこんなに早く成長してくれたら楽なんですけどね~。
「かぐや姫の物語」
2013年/日本/
監督:高畑勲
出演(声):朝倉あき、高良健吾、地井武男、宮本信子、高畑淳子、立川志の輔、川上隆也、伊集院光、宇崎竜童
日本度★★★★★
満足度★★★★★