虚と実
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山田風太郎の小説「八犬伝」を映画化したものです。
豪華キャストの大作。
おなじみ「南総里見八犬伝」のストーリーを追いながら、
それを描く作者・滝沢馬琴のことが描き出されていきます。
人気作家・滝沢馬琴(役所広司)のもとを、
ときおり友人の絵師・葛飾北斎(内野聖陽)が訪れます。
馬琴は構想中の新作小説について語り始めるのです。
里見家の呪いを解くため、8つの珠を持つ「八犬士」たちが
運命に導かれるように集結し、敵と戦っていく・・・。
そんな中で、小説とはまた別に、馬琴のひとり息子のことや妻のことが描き出されます。
なにしろ「八犬伝」は書き始めてから完結するまでに28年を要しているのです。
その間、もちろん馬琴自身も歳をとるけれど、
妻のこと、息子のことも様子が変わっていきます。
馬琴の書く小説にはまったく興味を示さず、いつも文句ばかりを投げつける妻(寺島しのぶ)。
父を尊敬する真面目な息子(磯村勇斗)。
馬琴は息子を医者にしたいと考えているのですが・・・。
そしてまた、小説の「虚」と「実」についてのことも、掘り下げていきます。
馬琴は勧善懲悪を胸として、「正義は勝つ」結末を常に用意します。
でもある時彼は、鶴屋南北(立川談春)の怪談の舞台を見に行って衝撃を受けるのです。
いつも正しいことだけが勝つというのは、
それこそが「虚」ではないかと、南北は言う。
作中で、南北は舞台の奈落にいる馬琴を終始上から見おろすような形で話をするのです。
それこそが怪談めいているようで、どこか馬琴の平衡感覚を乱すようでもあり、
すごく練られたシーンでしたね。
そこは原作でもそうなっているのかどうか、ちょっと確かめてみたくなりました。
自分はこれまで人に迷惑をかけるでもなく、よい人間であったと思うけれど、
息子のことや自分の目のこと・・・不幸ばかりがつづく。
正しいことが勝つというのはやはり「虚」にしか過ぎないのか・・・、
晩年になってからそのようなことに思いを馳せてしまうのが、
なんとももの悲しいのですが・・・。
そして終盤では、馬琴の視力が失われてしまうのですが、
そんな絶望的状況に陥りながらも、物語を完成させることに執念を燃やす。
これぞ物書きというものでありましょう。
八犬伝の物語パートの方も面白いですよ。
私はやはり冒頭の、伏姫と魔犬・八房の下りが好きです。
八犬士たちの戦うシーンも迫力があってスバラシイ。
堪能しました。
<シネマフロンティアにて>
「八犬伝」
2024年/日本/149分
監督・脚本:曽利文彦
原作:山田風太郎
出演:役所広司、内野聖陽、磯村勇斗、寺島しのぶ、黒木華、立川談春、土屋太鳳、
渡邊圭祐、板垣李光人、水上恒司、河合優実、栗山千明
八犬伝再現度★★★★☆
虚実を考える度★★★★☆
満足度★★★★☆