映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「スモールワールズ」一穂ミチ

2022年07月02日 | 本(その他)

小さな世界にあふれる感情

 

 

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最終話に仕掛けられた一話目への伏線。
気付いた瞬間、心を揺さぶる、鳥肌モノの衝撃が襲う!!

夫婦円満を装う主婦と、家庭に恵まれない少年。
「秘密」を抱えて出戻ってきた姉とふたたび暮らす高校生の弟。
初孫の誕生に喜ぶ祖母と娘家族。
人知れず手紙を交わしつづける男と女。
向き合うことができなかった父と子。
大切なことを言えないまま別れてしまった先輩と後輩。
誰かの悲しみに寄り添いながら、愛おしい喜怒哀楽を描き尽くす連作集。

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話題になったベストセラー。
私には初めての作家さん。
6編の短編からなっているのですが、
これがどのストーリーも肌合いというかテイストが異なるのです。

 

始めの「ネオンテトラ」は少しひんやりしている。
夫の浮気に気づいた主婦が素知らぬ顔で夫婦円満を演じている。
コンビニで知り合った家庭に居場所のない少年と心を通わせて行くのですが、
少し自分に気のあるように見えていた少年は、実は姪っ子と関係を結んでいて・・・。
ほとんど修羅場のような展開なのに、彼女は冷静。
熱帯魚の水槽のように、少しひんやりとして静かです。

 

次の「魔王の帰還」は、ちょっぴりユーモラス。
姉が出戻ってきて、再び一緒に暮らすようになる高校生の弟。
やたら体が大きくてガサツそうな姉。
なぜかこの姉妹と、弟の同級生の少女3人で、
「金魚すくい」の大会に出場することに・・・。
姉の出戻りにも弟の高校生活にも、単純には語れないしんどい事情があるのですが、
ユーモラスな語り口に、ちょっぴり勇気をもらう感じがします。

 

4作目「花うた」は、ある2人の手紙のやりとり。
手紙文だけでストーリーが進んでいくのですが、
それがなんと、刑務所にいる殺人犯と、その被害者の妹。
始めは確かに、兄を殺された妹の恨みつらみが描かれていた手紙だったのですが、
次第に様相が変わってきます。
読んでいけば二人の心情の変化は理解できる。
が、それにしても不可解というか、
イヤむしろ気味悪いというように私には感じられたのですが・・・。
どうなのでしょう、これこそは、読む人によって感じ方が異なるのかも。

 

という感じで、それぞれにテイストを変えつつ別個の物語が展開して行くのですが、
どれもほんの少しだけ、前の作品と繋がっているのです。
もしかしたら読み落としてしまうくらいのささやかなつながり。
そしてなんと最後の作品が、一番始めの物語につながっていた!!

無造作のようでいて、企みに満ちた配列。
なんとも、やられます。

 

そしてつまりこれらの物語は、わりと限られた地域で起こったことなのかも知れません。
それなので、「スモールワールズ」なのですね。
私にはそれが小さな「水槽」の中の世界のようにも思えます。

読書の楽しみに応えてくれる本です!!

 

<図書館蔵書にて>

「スモールワールズ」一穂ミチ 講談社

満足度★★★★★



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