映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「にぎやかな落日」朝倉かすみ

2024年01月12日 | 本(その他)

老境を本人目線で

 

 

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北海道で独り暮らしのおもちさんは83歳。
東京に住む娘は一日二度、電話をしてくれる。
近くに住むお嫁さんのトモちゃんは、車で買い物に連れて行ってくれる。
それでも、生活はちょっとずつ不便になっていく。
この度おもちさん、持病が悪化し入院することになったーー。

日々の幸せと不安、人生最晩年の生活の、寂しさと諦めが静かに胸に迫る物語。

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北海道で一人暮らしをするおもちさん、83歳。
持病を持ちつつ頑張っていますが、入院し、
やがて高齢者用マンションに移ることに。
それらの日々のことを、おもちさん目線で描いています。

よくありそうな話ではありながら、
これまでお年寄り本人目線のストーリーは、あまりなかったかもしれません。

おもちさん(もち子が正しい名前だけれど、皆からはおもちさんと呼ばれている)は、
まだまだボケてはいないけれど、物忘れも多くて、集中力もあまりありません。
夫・勇さんはいないので、先に亡くなったのかと思えば、
いえいえ、ご存命ですが特養に入居住み。
寝たきりで、なんとか意識がある程度。
そんな勇さんが若く元気な頃のことが始めの方に描写されていて、
ちょっと切なくなります。

おもちさんの長女は東京に住んでいますが、
おもちさんを心配して毎日電話をかけてきます。
そして近所に住む長男のお嫁さんがまた実によくできた人で、
何かとおもちさんを気にかけてしょっちゅう様子を見に来てくれたり、
車を出して買い物に連れて行ってくれます。
明るく朗らかなおもちさんは、人付き合いも得意で、
近所のお友だちと話して笑って過ごすのが大好き。

なので基本にこやかなのですが、ときおり機嫌が悪くなってしまうのは、
娘や看護師さんに、お菓子を食べて叱られたりするとき。
子どものような扱いをされたりプライドを傷つけられるのは、イヤなのです。
その辺の心理はよく分りますねえ・・・。

それで実は、おもちさんは糖尿病なのですが、
医師の難しい説明を受けるともうそれだけでイヤになって集中もできず、
結局いつまで経ってもその病名が覚えられない。
そしてこの治療のためには、厳しいカロリー制限が必要なのに、
ダメと言われているお菓子や果物を平気でどんどん食べてしまうおもちさん。
血糖値がすぐに上がってしまうので、それはバレバレなのです。
眼の調子も悪いし、ときおり意識が遠のいたりして、
状況は決してよくはありません。

結局自宅に一人にしておけないということで、
介護付きの老人用マンションに移ることになるわけです。
元気だけれど、不調でもあり、陽気だけれど、孤独で淋しくもある。
老境というものを実に切実に描き出しています。
私もそちらに近い存在なので、分る分る。

それとおもちさんの話す北海道のことばがなんとも懐かしくて・・・。
「北海道弁」と言ってしまうと少し違うような気がする。
わざとらしくない、日常の、北海道のことば。

読んでいるうちにだんだんラストが心配になってしまったのですが、
まあ、なんとか大丈夫のようです・・・。

 

「にぎやかな落日」朝倉かすみ 光文社文庫

満足度★★★★☆



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