映画と本の『たんぽぽ館』

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ぼくたちの家族

2014年06月05日 | 映画(は行)
絶望のどん底から



* * * * * * * * * *

本作、母親が癌で余命宣告を受ける家族のストーリー、
と聞いて、実のところ「なーんだ」と思いました。
そもそも「病気の女の子」の話は見ないことにしている私。
これも似たようなもので、家族が一団となって病気の母を支えるお涙ちょうだいストーリー、
しかも使い古された題材・・・に思えたわけで・・・。
でも石井裕也監督・脚本というのにはちょっと引っかかる。
ということで、見てみました。



当初の予想はハズレです。
一家の母玲子(原田美枝子)は最近物忘れがひどくなり、
病院で検査を受けるのですが、いきなり末期の脳腫瘍で余命一週間と宣告されてしまいます。
そんなまさか、こんなに元気なのに!!
私達も唖然としますが、
そう言われた家族もそれは驚きますよね。



夫(長塚京三)はオロオロするばかりで何もできない。
結婚し家を出ていた長男浩介(妻夫木聡)、
まだ学生の次男俊平(池松壮亮)、男3人が集結。
そんな時、病のため母は思考の歯止めもなく、
それぞれの家族についての本音をあっけらかんと暴露。
男たちは呆然とし、傷つき、あるいはこんな状況に置かれことに怒るばかり。
どうすればよいのかなど考えもつかない。
いみじくも俊平は言う。
「もともとバラバラな家族だったじゃないか。」
確かに・・・。
というか、たいていの家族ってこんなものなんじゃないかなあという気がします。
しかし、事態はそれだけではなく、
父の会社経営が危うく、家のローンも含め、
この家が多額の借金を抱え込んでいることが明るみになる。
とりあえず母の入院費の工面さえも危うい。

 

「病気もの」でも、ここまで絶体絶命のドラマは、あまりなかったですねえ・・・。
父親は全く頼りにならず、
長男浩介が責任を背負い込むのですが、彼は中学時代“引き籠もり”だったこともあり、
この重圧に立ち向かえるのかという危うさを感じさせる。
唯一ノーテンキっぽい次男の存在が救いです。
そして、どん底で開き直ったか、浩介はある決意を・・・。


もうどうにもならない絶望の淵に立った時、どうするのか。
これはそういうドラマであるのかもしれません。
くよくよあれもこれも考えこまずに、まずできることからする。
それこそはみなで意識を一つにして。
当たり前のことのようで、簡単ではないと思います。
この時のリーダーシップは重要ですね。
これは家族のドラマだけれども、家族でなくても同じことが言えると思います。


本作のテーマというわけではないのですが、今どきの医療事情も伺えます。
医師は余命宣告をしてそれっきり。
その後の本人や家族の気持ちなどお構いなし。
こういうことは多いのだろうなあ・・・。
そして良い医師との巡り合いはほとんど奇跡。
俊平が星占いのラッキーカラーとラッキーナンバーに頼らなければならなかったほどに。


ぎこちない家族が、「家族」を取り戻していくさまが
自然です。
そしてそれは周りをも引き込んでいく。
やるときゃやるんだ!
あきらめるな!



「ぼくたちの家族」
2014年/日本/117分
監督・脚本:石井裕也
原作:早見和真
出演:妻夫木聡、池松壮亮、原田美枝子、長塚京三、黒川芽以

どん底度★★★★★
立ち上がり度★★★★☆
満足度★★★★☆