東京會舘に関わった人たちが紡ぐ物語
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東京會舘とわたし 上 旧館 (文春文庫) |
辻村 深月 | |
文藝春秋 |
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大正十一年、社交の殿堂として丸の内に創業。
東京會舘は訪れる客や従業員に寄り添いつつ、その人の数だけ物語を紡いできた。
記憶に残る戦前のクラシック演奏会、戦中の結婚披露宴、
戦後に誕生したオリジナルカクテル、クッキングスクールの開校―。
震災や空襲、GHQの接収など荒波を経て、激動の昭和を見続けた建物の物語。
(上 旧館)
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非東京居住者である私は「東京會舘」と聞いてもよくわからなかったのですが、
古くから東京にお住まいの方なら、何かしら思い入れのある場所のようです。
本作を読んで、とても興味を持ちました。
大正11年、創業したばかりの東京會舘はその年に関東大震災に遭遇します。
全壊は免れたものの、大部分を修復しなければならず、早々に一時休業となってしまう・・・。
創業の年から始まる本巻には、時代を追いながら
大正12年~昭和39年までの5つの物語が収められています。
東京會舘はホテルではなく、結婚披露宴や会合の行われる施設。
レストランやバーなどもあり、ここで働いたり、利用したり、
様々な立場の膨大な人々が関わったことでしょう。
それをある時期で区切って、その時々で関わった人が主役です。
それぞれの東京會舘への思いがあふれます。
例えば第一章では東京會舘の隣、帝国劇場で行われた
クライスラーのピアノコンサートで深い感銘を受けた人が、
劇場と東京會舘をつなぐ地下通路で偶然にクライスラーと出会うことができた。
まだ真新しくきらびやかなこの場所にいるだけでもまぶしいことなのに、何という僥倖。
人生が変わるほどの・・・。
第4章は、バーで新米の頃からベテランとして頼りにされるまでを務める、桝野のこと。
戦後進駐軍の施設として活用された会館で、米兵相手のバーでの勤めが始まったのでした・・・。
第5章では、東京會舘で売る土産物用の洋菓子を開発するお話。
早速ネットで調べたら、いまもちゃんとその頃に開発されたお菓子が、
そのままではないにしても継承されて売られているのですね。
もちろん今では洋菓子などどこにでもありますが、草分けの苦労は尊重します。
今度東京へ行くことがあったら、絶対にそれを買ってこよう!!
東京會舘の歴史は日本の現代史でもあるわけです。
それこそ、大河ドラマにでもできそうな・・・。
早速続きの下巻を読みます!
「東京會舘とわたし 上」辻村深月 文春文庫
満足度★★★★.5