映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「チーズと塩と豆と」 角田光代他

2013年12月21日 | 本(その他)
生まれ育った故郷の食・食の文化

チーズと塩と豆と (集英社文庫)
角田 光代,江國 香織,森 絵都,井上 荒野
集英社


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あたたかな一皿が、誰かと食卓で分かちあう時間が、
血となり肉となり人生を形づくることがある。
料理人の父に反発し故郷を出た娘。
意識の戻らない夫のために同じ料理を作り続ける妻。
生きるための食事しか認めない家に育った青年。
愛しあいながらすれ違う恋人たちの晩餐―。
4人の直木賞作家がヨーロッパの国々を訪れて描く、愛と味覚のアンソロジー。
味わい深くいとおしい、珠玉の作品集。


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本作、アンソロジーですが
著者が角田光代、井上荒野、森絵都、江國香織という豪華陣。
しかも題材がヨーロッパの食と愛。
なんてオシャレで、豪華な・・・。
まずはこのアンソロジーの企画を立てた方に拍手!!
いま、オシャレと表現しましたが、
ここに出てくるのは高級なフレンチなどではありません。
その土地に根付いた、その地域独特の、古くから人々が慣れ親しんだ食。
その雰囲気をこの本の題名「チーズと塩と豆と」が見事に表しているのにも又、感嘆してしまいます。
収録されたどの短編の題名でもないのに。


私が最も好きなのは角田光代「神さまの庭」
スペインのバスク地方。
料理人の父に反発し、故郷を出た娘が都会で奔放に生きながら、
いつしか父と同じことを身につけ、仕事にしていくというストーリー。
その実現の仕方はとても時代を反映してもいて、
このたくましい女性の生き方に共感してしまいます。
彼女が根っこに持っていたのは、やはり生まれ育った故郷の食。食の文化。
日本人が描いてもちゃんとスペインの空気感がでている、
というのは当然かもしれないけれど、
やはり著者の力量がものを言っていると感じました。
本巻の、どの短編でもいえることですが。


それから森絵都「プレノワール」は、フランスのブルターニュ地方が舞台で、
ここには「黒麦のしょっぱいクレープ」というのが登場します。
主人公はこれを古臭いつまらない料理と思い、やはり故郷を離れるのですが・・・。
実はこの「黒麦」というのは、
麦の仲間ではなく、ソバの事だったのですね。
フランスのブルターニュでソバに出会うとは思っていませんでした。
鮮烈です。
何やら遠い昔の人々の暮らしにまで思いを馳せてしまう、素敵な作品でした。


「チーズと塩と豆と」 角田光代他 集英社文庫
満足度★★★★★


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