映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

アイヒマンを追え! ナチスが最も畏れた男

2018年06月12日 | 映画(あ行)

知られざるドイツの戦後史

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第二次世界大戦後に海外へ逃亡したナチス戦犯アドルフ・アイヒマンの捕獲作戦を
実現へ導いたドイツ人検事長フリッツ・バウアーの実録ドラマです。



1950年代後半。
ドイツのフランクフルト。
検事長フリッツ・バウアーは、ナチス戦争犯罪の告発に執念を燃やしていました。
そんな彼のもとに、数百万人のユダヤ人を強制収容所送りにした
アイヒマンの潜伏先に関する情報が入ります。
ドイツの捜査機関はナチス残党の巣窟となっており、
協力を期待できないばかりか、バウアーは身の危険まで感じてしまいます。
そこでイスラエルの諜報機関モサドと接触し、協力を要請しますが・・・。

戦後すぐにナチスは一掃されたものと思っていたのですが、
ドイツの主要機関に元ナチスのメンバーがかなりの数残っていたというのは驚きです。
しかもすっかり過去を悔い改めているかといえばそうでもない。
そんなことで、ユダヤ人であるバウアーにはなおさら風当たりが強いのです。

バウアーの風貌はまさにこんなふうで、一見のどかなおじさん風・・・。
けれど侮ってはいけません。
この風貌の奥に、正義心を貫く鉄の意志が潜んでいるわけです。
彼が言う「私はドイツの敵なのか?」という言葉が印象的。

知られざる歴史の真相。
面白いなあ・・・。
若干、ゲイの話を織り交ぜたところがまた興味深かったです。
当時、ナチス政権下の法でなくとも、ゲイは違法だった。
そんな時代なんですねえ・・・。

アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男 [DVD]
ラース・クラウメ,トマス・クフス,オリヴィエ・グエズ
アルバトロス



<WOWOW視聴にて>
「アイヒマンを追え! ナチスが最も畏れた男」
2015年/ドイツ/105分
監督:ラース・クラウメ
出演:ブルクハルト・クラウスナー、ロナルト・ツェアフェルト、セバスチャン・ブロムベルグ、イエルク・シュットアウフ、リリト・シュタンゲンベルク
歴史発掘度★★★★☆
満足度★★★★☆


「村上海賊の娘 上・下」和田竜

2018年06月11日 | 本(その他)

満身創痍、死に物狂いの戦いに、ほとんど泣きそう。

村上海賊の娘 上巻
和田 竜
新潮社

 

村上海賊の娘 下巻
和田 竜
新潮社


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和睦が崩れ、信長に攻め立てられる大坂本願寺。
海路からの支援を乞われた毛利は村上海賊に頼ろうとした。
その娘、景は海賊働きに明け暮れ、地元では嫁の貰い手のない悍婦で醜女だった…。(上)

織田方の猛攻を雑賀衆の火縄が止め、
門徒の勢いを京より急襲した信長が粉砕する。
毛利・村上の水軍もついに難波海へ。
村上海賊は毛利も知らぬ禁じ手と秘術を携えていた…。
信長vs.本願寺、瀬戸内と難波の海賊ども…。
ケタちがいの陸海の戦い!
木津川合戦に基づく一大巨篇。(下)

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えーと、平成26年本屋大賞受賞作。
読みたいと思いながら、もう4年も経っていたなんて・・・。
まあおかげで、図書館予約も全く待機期間なしで、すぐに借りることができましたが。

時代的には、織田信長と大坂本願寺の対決のとき。
そこで、織田方に組みする泉州眞鍋海賊と、
本願寺に味方しようとする毛利方に組みする村上海賊、
この2つの海賊の凄まじい対戦のようすが描かれています。


この村上海賊首領の娘が景(きょう)。
しかし初めの方では意外にもただの強気な跳ね返り娘です。
"醜女"とありますが、それは当時の日本人の美意識からのこと。
大柄でホリが深くて大きな目。
異人を見ることの多い泉州の海賊たちには「べっぴん」と映る、というのがミソです。
宝塚の男役のイメージですね。
まあ容姿はともかく、登場したときの景は、
戦をただかっこいいものと思っていて、自分もそこで活躍したいと思っている。
年の頃二十歳ではありますが、全くわがままな子供のよう。


