映画と本の『たんぽぽ館』

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「最終講義 生き延びるための七講」内田樹

2015年07月24日 | 本(解説)
特異な視点に感嘆させられる

最終講義 生き延びるための七講 (文春文庫)
内田 樹
文藝春秋


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今そこにある現実に対して、手持ちの人と情報と時間で対処しなければならない時、
もっとも有効な方法とは何か?
福沢諭吉の私塾に見る学びの本質から、映画『七人の侍』に学ぶ組織のあり方まで、
世界の眺望が一変する言葉の贈り物。
神戸女学院大学退官の際の「最終講義」を含む、
著者初の講演集がついに文庫化。


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内田樹さんの「講演」をまとめたものですが、
これがさすがに分りやすい!! 
何よりも他の人と違う視点からの発想が驚きに満ちていて
そして説得力に満ちているので、唸らされることしきりです。


特に私のように地方に住んでいるものには、
直接内田先生のお話を聞くなどという機会は殆ど無く、
大変貴重な本だと思います。
神戸女学院大学退官の際の「最終講義」を含めて7講。


私が一番気になったのは「教育」に関することです。
今の教育は「商品」化している。
教育を受けるもの=消費者で、
そのニーズにそって学校は教えるべき内容を用意する。
消費者は商品を買うわけだから、つまりその代金を払った対価を求める。
つまりいい成績を修めていい学校に進学し、
いい職について、高い生涯賃金を受け取る。
今それがあたり前のようになってしまっているけれど、
でも「教育」は商品ではない。
商品ではいけない、と氏は言います。
私はこんなことを教えるよ。
うちではこんなことを教えるぞ・・・と、
何かを教えたい人がいて、なんとなく引き寄せられてくる人がいる。
それがそもそも学校の始まりなのではないかと。
そうして教える側と教えられる側の相互交流があって、
新しい何かが始まるのではないかというのです。
ところが、教育が商品化した今となっては
ニーズの少ない講義がどんどんなくなっていって、
どこの大学も同じになってしまっている。


私、先日ニュースで見たのですが、
大学の「文学部」や「経済学部」を失くす動きがあるのだとか。
それよりももっと企業にとって即戦力になる内容を教えるべき、
ということのようなのです。
それってつまり、もう高校生の時から自分の進むべき職業を決めなければならないってことでしょうか。
大学は、何の役に立つのか分からないけれど『学ぶ』ということができるせっかくの場なのに・・・。
そもそも「学ぶ」とは実生活に直接役に立つようなことではないような気がします。
けれどもそれがなくなってしまったら、
世の中あまりにもギチギチして窮屈ではありませんか・・・。


それからこの文庫版の付録として
「共生する作法」という講演が最後に収められているのですが、
これがまた、どこをとっても意義の大きい内容で、
ここの部分だけ立ち読みでもいいので読むべきです!!
そこではまた教育は個人のためにあるのではなく、
社会のためにあるのだと言う論が繰り広げられます。
そしてまた、日本の対米従属について。
安倍首相のやり方についての苦言も多々。
本講義の時期的なことから「集団的自衛権の行使」についても触れられていますが、
つまりは安保法案に関しても参考になります。


いつか機会があったらぜひ直接お話を聞いてみたいと切に思います。


「最終講義 生き延びるための七講」内田樹 文春文庫
言葉の力度★★★★★
満足度★★★★★