己が正しいと信じる道
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テレンス・マリック監督による実話に基づいたストーリー。
第二次世界大戦時、ドイツに併合されたオーストリア。
山と谷に囲まれた平和な美しい村で、フランツは妻と3人の娘たちと暮らしていました。
ところが、ヒトラーへの忠誠と兵役を拒んだために、収監されてしまいます。
フランツは妻から愛のこもった励ましの手紙を受け取りますが、
実はその妻も「裏切り者の妻」として村人から孤立し、ひどい仕打ちを受けているのでした。
そしてやがて、裁判が行われ・・・。
村の人々は皆親ナチス。
どうもドイツ政権下の方が暮らしが良くなったと思う人が多いようです。
フランツは長く軍事訓練も受けていたのですが、
その時に実際の「戦争」がどんなものなのか身をもって理解したのかもしれません。
それでいよいよドイツのために招集されそうだ、というときに兵役拒否を宣言。
ヒトラーへの忠誠心を表さなかったことで、村人から非国民と言われ、孤立していきます。
災いなどどこにもなさそうな、美しい村。
ここで、たった一人がヒトラーに忠誠を誓わなかろうが、戦争に行きたがらなかろうが、
誰も困らないですよね。
日々の農作業がきちんと進みさえすれば、これまでと同じ営みを続けることができる。
それなのに・・・、人の世、社会というのは
どうしてこうも面倒で理不尽で、そして時には残酷なのでしょう・・・。
それを知っているからこそ、本当はヒトラーについて疑問を抱く人も、
形だけでも「ハイル・ヒトラー!」と挨拶を交わすのです。
役人も、神父も、フランツには忠告します。
「信念はどうであっても、形だけでいいんだ。誰も気にしない。」
ところがフランツはどうしても自分を偽ることができない。
たとえそれが命に関わることになっても・・・。
映像は実に淡々と、主に彼と妻の手紙を読み上げながら続いていきます。
フランツが自己の主張を周囲に声高に述べたりはしません。
ただひたすら静かに自分の思いを貫くばかりです。
・・・それで気がつけば本作ほとんど3時間の長さ。
いや、でもそんなに長かったような気がしない・・・。
私はフランツの強さを、宗教をよりどころにする強さのように思いました。
形だけでもヒトラーに忠誠を誓う事を拒むのは
まるで、踏み絵を拒むキリシタンのようでもあり、
確実に死が待っているというのに屈しない姿は、
ゴルゴダの丘へ自ら歩むキリストのようでもある。
だからといって、キリスト教ではない人が見てピンと来ないかというとそうではありません。
「神」すなわち「己が正しいと信じるもの」とすれば、
誰にでも納得できるのではないでしょうか。
でも実話であるこの人物のことは、戦後になっても誰もヒーローとして取り上げもしなかった。
この度たまたまこのような映画化で、知られることになったわけですが・・・。
まさに、「名もなき生涯」。
強くて、美しいです。
でも夫の信じるものを認め、それを支え続けた奥さんもすごいです・・・。
愛だなあ。
「あんた、もういい加減にしなさい。」私なら絶対言う。
<J:COMオンデマンドにて>
「名もなき生涯」
2019年/アメリカ・ドイツ/175分
監督:テレンス・マリック
出演:アウグスト・ディール、バレリー・パフナー、マリア・シモン、トビアス・モレッティ
信念の強さ★★★★★
満足度★★★★☆
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