苦しいけれども、これでも幸運ではある
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英国の絵本作家ジュディス・カーが、少女時代の体験を元につづった
自伝的小説「ヒトラーにぬすまれたももいろうさぎ」を映画化したものです。
1933年2月。
ベルリンで両親と兄と暮す9歳のアンナ。
父はユダヤ人の演劇評論家。
新聞やラジオでヒトラーへの痛烈な批判を展開していました。
しかし、次の選挙でヒトラーの勝利が現実味を帯びてきたことに身の危険を感じ、
密かに亡命の準備を進めます。
そんなことは何も知らないアンナは、ある日突然「家族でスイスに逃げる」と告げられます。
持ち物は一つだけといわれ、大好きだったピンクのウサギのぬいぐるみを置いたまま、
アンナは家族と家を出ます。
そうして家族は、スイスの片田舎→パリ→ロンドンと場所を移していくのです。
彼ら家族は誰も知っている人がいなくて、言葉も分からないところへ移動していく。
ベルリンではそこそこ良い暮らしをしていましたが、
そこを出ればほとんど収入はなく、パリでは大変厳しい状況になっていきます。
けれど、そんな中で「うちって貧乏だったの?」と驚いていたアンナがおかしい。
こういう家族って楽しい。
お金が無いことでギスギスしてしまう時もあるけれど、
苦しいときこそ家族皆で乗り越えていけるものですね。
アンナは引っ越す度にせっかく親しくなった友だちと
別れなければならないのが悲しくて仕方ないのです。
でも最後には、家族皆もまた新しいところで頑張ろうと、
希望を持って団結出来るところがステキです。
お父さんはつぶやきます。
「元々ユダヤはさすらいの民だ・・・。」
さてそれにしても、こうしていよいよユダヤ人への弾圧が始まる寸前の
ドイツを抜け出すことが出来たのは、
実に幸運なことであったと言わなければならないでしょう。
多くのユダヤ人人はそれもままならず、家も財産も自由も、
そして命さえも奪われることになってしまいます。
彼ら家族がパリに長くいても危険なところでしたが、
幸いロンドンで仕事が見つかって移動できたこともまた幸いでした。
ジュディス・カーはイギリスで2019年に95歳で亡くなったとのことですので、
イギリスが安住の地となってつくづく良かった・・・。
一つの家族を通して、歴史の重みを感じさせる、貴重な物語だと思います。
<WOWOW視聴にて>
「ヒトラーに盗られたうさぎ」
2019年/ドイツ/119分
監督:カロリーヌ・リンク
原作:ジュディス・カー
出演:リーバ・クリマロフスキ、オリバー・マスッチ、カーラ・ジュリ、
マリヌス・ホーマン、ウルスラ・ベルナー、ユストゥス・フォン・ドーナニー
家族愛度★★★★★
翻弄される運命度★★★★☆
満足度★★★★☆
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