そんな彼女が、一向宗の老人や少年、海賊の男たちが
命をかけても守ろうとするものの意味を知り、真の大人になっていくのです。
そして一旦は「女らしく」船に乗ることもやめておとなしく嫁にでも行こうと思うのですが、
しかしそれでは物語が進まない。
やがて彼女は立ち上がり、壮絶な戦いの中に身を投じる事になります。

いやいや、その海戦のシーンがすごい迫力で胸が熱くなってしまいます。
男たち、特に眞鍋の七五三兵衛(しめのひょうえ)のキャラが強烈で、
ものすごい魅力を放っています。
その豪胆さ、生きる力。
その七五三兵衛と景が対決するところは、むろん力で景が勝てるわけもない。
すごく怖くて震えてきそうでした・・・。
満身創痍の景の死に物狂いの戦いに、ほとんど泣きそう・・・。


景の弟・景親(かげちか)は、いつも姉にいじめられて逃げ足だけは早い臆病者。
しかし、それでもやはり姉思いの彼は、
最後には大変身を遂げるというところがまた、痛快でしたね!


なるほど、本屋大賞も納得の力作。
遅ればせながら、読んで良かった!

図書館蔵書にて(単行本)
「村上海賊の娘 上・下」和田竜 新潮社
満足度★★★★★


TEAM NACS 「下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。」

2018年06月10日 | 舞台

家族のドラマが、また、楽しい

下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。 [DVD]
大泉洋,大泉洋
アミューズソフトエンタテインメント

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2009年作品。
脚本・演出:大泉洋

これまで見たTEAM NACS作品は森崎博之さんの脚本だったのですが、
本作は大泉洋さんということで、少し雰囲気が違います。
こちらのほうが庶民的。


舞台は下荒井家のリビング。
この家の父親が亡くなって10年の法要のため、兄弟皆が集まったのです。
いきなりの幕開けで、安田顕さんがすっぽんぽんの後ろ姿で登場!!
全く驚かされます。
この人物が、下荒井家の三男。
彼は長男(森崎博之)を結婚させるために、ある女性に会わせようとします。
ちょうどそんなとき、五男(戸次重幸)が、
自分が結婚を決めた相手を長男に紹介しようとする。
ところが、引きこもりの四男(大泉洋)が画策し、
五男の恋人を、長男にお見合い相手だと思わせて会わせてしまうのですね。
ややこしい勘違いがおかしい・・・というのがプロローグ。
さて、そこへいきなり20年前に家出をし、以来音信不通だった次男(音尾琢真)が帰ってくるのです。

おかしくてちょっぴり切ない、家族の物語。
たっぷり楽しみました。
大泉洋さんの役柄が、引きこもりで盗聴が趣味というかなりの変人なのがなんともおかしい。
けれど、彼の初の“盗聴テープ”というのが最後に登場するのですが、
これがなんとも泣けてしまうのです・・・。
家族間で盗聴などと、ピンと来ないなあ・・とは思っていたのですが、
けっきょくこの最後のエピソードを引き出すための伏線だったのか・・・。
やられました。
そしてまた、この兄弟には重大な秘密があったわけで・・・。
ここの亡き父親が実に大きな人物だったということも偲ばれますねえ・・・。

そうそう、本作で私が感服したのは音尾氏の演技です。
例によって出演者はTEAM NACSの5人だけなので、
一人何役もこなさないと登場人物が足りません。
それで、音尾さんはヤクザの次男役ではありますが、
五男の恋人の女性としても登場します。
まあだから、とびきりの美女にはならないけれども・・・
これがなんとも、上品で清楚な感じの大人の女性なんだなあ・・・。
けばいお化粧も何もありません。
それなのに、どう見ても知的で感じの良いお嬢さんだ。
長男が一目惚れしてしまうのも、無理はない・・・。
この女性と、ヤクザの次男、どっちも同じ舞台で演じるとは・・・
音尾琢真さん恐るべし。

