恐るべき精神病者収容所
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18世紀英国。
愛弟子エドらを失った解剖医ダニエルが失意の日々を送る一方、
暇になった弟子のアルたちは盲目の判事の要請で
犯罪防止のための新聞を作っていた。
ある日、身元不明の屍体の情報を求める広告依頼が舞い込む。
屍体の胸には“ベツレヘムの子よ、よみがえれ!
アルモニカ・ディアボリカ”と謎の暗号が。
それは、彼らを過去へと繋ぐ恐るべき事件の幕開けだった。
『開かせていただき光栄です』続篇。
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皆川博子さん「開かせていただき光栄です」の続編です。
前作から5年ほどが過ぎて、
盲目の治安判事、ジョン・フィールディングや
解剖学をまい進するダニエル師も健在です。
ダニエルの弟子たちアル・ベン・クラレンスは、
ジョン判事のもと、犯罪摘発情報新聞の発行に携わり、
そして彼らの友人ネイサンも協力している、といったところです。
彼らの中で、前作の最後に姿を消したエドとナイジェルへの喪失感がようやく癒えてきた頃。
そんなところに、ナイジェルの死を表わしているかのような
不可思議な呼びかけを目にするのです・・・。
本作、前作では触れられていなかったナイジェルの出自の謎が明かされていきます。
前作では「刑務所」の恐るべき実態が表わされていたのですが、
本作では「精神病院」について。
いえ、精神病院ではありませんね。
精神病者収容所というべき場所です。
一度入るともうほとんど出ることはかなわない・・・。
精神的に問題のない人物でも権力者の思惑一つで、
閉じ込められ恐ろしい拷問のような「懲罰」を受けたりする・・・。
“人権”などと言う発想のない時代の話・・・。
あ、お金のある人にだけ人権はあるようですが。
それと本巻の解説を読んで初めて知りましたが、
本作の登場人物の何人かは実在の人物で、
刑務所や精神病院内の話についても史実に基づいているとのことで、
歴史上の事実とフィクションを見事に絡ませた作品なのでした。
本題の「アルモニカ・ディアボリカ」というのは「悪魔の楽器」と言った意味。
ワイングラスに水を入れて指でこすって音を出し、
メロディを奏でることができるのはご存じかと思います。
そのような現象を利用したガラスの楽器。
これは本作中にあるとおり、ベンジャミン・フランクリンが発明したものだそうで・・・。
とても繊細なメロディを奏でそうですね。
聞いてみたい。
ちょうど時代は、植民地であるアメリカで、
イギリスに対して暴動が起こっているというあたり。
とにかく何もかもが興味深く、するすると読み進んでしまいました。
「アルモニカ・ディアボリカ」皆川博子 ハヤカワ文庫
満足度★★★★.5
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