映画と本の『たんぽぽ館』

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「潮鳴り」 葉室麟 

2016年06月19日 | 本(その他)
落ちた花が再び咲くとき

潮鳴り (祥伝社文庫)
葉室麟
祥伝社


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俊英と謳われた豊後羽根藩の伊吹櫂蔵は、役目をしくじりお役御免、
いまや"襤褸蔵"と呼ばれる無頼暮らし。
ある日、家督を譲った弟が切腹。
遺書から借銀を巡る藩の裏切りが原因と知る。
弟を救えなかった櫂蔵は、死の際まで己を苛む。
直後、なぜか藩から出仕を促された櫂蔵は、弟の無念を晴らすべく城に上がるが…。
"再起"を描く、『蜩ノ記』に続く羽根藩シリーズ第二弾!


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『蜩ノ記』に続く、葉室麟さんの羽根藩シリーズ第二弾ということですが、
直接の関係はないので、『蜩ノ記』を読んでない方でも大丈夫です。


伊吹櫂蔵は、ある役目のしくじりで弟に家督を譲り、
その後することもなくおんぼろの番屋に寝泊まりする毎日。
実家から多少の生活費をもらいますが、
博打であっという間に使い果たしてしまう体たらく。
人からは「襤褸(ぼろ)蔵」と呼ばれ蔑まれるまでに・・・。
そんなところへ、弟が訪ねてきます。
弟は父の後妻との間の子で、特別に親しいわけではありません。
何よりもその後妻である「母」が厳しい人なので、
だからこそ、櫂蔵は家にいられないのです。
弟は、家のものを多少売却することの許可を受けに来たのです。
そしてその見返りとして3両を置いていくのですが、
なんとその翌日、弟が切腹をしたとの知らせが入る。
せっかくの3両も、いつものようにあっという間に博打で使い果たしてしまった櫂蔵は
激しく後悔しますが・・・。
亡き弟に替わり藩に出仕することになった櫂蔵は、
弟の切腹の裏の事情を探っていきます。
ある豪商と癒着した上役の汚職・・・。


襤褸蔵とまで呼ばれた櫂蔵の高潔な決意と再生。
彼の真をみて、協力していくようになる周りの人々。
彼と心を通わせた女性・お芳の悲しい一節もありますが、
清々しい思いに満たされる一作。


櫂蔵は、下手をすれば弟と同様、
切腹に追い込まれるような危ない立場にもあったのですが、
彼は絶対に切腹はしない、と決意します。
襤褸蔵と呼ばれた時代、それは彼にとって死んだも同然のとき。
落ちた花を再び咲かせようと思ったからには、切腹などできないのです。
『蜩ノ記』の、「死を前提とした生」とは対局と言えましょう。
私は、こちらのほうが好きかも。

「潮鳴り」葉室麟 祥伝社文庫
満足度★★★★★