映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

MINAMATA ミナマタ

2021年09月27日 | 映画(ま行)

日本の片隅の苦しみを世界へ発信した男

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水俣病の存在を世界に知らしめた写真家、
ユージン・スミスとアイリーン・美緒子・スミス夫妻の写真集「MINAMATA」を
題材としたストーリー。

奇人変人でない役のジョニー・デップを待っていましたので、さっそく見ました!

1970年代。
かつてアメリカを代表する写真家と称えられたユージン・スミス(ジョニー・デップ)ですが、
今は落ちぶれて、酒に溺れる日々。
そんな彼の元に、アイリーン(美波)と名乗る女性が訪れます。
彼女は熊本県水俣市のチッソ工場が海に流す有害物質によって
苦しんでいる人々を撮影して欲しいという依頼をしに来たのでした。

それを受け、水俣にやって来たユージンは思いも寄らないものを見ることになります。
歩くことも出来ない子どもたち、
激化する抗議運動、
力で押さえ込もうとする工場側・・・。

水俣病のことはもちろん知っていたわけですが、
LIFE誌にのったユージン・スミスの写真でこの問題を世界中が知ることになり、
そしてようやく企業や国が重い腰を上げて対策に本腰を入れはじめた・・・
ということを初めて知りました。

ユージンが水俣を訪れた始めの頃は、
人々は症状の重い子供を見せることはもちろん、写真を撮ることも拒んだのです。
それは日本独特の「恥」の感情なんですね。
こんな子供を人様に見せられない・・・と。
悲しいことですが、それは理解できてしまうのです。
50年を経たこの日本でも・・・。
そしてまた、もしこの公害のことが大きく広まってしまったら、
この地域の労働者を支える工場も、水産業もダメになってしまう。
一方、有害物質に体を冒された人は大変な苦しみ背負い、命を奪われ、
そして、生まれた子どもたちは歩くことも人前に出ることもかなわず・・・。
住民の心もあちらとこちらで引き裂かれてしまっているのです。

なんとも単純には語れない話。

さて、ユージンは実はそれ以前に日本を訪れたことがあるのです。
それは太平洋戦争末期の沖縄。
その悲惨な戦争を彼は撮った。
それだから、アイリーンは彼に水俣を撮って欲しかったわけですが、
ユージンはその時のことがトラウマとして残っていて、
もう二度と日本には行かないと思っていたのでした。

彼は「昔は写真に写ると魂を吸い取られると、いわれたものだ。
だけれども、実は撮る方も魂を吸い取られるんだ」と言います。

ユージンは沖縄で心をすっかり吸い取られ尽くしてしまった、
と、そう感じていたのでしょう。
だけれども、また再び、この悲惨な病のことを世界に知らせなければ、
という思いに駆られていくのです。

 

ガッツリと重いテーマながら、ジョニー・デップの奥底にある愛嬌が
深刻さを少し救っています。
結局の所、何かへの信念や執着心を持つ役柄を演じることになるので、
奇人とまでは行かないまでもやはり「変人」っぽくなってしまう、
ジョニー・デップであります。

日本人の出演者もピカイチ。
是非とも見るべき価値のある一作。

 

<サツゲキにて>

「MINAMATA ミナマタ」

2020年/アメリカ/115分

監督:アンドリュー・レビタス

出演:ジョニー・デップ、ビル・ナイ、真田広之、國村隼、美波、加瀬亮、浅野忠信

 

歴史発掘度★★★★★

闘争度★★★★☆

満足度★★★★☆