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「こちらあみ子」今村夏子

2019年06月11日 | 本(その他)

一途に愛する人間とは

こちらあみ子 (ちくま文庫)
今村 夏子
筑摩書房

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あみ子は、少し風変わりな女の子。
優しい父、一緒に登下校をしてくれ兄、
書道教室の先生でお腹には赤ちゃんがいる母、憧れの同級生のり君。
純粋なあみ子の行動が、周囲の人々を否応なしに変えていく過程を
少女の無垢な視線で鮮やかに描き、独自の世界を示した、
第26回太宰治賞、第24回三島由紀夫賞受賞の異才のデビュー作。
書き下ろし短編「チズさん」を収録。

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オープニングは何気なく、日常的です。
あみ子は近所の小学生の女の子にせがまれて「イー」をしてみせるのですが、
その前歯が3本欠けたまま暗い穴になっている。
それはあみ子が中学生の頃、熱愛していた男の子にパンチされた時のものだというのです。
そして、時はあみ子が小学生だったときにさかのぼり、
歯をなくすまでの顛末が語られていきます。


あみ子は少し、というかかなり変わった子供で、
今なら病院に行けば何らかの診断名がつくのかもしれません。
つまり言ってみれば空気が読めない。
それで悪気はないのだけれど周囲と大きな軋轢が生じてしまうのです。
本作中のあみ子を読者としてはあまり共感を持てないのですが、
それでもこの強烈な個性に圧倒されずにいられない。
巻末の解説で町田康氏は言っています。

「一途に愛する人間とはどんな人間か、といえば、
世間を生きる普通の人間には無理だということになる。
一途に愛するには世界の外側にいなければならない。
つまり一途に愛する者はこの世に居場所がない。
一途な愛を受けるものもそれに耐えられるものではなく、次第に追い詰められていく。」

まさにこの物語の本質をついているように思いました。
私は、本作のストーリーもさることながら、この町田氏の鋭い指摘に感動してしまいました。
もちろん読み取り方は人それぞれ。
これが正解とは言えないのかもしれませんが。


合わせて収録されている「ピクニック」もまた心がざわつき、切ない物語。
嘘とは、真実とは、幸福とは・・・。
嘘を嘘で慰めていくことは優しさなのか、それとも逆に追い詰めていくことなのか、
答えはなく、なんだかクラクラしてくるようです。

「こちらあみ子」今村夏子 ちくま文庫
満足度★★★★☆



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