海よりも深く人を好きになったことなんかないから、生きていける

* * * * * * * * * *
阿部寛さんのダメ男ぶりと、樹木希林さんの生活感たっぷりのお母さんぶり。
これを楽しみに見た作品ですが、やはり期待は裏切られませんでした!
15年前に文学賞を受賞したものの、その後は売れず、
作家として成功する夢を追い続ける中年男・良多(阿部寛)。

生活のため探偵事務所で働いていますが、
それも「小説の取材」というふうに自分にも周りにも言い訳をしています。
しかしそうして僅かに稼いだお金も、博打で使い果たして、いつもお金がない。
そんな彼に愛想を尽かした妻・響子(真木よう子)とは離婚。
一人息子も妻と共に暮らしています。

しかし良多はその養育費すらも滞りがち。
どうしてもお金が足りない彼は、ちょっぴりマズい手段で稼いだりもするのですが・・・
ここまで来ると、本当にダメな奴!と思ってしまいますね。
そんな彼の実家は、父親が亡くなったばかりで、
老いた母(樹木希林)が古い団地で一人住まい。

良多と父親はあまり反りが合わなかったようなのですが、
でも父は今の良多とそっくりで博打好き。
母は、父の散財にいつも苦しめられていたので、
「今は何の心配もなく幸せ」といいます。
実際それはやせ我慢ではなくて、本当にそのように見受けられます。
ある日その母のもとに、良多と響子、息子の慎吾が行き合わせるのですが、
台風で帰れなくなり、一晩をともに過ごすことになります。
今は別々に住む、元家族たち。
外の嵐とは裏腹に、意外にも穏やかな時が・・・。

同じ是枝監督の「歩いても歩いても」は、
いしだあゆみさんの曲からの引用がされていましたが、
本作ではテレサ・テンさんの「別れの予感」の中の歌詞
「海よりもまだ深く」が引用されています。
どちらも私には馴染み深い昭和の歌謡曲。
「海よりも深く人を好きになったことなんてないから生きていける」
と、母はいいます。
なかなか思い通りにならない人生。
でも人や物への執着を捨てれば、
もう少し楽に生きられるよ・・・と、いうことなんですね。
小説家への夢、妻のこと、息子のこと。
執着しまくりの良多ですが、
確かに何もかも手に入れようという気持ちを少しでも肩から下ろせば、楽になりそうです。

本作中で、なにか大きな事件があったりはしないのですが、
不思議にラストに充足感があります。
嵐の一夜をともにして、ちょっぴり互いの思いを実際に口に出して話す時、
いつもなら反感で素直に聞けない言葉も、じんわりと胸にしみるようでした。
ラストで良多が今後の決意を語ったりもしませんが、
なんとなくそれも伝わる、再生の朝。
ステキです。
樹木希林さん演じる“母”の、説教臭さの全くない自然の語りがやっぱりいいですよね。
はがきに貼る切手をペロペロ舐めてみたりする生活感が、なんともいえません。
カルピスをコップに入れてそのまま凍らせたものを、ガジガジ削りながら食べる。
ここの家では子供たちが小さい時から
夏にはこんな風にカルピスのアイスを食べていたのだろうなあ・・・
と思わせるステキなエピソードでした。
「海よりもまだ深く」
2016年/日本/117分
監督・脚本:是枝裕和
出演:阿部寛、真木よう子、樹木希林、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮
人生の気付き度★★★★☆
生活感★★★★☆
満足度★★★★★

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阿部寛さんのダメ男ぶりと、樹木希林さんの生活感たっぷりのお母さんぶり。
これを楽しみに見た作品ですが、やはり期待は裏切られませんでした!
15年前に文学賞を受賞したものの、その後は売れず、
作家として成功する夢を追い続ける中年男・良多(阿部寛)。

生活のため探偵事務所で働いていますが、
それも「小説の取材」というふうに自分にも周りにも言い訳をしています。
しかしそうして僅かに稼いだお金も、博打で使い果たして、いつもお金がない。
そんな彼に愛想を尽かした妻・響子(真木よう子)とは離婚。
一人息子も妻と共に暮らしています。

しかし良多はその養育費すらも滞りがち。
どうしてもお金が足りない彼は、ちょっぴりマズい手段で稼いだりもするのですが・・・
ここまで来ると、本当にダメな奴!と思ってしまいますね。
そんな彼の実家は、父親が亡くなったばかりで、
老いた母(樹木希林)が古い団地で一人住まい。

良多と父親はあまり反りが合わなかったようなのですが、
でも父は今の良多とそっくりで博打好き。
母は、父の散財にいつも苦しめられていたので、
「今は何の心配もなく幸せ」といいます。
実際それはやせ我慢ではなくて、本当にそのように見受けられます。
ある日その母のもとに、良多と響子、息子の慎吾が行き合わせるのですが、
台風で帰れなくなり、一晩をともに過ごすことになります。
今は別々に住む、元家族たち。
外の嵐とは裏腹に、意外にも穏やかな時が・・・。

同じ是枝監督の「歩いても歩いても」は、
いしだあゆみさんの曲からの引用がされていましたが、
本作ではテレサ・テンさんの「別れの予感」の中の歌詞
「海よりもまだ深く」が引用されています。
どちらも私には馴染み深い昭和の歌謡曲。
「海よりも深く人を好きになったことなんてないから生きていける」
と、母はいいます。
なかなか思い通りにならない人生。
でも人や物への執着を捨てれば、
もう少し楽に生きられるよ・・・と、いうことなんですね。
小説家への夢、妻のこと、息子のこと。
執着しまくりの良多ですが、
確かに何もかも手に入れようという気持ちを少しでも肩から下ろせば、楽になりそうです。

本作中で、なにか大きな事件があったりはしないのですが、
不思議にラストに充足感があります。
嵐の一夜をともにして、ちょっぴり互いの思いを実際に口に出して話す時、
いつもなら反感で素直に聞けない言葉も、じんわりと胸にしみるようでした。
ラストで良多が今後の決意を語ったりもしませんが、
なんとなくそれも伝わる、再生の朝。
ステキです。
樹木希林さん演じる“母”の、説教臭さの全くない自然の語りがやっぱりいいですよね。
はがきに貼る切手をペロペロ舐めてみたりする生活感が、なんともいえません。
カルピスをコップに入れてそのまま凍らせたものを、ガジガジ削りながら食べる。
ここの家では子供たちが小さい時から
夏にはこんな風にカルピスのアイスを食べていたのだろうなあ・・・
と思わせるステキなエピソードでした。
「海よりもまだ深く」
2016年/日本/117分
監督・脚本:是枝裕和
出演:阿部寛、真木よう子、樹木希林、小林聡美、リリー・フランキー、池松壮亮
人生の気付き度★★★★☆
生活感★★★★☆
満足度★★★★★