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「安達ケ原の鬼密室」歌野晶午

2016年06月03日 | 本(ミステリ)
一流の謎に加えて構成の妙

安達ヶ原の鬼密室 (祥伝社文庫)
歌野 晶午
祥伝社


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太平洋戦争末期、疎開先から逃げ出した梶原兵吾少年は、
一人の老婆が留守を預かる不思議な屋敷で宿を借りることに。
その夜、二階の窓には恐ろしい"鬼"の姿が…。
やがて、虎の像にくわえられた死体が見つかり、屋敷に逗留していた者は次々に異様な死を遂げた
―(「安達ヶ原の鬼密室」)。
いくつもの謎と物語が交差する、著者ならではの仕掛け満載、興奮必至の傑作ミステリー!


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本作は祥伝社文庫としては出たばかりですが、
元は、2000年に講談社ノベルスとして出されたもの。
巻末の解説で千街晶之氏も述べていますが、
歌野晶午氏の、島田荘司の後継者たらんとする意気込みの感じられる作品です。
正に。


まず、本作の構成が面白いのです。
始めは短編集かと思ったのですが、違いました。
では長編かというと、そうとも言えないような。
言ってみれば、この一冊が一つの完成品。


冒頭は子供が登場する、短いストーリー。
大事なおもちゃを古い井戸に落としてしまって困っている。
でも話は途中でふっつりと途切れています。
その次はアメリカに留学している女の子のストーリー。
なんと車の中に突如死体が出現した!! 
しかし、これもまたクライマックスのところで、途切れてしまっています。


そして、本作のメインともいうべき謎。
本格ミステリの「館」モノで、鬼が登場し、
死体が累々と横たわる究極の「あり得ない」ストーリー。
が、もちろんそれは論理的にしっかり収束します。
ところがなんと、それすらも一旦中断し、もう一つの「謎」が提示されます。
しかし、つまりこの謎が中間地点。
ここで提示されることが、全体を貫く大きなヒントとなっているのです。
このあとは順番をさかのぼって、解決編へと雪崩れ込む。
見事に計算され尽くした配置。
しかも本当ならこれで幾つものストーリーができてしまうのに、
惜しげも無くまとめて一つとしてしまうという大胆さ。
「鬼密室」編は、正に「島田荘司」臭たっぷり。
・・・というと、著者は気を悪くされるでしょうか。
私はもともと島田荘司ファンなので、これはむしろ褒め言葉なのですが。
ということで、すごく楽しめた一冊。

「安達ケ原の鬼密室」歌野晶午 祥伝社文庫
満足度★★★★☆