セルフネグレクトに陥らないように
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78歳の忍ハナは、60代まではまったく身の回りをかまわなかった。
だがある日、実年齢より上に見られて目が覚める。
「人は中身よりまず外見を磨かねば」と。
仲のいい夫と経営してきた酒屋は息子夫婦に譲っているが、
問題は息子の嫁である。
自分に手をかけず、貧乏くさくて人前に出せたものではない。
それだけが不満の幸せな老後だ。
ところが夫が倒れたことから、思いがけない裏を知ることになる――。
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主人公は78歳、忍ハナ。
夫と営んでいた酒屋は息子に譲り、夫と2人で悠々自適のマンション暮らし。
彼女はいかにも年寄り臭い格好をすることを自らに禁じており、
しっかりメイクをして幾分ハデ目の服装でいつも決めています。
そんな妻を夫は褒め、「ハナは自分の宝だ」などという・・・。
さて、そんな夫がある日突然死。
夫の残した遺言状で家族は凍り付いた!
なんと、夫には愛人がいて、息子も一人いるという。
しかもその関係は40年近く続いていたことになる・・・。
思いも寄らない夫の秘密暴露に、
驚き、あきれ、そして怒りが込み揚げるハナ・・・。
ということで、このあとハナがどのように心を落ち着けて、
生きていこうという気持ちを取り戻していくのか、という物語になります。
本作、内館牧子氏の最近作。
本当にこのストーリーは若い人には書けないだろうと思いました。
いかにも、高齢者であればこそ、実感するところが多々。
彼女は、老人が「すぐ死ぬんだから」などといって、
何もかも諦めてしまってはいけないといいます。
その言葉を免罪符にして、自分を磨くことを怠るべきではない、と。
「すぐ死ぬんだから」と、自分に手をかけず、外見を放りっぱなしという生き方は、
「セルフネグレクト」だと。
セルフネグレクト、すなわち自分で自分を放棄すること。
いくつになっても生きる意欲・気力を失わないための第一原則として、
セルフネグレクトに陥らないよう、頑張らなくては・・・と思う次第。
それにしても、終盤でハナは思うのです。
「先は長い。先はないのにだ。」
このハナの思いは完全に今の私につながっていて、
思わず本を読みながら頷いてしまいました。
どんどん寿命が延びて女性ならほとんど90歳くらいまで生きなければならないのに、
何にもするべきことがない・・・。
はてさて・・・と、考えてしまうこの頃。
本作で、ハナさんのやるべきことが見つかったのが、つくづくうらやましいです。
いろいろな意味で刺激的な作品でした。
<図書館蔵書にて >(単行本)
「すぐ死ぬんだから」内館牧子 講談社
満足度★★★★★