<WOWOW視聴にて>
TEAM NACS 「下荒井兄弟のスプリング、ハズ、カム。」
満足度★★★★★


レディ・バード

2018年06月08日 | 映画(ら行)

母と娘の確執

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女優グレタ・カーウィグ初の単独監督作品。
都会へ出ることを夢見るカリフォルニア州サクラメントのカトリック系女子高生のストーリー。
多分に自伝的要素があるといいますが、
これはもう、田舎育ちの多くの女の子のストーリーと言ってもいいのだと思います。



自らをレディ・バードと呼ぶ17歳、クリスティン(シアーシャ・ローナン)は、
高校生活最後の年を迎えました。
友人やボーイフレンド、家族・・・身の回りの人々と共感し、またときには反発しながら、
自分の将来を見つめていきます。


クリスティンは自らを“レディ・バード”と呼ぶくらいに、
普通よりは自我意識の強い独立心旺盛な女の子。
そんな中で、常に対立するのは、彼女の母。
父親と息子の確執は取り上げられることが多いのですが、
母親と娘、これもまた永遠の問題なのです。
特にこの母娘、結局は似ているのだと思います。
しかしだからこそ、磁石の同極が反発し合うように常に何かしらの緊張感がある。
私が若ければきっとクリスティンに感情移入するでしょう。
もちろん、私は本作でクリスティンを嫌いではなく、応援したい気持ちも大きい。
けれど、母親の方にも自分が重なって見えてしまうところが多分にある・・・。
そしてまた、もっと娘を信頼して自由にしてあげればいいのに・・・と思うのは、
本作で傍観者的立場に立てたからこそ。



クリスティンの母は、専業主婦ではなくて働いています。
それだからこそ、独立心があって、余計に娘を囲い込もうとする気持ちが強いのではないかと思う。
この二人の関係性が、やけに我が身にも重なるようで、ちょっと切なくなってしまいました・・・。



それでも、どうにかこうにかクリスティンは夢を果たし、家族の元を離れて進学していく。
彼女が故郷を懐かしみ、母の心を理解するのはきっともっと先のこと。
そこからのドラマも見たいような気がします。



クリスティンの学校の担当シスターが、さばけていてなかなかステキでした。
「あなたは表現力に優れているから、演劇とかミュージカルをやってみてはどう?」と勧めたのも彼女だし、
クリスティンがシスターの車にいたずらをしても、面白がるだけで怒ったりしない。
ティーンの気まぐれや不安やいらいらなどすべて想定の範囲内で、
軽やかに交わして、行くべき方向を指し示してくれる。
これぞ、大人ですね。
でもやっぱり、母親はこうはなれない・・・。



<シネマフロンティアにて>
「レディ・バード」
2017年/アメリカ/94分
監督:クレタ・カーウィグ
出演:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ、ビニー・フェルドスタイン
母と娘の確執度★★★★☆
満足度★★★★☆


ミックス。

2018年06月07日 | 映画(ま行)

卓球を続ける意味

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幼い頃母にスパルタで卓球を叩き込まれた多満子(新垣結衣)は、
天才卓球少女として将来を期待されていました。
しかし本人はそのきつい練習が苦痛で、
次第に思うように勝てなくなっていくのにも嫌になっていました。
母の死によりようやく解き放たれた多満子は、
以後卓球からキッパリと離れてしまいます。
さて長じた後、会社で失恋をした多満子は、
会社をやめて故郷の街に帰ってきます。
そして、赤字経営の実家の卓球クラブを立て直すため、
全日本卓球選手権の男女混合ダブルス(ミックス)部門に出場することを決意。
クラブに通う落ちぶれたボクサー萩原(瑛太)とコンビを組み、
十数年ぶりに卓球と向き合うことになりますが・・・。

さすが古沢良太さんによる脚本で、単なるスポーツ根性モノとは一線を画した物語。
このうらぶれた卓球クラブに集まったのが、なんともうらぶれた人物たちなのです。
不登校の高校生。
息子を亡くし生きる意味を見失っている夫婦。
自分らしさを見失っている元ヤンのセレブ妻。
そして、事件を起こし妻子に逃げられた男と、失恋に落ち込む女。



