映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

海と大陸

2013年12月03日 | 映画(あ行)
くっきりと浮かび上がる明暗



* * * * * * * * * *

地中海に浮かぶ小さな島リノーサ島。
かつては漁業で栄えたのですが、今は寂れています。
それでも、夏は観光客で賑わいを見せている。
この島で暮らす20歳の青年フィリポ。
父を海で亡くしています。
伝統の漁業を続けようとする祖父。
漁業から手を引き、観光で稼いでいる叔父。
本土で新生活を始めたい母。
フィリポは三者それぞれの合間で、気持ちが定まりません。

陽光の降り注ぐ地中海の島で、
これは一人の青年の自立と家族愛の物語かと思ったのですが、
その前に、もっと大きな問題が立ちふさがります。



ある時、祖父と漁に出ていたフィリポは
アフリカからの難民を乗せたボートを発見します。
その中の、幼い息子を連れ妊娠している女性を匿うことになってしまいました。
「いまどきの規則はどうだか知らないが、溺れているものを見捨てることはできない。」
そういう祖父の持論のためです。
しかし、このことがフィリポの身の回りに色々な波紋を広げていきます。



イタリアの離島に流れ着くアフリカの難民。
日本で暮らす私達にはピンときませんが、
改めて地図を見ると、確かにアフリカの北部から船を漕ぎだすと、
この辺りが近いのですね。
着の身着のまま、ろくな食料もなく小さく頼りなげなボートで
命がけでアフリカを脱出してくる。
生まれ育った土地からそうまでして脱出しなければならない国の事情
ということを考えると恐ろしいくらいです。
そうして、命からがら上陸できたとしても、密入国の犯罪者扱い。
一方、この島を訪れる観光客たちのなんと豊かで平和なこと・・・。
ちょうど、観光客たちが船の上で総立ちで踊るシーンがあるのですが、
その姿と難民が助けを求めてボートの上で立ち上がり手を振る姿が重なります。

現象は同じでも天と地ほどに異なる事情。
双方を迎える「島」の両面性を考えずにいられません。


お母さんっ子で、見るからに“ぼっちゃん”だったフィリポですが、
この難民の問題に正面から立ち向かわざるをえない体験を経て、
大きく変わっていくのでした。
まぶしいくらいの太陽の光は、そこに落とす影をより濃くします。
その明暗をくっきり分けた映像も美しいのですが、
島に現れる明暗、つまり観光客と難民の明暗も見事に描き出されていたのでした。
この小さな美しい島で、凝縮された世界の矛盾を観たような気がします。

海と大陸 [DVD]
フィリッポ・プチッロ
角川書店



「海と大陸」
2011年/イタリア・フランス/93分
監督:エマヌエーレ・クリアレーゼ
出演:フィリッポ・プチッロ、ドナテッラ・フィノッキアーロ、ミンモ・クティッキョ、ジョゼッペ・フィオレッロ

世界の矛盾を問う★★★★☆
青年の成長度★★★★☆
満足度★★★★☆