映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「サラバ! 上・下」西加奈子

2018年08月17日 | 本(その他)

あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない

サラバ! 上
西 加奈子
小学館

 

サラバ! 下
西 加奈子
小学館

 

* * * * * * * * * *

1977年5月、圷歩は、イランで生まれた。
父の海外赴任先だ。
チャーミングな母、変わり者の姉も一緒だった。
イラン革命のあと、しばらく大阪に住んだ彼は小学生になり、今度はエジプトへ向かう。
後の人生に大きな影響を与える、ある出来事が待ち受けている事も知らずに―。(上)

父の出家。母の再婚。
サトラコヲモンサマ解体後、世間の耳目を集めてしまった姉の問題行動。
大人になった歩にも、異変は起こり続けた。
甘え、嫉妬、狡猾さと自己愛の檻に囚われていた彼は、心のなかで叫んだ。
お前は、いったい、誰なんだ。(下)

* * * * * * * * * *

直木賞受賞作。
以前から読みたいと思っていたのものを、このたびようやく読むことができました。
圷(あくつ)歩が自身の半生を語るというストーリーです。

海外赴任の多い父の仕事のため、歩はイランで生まれます。
父母と姉がいる4人家族。
イランから帰国の後しばらくしてエジプトへ。
そしてまた大阪へと一家は移り住んでいきます。
海外にいるときはそれなりに平和な家族。
しかし、日本に帰るなり、彼ら一家には大きな嵐が吹き荒れるのです。
それというのも、姉・貴子が変わり者というか、
幼いときには自分が気に入らないことには徹底して反抗。
長じても、あくまでも自分のやり方を貫くので、
学校ではいじめを受けやがて学校には行かなくなり、
ろくに食事も取らずにやせ細り、次第に不可解な宗教のようなものにはまっていく・・・。
そんな姉と母は徹底して反りが合わない。
母は母で、ひたすら身勝手でもあるので、
しまいにこの母と姉は互いを無視するようになっていきます。
歩はといえば、母と姉の諍いが恐ろしく、
ひたすら見ないように、口を挟まないようにしているのみ。
・・・まあそれも仕方のないことではあります。
そうすることが彼が自分の身を護る方法だったのだから・・・。
そして父親もひたすら我慢の人であったようなのですが、ついに離婚。
姉弟と母を残して家を出てしまいます。

歩の少年時代のことで特に印象に残るのが、エジプトでの出来事。
ほとんど一心同体と思えるほどの親友・ヤコブとの最後の別れの日。
別れがひたすら悲しく、泣きながらナイルの河畔に座る彼らは、信じられないものを見るのです。
しかしそんな出来事も、彼が帰国し、長じるとともに記憶の底に沈んでいきます。
大学を出てフリーのライターになる歩。
ところが彼はどんどんと人生を持ち崩していく。
こんなはずではなかった・・・、どうしてこんなことに・・・。
そんなときに彼に光を投げかけるのが、あの嫌い抜いた姉だったとは・・・。

この物語を読む途中では、これはなにかの「宗教」についての物語なのかと私は思いました。
でもそうではなかった。

「私は私を信じる。私が私でい続けたことを信じている」

「あなたが信じるものを、誰かに決めさせてはいけない」。

自己を肯定すること。
そのことにたどり着くまでの壮大なストーリーなのでした。
最後の方で、この家族がこんなふうになってしまった根幹の理由が明かされます。
誰が悪いというわけではない。
大きな心の傷を負いながらもなお生きていかなければならない私達。
この一家は、結局はそれぞれが影響を及ぼしながら三十数年をへてようやく一つになったような気がします。

なんとも力に溢れた作品。


図書館蔵書にて
「サラバ! 上・下」西加奈子 小学館
満足度★★★★★



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