映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「冠・婚・葬・祭」 中島京子

2012年04月11日 | 本(その他)
人と人とのつながり

冠・婚・葬・祭 (ちくま文庫)
中島 京子
筑摩書房


              * * * * * * * * * * 

中島京子さんの短篇集。
4篇からなるこの本は、
成人式、結婚、お葬式、お盆と、
日本人の心に根ざした大事な儀式に関わる一シーンをそれぞれ題材にしています。
でも、儀式そのものズバリではなくて、
例えば初めの「空に、ディアボロを高く」では、
ジャグリングなどのストリート・パフォーマンスに取り組む女性が、
成人式には出席せず、会場の前で中国ゴマ(ディアボロ)を披露しているという、そんなシーンが登場します。
成人式そのものではなく、青年が「大人になる」というのはどういうことなのか、
ストーリーを通じて語っているのです。
4作ともどれも好きで、どれをご紹介しようかと悩んでしまいますが・・・



「葬式ドライブ」
新米サラリーマン直之は、社命で、グループホームの"宇都宮さん"というおばあさんが、
あるお葬式に参列するためのお供をすることになります。
面倒な仕事を押し付けられてしまったと、直之は憂鬱だったのですが・・・。
その宇都宮さんは、せっかく出かけたものの、
誰のお葬式かもよくわかっているふうではなく、
直之が「ご親戚ですか?」と聞いても「知らないわ」と、そっけないのです。
お経も「嫌い」だというし、直之には何のためにおばあさんをここに連れてきたのか見当もつきません。
他の参列者も宇都宮さんのことは知らない様子。
けれど、周りの人の会話を漏れ聞くうちに、
直之には「宇都宮さん」の立場とこれまでの人生がおぼろげながら見えてくるのです。
それはとてもつらい出来事なのですが、
当の本人にはそういう自覚はなさそう、というのが、逆に救いのような気がしてきます。
宇都宮さんにとっては、そんなお葬式よりも、そこまでのドライブがとても気に入ったようなのでした。
直之にとってはたった一日の出来事。
けれど彼の人生観がちょっぴり変わる、大切な一日となるのです。
そんなささやかな宇都宮さんとの関わりですが、
その3ヶ月後、直之は宇都宮さん自身のお葬式に参列します。
グループホームでの本当に慎ましくささやかなお葬式。
お坊さんのお経もありません。
ただ、彼女のことを好きだったホームの職員が寄り添って、
棺の前で思い出を語り、「浜辺の歌」を歌う。
じんわりと心に残る作品でした。


さて、この4作はそれぞれ別の物語ですが、それぞれ、ほんの少し登場人物が重なり合っています。
人と人とのつながりの妙。
そんな意味もありそうですね。

「冠・婚・葬・祭」中島京子 ちくま文庫
満足度 ★★★★★



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