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「双頭の船」 池澤夏樹

2017年01月13日 | 本(その他)
成長する船

双頭の船 (新潮文庫)
池澤 夏樹
新潮社


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巨大な波が押し流した町、空が落ちて壊れた土地
―災厄に見舞われた沿岸へ、舳先と艫が同じ形をした小さなフェリーは、
中古自転車と希望を載せて進む。
失恋したての青年、熊を連れた男、200人のボランティアと小動物たち。
そして被災地では、心身を傷めた人々を数限りなく受け入れながら。
東日本大震災の現実をつぶさに見つめた著者による
被災地再生への祈りに満ちた魅惑の物語。


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池澤夏樹さん、私にははじめての作家なのですが、
う~ん、知らないということは恐ろしい。
また新たな読書体験に踏み込むことができて、幸せを感じています。


本作は、ファンタジーと言うべきなのかもしれません。
巨大な波が来て押し流されてしまった廃墟の町に、
一艘の小さなフェリーがやってきました。
被災地への物資を運んだり、ボランティアの人たちの寝泊まりの場所になったり。
ところがこの船は成長する船なのです。
人々の要望を汲むうちに次第に大きく成長していく。
被災者の避難所となる家が立てられ、
その被災者が働けるお店や学校ができ、
養鶏場やバナナの温室までが出来上がり、
船は一つの大きな町にまでなっていきます


ここに暮らす人々は、羨ましいくらいに平和で「新しい町」に対する愛着も伺えます。
けれど手放しでは喜べない。
そもそも彼らは皆家族を失ったり、自分の家を失ったりしているわけですから・・・。
でもそんな悲しみを癒す力が十分にこの船にはあるのでした。
ところが、そんな人々がある重大な結論をくださなければならない時が来ます。
ある人が言います。
このままこの船で外洋に乗り出して、世界中を旅しよう。
各地で物資を補給しながら旅する自由な「国」になろう。
けれども一方では、やはり亡くなった家族のもとで暮らしたい。
しっかりした地面の上で暮らしたいという人達もいるのです。


そこでどちらにするか、投票で決めることにしますが・・・。
その決着の仕方というのがまた、いいのです。
単なる多数決ではない、妙案でナイスな、
そしてこの物語でしか通用しない結論が待っています。


本作は災害でなくなった人のための鎮魂歌であり、
被災地再生のための祈りでもあります。
そして、人と、人の力ではどうにもならない大自然が、
どのように折り合いをつけていくのかということの暗示でもあるように思います。


魅力的な物語でした。
池澤夏樹さんをもっと読んでみようと思います。

「双頭の船」池澤夏樹  新潮社
満足度★★★★★
図書館蔵書にて


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