こんなものなので、はじめての選手権ではボロ負けです。
これでは何のためにうやっているのかわからない。
エンジンがかかるのはその後なんですね。
それぞれがお互いと向き合って、理解していく。
そして卓球を続ける意味を共有していく。
このあたりは、それぞれの卓球への思いが伝わってとてもいい。



そして最後の最後には、多満子は亡き母の思いと向き合うことになるのです。
なるほど、そこが一番の問題なのでした。
よくできているなあ・・・。

多満子の恋敵というか恋人を奪ったのは、あら、永野芽郁さんでした。
ちょい出でしたがスパルタ母ちゃんの真木よう子さんも面白いし、
謎の中国人蒼井優さんにも笑ってしまいます。
笑って楽しめる一作。



ミックス。 通常版DVD
新垣結衣/瑛太
ポニーキャニオン



<J-COMオンデマンドにて>
「ミックス。」
2017年/日本/119分
監督:石川淳一
脚本:古沢良太
出演:新垣結衣、瑛太、瀬戸康史、永野芽郁、蒼井優、真木よう子
それぞれの卓球への思い度★★★★★
満足度★★★★☆

 


「ナニワ・モンスター」海堂尊

2018年06月06日 | 本(その他)

報道加熱の行方・・・

ナニワ・モンスター (新潮文庫)
海堂 尊
新潮社

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浪速府で発生した新型インフルエンザ「キャメル」。
致死率の低いウイルスにもかかわらず、
報道は過熱の一途を辿り、政府はナニワの経済封鎖を決定する。
壊滅的な打撃を受ける関西圏。
その裏には霞が関が仕掛けた巨大な陰謀が蠢いていた―。
風雲児・村雨弘毅府知事、特捜部のエース・鎌形雅史、大法螺吹き・彦根新吾。
怪物達は、この事態にどう動く…。
海堂サーガ、新章開幕。

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私は先に「スカラムーシュ・ムーン」を読んでしまっていたので、
順不同で、本作で問題の新型インフルエンザ「キャメル」騒動の詳細を知ることになりました。
そこには政府の思惑もあるのかもしれないけれど、
報道の過熱の問題も大きいなあ・・・と思う次第。
以前の貴乃花親方の騒ぎのときとか、今回の日大アメフト部のこととか・・・、
昨今、昼下がりの情報番組をなんとなく見てしまうわけですが、
毎日毎日しつこくも似たような「推測」の上に「推測」を重ねる報道に、
嫌気が差してしまいます。
まあそれは余談ですが、こんな感じで毎日毎日キャメルの患者が出たとかワクチンがどうしたとか、
テレビの報道が続いたとしたら、そりゃー、パニックにもなりわすわね・・・。
しかもそれが、何やらあえての陰謀的な意図があるとしたら・・・
実にイヤラシイ!!


スカラムーシュこと彦根新吾の日本を3分割すべしという論は、
本作に詳しくその意図が記述してあったので、納得させられました。
けれども、「スカラムーシュ・ムーン」で、
ワクチンのための有精卵製造を始めることになった学生の物語の部分が一番面白かったように、
本作でも私は新型インフルエンザ患者を「発見」してしまった、
個人医院の話の部分のほうが面白く、好きでした。
地道に生きてて、まっとうな金銭感覚、倫理感覚の人々が登場するところは
ホッとするんですよね・・・。


「ナニワ・モンスター」海堂尊 新潮文庫
満足度★★★☆☆


友罪

2018年06月05日 | 映画(や行)

殺人を犯したものは、幸せになってはいけないのか・・・

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ジャーナリストの道に挫折し、町工場で働き始めた益田(生田斗真)。
彼と同時に働き始めた鈴木(瑛太)は、無口で影があります。
それでも二人は少しずつ打ち解けてゆきます。
しかしある時、益田は鈴木が17年前の連続児童殺人事件の犯人、
すなわち、もと“少年A”であることを知ってしまうのです。
法的な罰則はもう終えているとはいえ、
得体の知れない殺人犯とこれまで同様に付き合うことができるのか・・・。
物語はさらにまた、このような殺人犯やその家族は人並みに幸せな生活をすることは許されないのかと、
重い問いを私達に突きつけてゆきます。

