映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「龍の耳を君に」丸山正樹

2021年02月03日 | 本(その他)

「聾」という字は・・・

 

 

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手話通訳士の荒井尚人は、コミュニティ通訳のほか、
法廷や警察で事件の被疑者となったろう者の通訳をする生活の中、
緘黙症の少年に手話を教えることになった。
積極的に手話を覚えていく少年はある日突然、殺人事件について手話で話し始める。
NPO職員の男が殺害された事件の現場は、少年の自宅から目と鼻の先だった。
緘黙症の少年の証言は果たして認められるのか? 
ろう者と聴者の間で苦悩する手話通訳士の優しさ、
家族との葛藤を描いたミステリ連作集。
書評サイトで話題を集めた『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』に連なる、
感動の第2弾。

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「デフ・ヴォイス」の続編。

主人公荒井尚人は、手話通訳士。
両親と兄が耳が聞こえないろう者で、
生まれたときから手話も自分の言葉として育ったのです。
もとは警察の事務職員をしていましたが、
その職を離れ、現在の職に就いたいきさつは、ぜひ前作をご覧ください。
本作は、時間軸でもその先の物語となっていますが、
彼のろう者との様々な関わりの中で起こるエピソードの連作短編となっています。

前作でも私が気になっていた、恋人みゆきとその娘、美和とのこと。
本作では、まだ籍は入れていないものの同居して、
ほとんどもう家族のようになっています。
この3人の関係性も、本作の楽しみの一つ。
そして、聴覚障害者の置かれる困難な状況について描かれていることは、
非常に意義のあることだと思います。
少なくとも私は身近にそのような方がいないので、
なかなか想像が付かないことも多いですが、
まず理解すること、それが大切ですね。

 

ちょっと長くなりますが、作中の言葉を引用します。

 

龍がどういうすがたかたちをしているかは知っているだろう?
龍には、ツノはあるけど耳はない。
龍はツノで音を感知するから、耳が必要なくて退化したんだ。
使われなくなった耳は、とうとう海に落ちてタツノオトシゴになった。
だから、龍には耳がない。
聾(ろう)という字は、それで「龍の耳」と書くんだよ。

 

痛く納得しました。

 

★弁護側の証人

全く身に覚えのない罪を着せられた、ろう者。
警察での取り調べもろくな手話通訳もなく、
ただ警察に都合の良い調書を作り上げられてしまった・・・。
ろう者は自分の声さえも聞こえないけれど、教育によって幾分発語は可能。
でも、それは多くの場合不明瞭で、奇異に聞こえることも・・・。
そんなことがテーマになっています。

 

★風の記憶

ろう者が、同じろう者から金をだまし取っていた・・・、そんな事件。
人並み以上の知能を持ちながらも、
一般社会の中で受け入れられないことの多いろう者。
そんなことのなれの果ての事件なのかもしれません。

 

こんなふうに、それぞれの立場の人に寄り添う荒井尚人が、
前作よりもずっと好きになりました。

 

 

図書館蔵書にて(単行本)

「龍の耳を君に」丸山正樹 東京創元社

満足度★★★★☆



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