映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

2つ目の窓

2014年06月07日 | 映画(は行)
命と命をつなぐ性



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つい先日、カンヌ映画祭で10分間のスタンディングオベーションがあったと話題になった
河瀬直美監督の、そのものズバリの作品。
日本での公開は7月26日というのに
何故か先日WOWOWで放送があったのですね。
そんなことがあっていいのか?とは思いますが、
このチャンスを逃す手はなく、録画して見ました!


舞台は太古の自然がそのまま残る奄美大島。
美しくのどかな南国の島というイメージがありますが、
冒頭、荒れ狂う海の描写があります。
もちろん、通常は穏やかで美しい海。
けれど人を拒み歯をむく荒々しい有り様もまた自然の営みの一つ。
だからこそ私達は自然=神として畏敬の念を払うのですね。



16歳杏子(吉永淳)の母・イサ(松田美由紀)は、
病で余命宣告を受けていますが、
最期を自宅で迎えるために病院から帰ってきます。
「死んでも命はつながっていくから怖くない」
と言う母の言葉にも、杏子はまだ納得できません。
一方、杏子のクラスメート・界人(村上虹郎)は、夫と別れた母と暮らしていますが、
母の男関係が気になっている。
母の「女」の部分をまだ認められないのです。
この二人が島の自然の中で生々しい生と死に触れ、
そして、このふたつをつなぐ「性」について理解していきます。

大自然の中で繰り返され引き継がれてきた人々の営み。
そこから生まれた歌や踊りの伝統。
そういうものの先端にいる若い彼らですが、
過去、すなわち数多の亡くなった人々がいたからこそ、
自分たちが今ここにいるのだということ。
おぼろげながら、そんなことが意識されてきます。
山羊の死を見つめるという、ちょっとショッキングなシーンもあるのですが、
命の厳粛さを改めて感じるシーンでもあります。
昨今、私達の周りからそういうものは排除されていますよね。
ドラマやゲームではいとも簡単に人が死にますが、
本当の「死」の意味を考える機会はあまりにも少ない。
・・・とはいえ、ここでそれを見せつけられるのもちょっとつらいのです。
お母さんの「死」という場面もありますしね。



私には、同じく「死」を扱い、そしてその「死」をことさら悲しいこととはしていないながらも、
「野のなななのか」のほうが
亡くなった人の「生」をたどるところで
納得の行くものでした。
双方、命はつながっていくというのですが
本作は「性」を介在したDNA的なつながりをいっていて、
「なななのか」の方は、輪廻のことをいっていて、
少し違うようです。
私的にはやはり「なななのか」かな。
地元びいきかも知れませんが。
本作の寡黙さと「なななのか」の饒舌さも対称的。
北と南という意味でも。


いい作品ではありますが・・・、
やはり多くの集客は難しそう・・・。



ちなみに、界人役の村上虹郎くんは
歌手UAさんと俳優村上淳さんの息子で、
本作、界人の父親は実の父、村上淳氏が演じている
というところも見どころです。
虹郎くんはちょっと「誰も知らない」のときの柳楽優弥くんの雰囲気にも似ていて、
ステキです。

「2つ目の窓」
2014年/日本・フランス・スペイン/120分
監督:河直美
出演:村上虹郎、吉永淳、杉本哲太、松田美由紀、渡辺真起子、村上淳
美しくも荒々しい自然度★★★☆☆
みずみずしさ★★★★☆
満足度★★★☆☆