実は益田自身も、過去の罪を抱え込んでいました。
彼が直接的に人を傷つけたわけではないにせよ、
ある友人の死に彼は責任を感じている・・・。
そんな彼だから、殺人犯として鈴木を忌み嫌うというよりも、
周囲から受け入れられない鈴木に対してどうにかしてやりたい、助けたい
という気持ちのほうが強くなっていくわけですね。



殺人を犯したものが、幸福になってはいけないのだろうか・・・。
ずいぶん理不尽なことのように思えます。
たとえ自分の罪をみとめ、被害者を悼む気持ち、被害者の家族に申し訳ないという気持ちが大きくとも、
生きている限り四六時中沈んだ気持ちではいられませんよね。
本作の鈴木(実名は青柳)も、あれほど笑顔を忘れたようでいて、
同僚と出かけたカラオケでかろうじて知っていたアニメソングを歌い、
ほんの少し笑みを浮かべます。
でも、たったそれだけのことで、世間から非道扱いされてしまうのです。

また、交通事故で人を死なせてしまった息子を持つ父(佐藤浩市)は、
被害者家族の気持ちを慮るあまり、自分の家族を解体し、
息子の結婚も子供を持つことも認めない。

本当に難しいなあ・・・。
殺人犯やその家族の生き方。周囲の人々の接し方・・・。
考えさせられます。



ところで、青柳は実際しっかりと更生したように思えるのです。
それというのも、彼の少年院時代の教官・白石が、しっかりと彼と向き合って指導したためと見受けられる。
しかしその白石は職務熱心なあまり、自分自身の娘に目が届かなかったという・・・。
世の中、なかなか一筋縄には行きませんね。

瑛太さんの得体の知れない感じ、うまいなあ・・・。


<シネマフロンティアにて>
「友罪」
2018年/日本/129分
監督・脚本:瀬々敬久
原作:薬丸岳
出演:生田斗真、瑛太、佐藤浩市、夏帆、山本美月
問題提起度★★★★★
満足度★★★★☆

 


エターナル・サンシャイン

2018年06月04日 | 映画(あ行)

脳内の様々な葛藤

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ジョエル(ジム・キャリー)とクレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)は、恋人同士。
けれど、付き合いが長くなって気持ちのすれ違うことが多くなり、
クレメンタインが特定の記憶だけを消去する施術を受け、
ジョエルの記憶をすっかり消してしまいます。
ジョエルはそれでも彼女を愛していて、
しかし今の彼女から見れば自分はただの見知らぬ他人。
・・・ジョエルはその苦しさのあまり、
いっそ自分もクレメンタインの記憶を消してしまおうと決心します。
そして、彼女と同じ施術を受けますが・・・。
しかしジョエルの真相意識が自分の脳内のクレメンタインの存在を必死になって守ろうとします。
彼の脳内の様々な葛藤が映像となって映し出されます。

すべて見てから、なるほど・・・と思わされるのですが、
本作の冒頭は実は本作の様々な出来事のあとの光景だったわけなんですね。
最悪の気分で目覚めたジョエルが、無意識に海へ行ってしまった、
そのことにも意味があったのです。
う~ん、心憎い!!
結局、別れても別れきれない絆が2人にはちゃんとあった、ということか。

はじめ、ラブストーリーなのにジム・キャリー?
と、やや意外な感じがしたのですが、
脳内のヒッチャカメッチャカの不思議体験の様子は、やはりジム・キャリーならではなのでした。
黙っていればハンサムなのに、動き出すとその表情の変化が規格ハズレにユニーク。
これはやっぱりはまり役だ。


ところで本作のキャスト。
ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット、キルステン・ダンスト、
マーク・ラファロ、イライジャ・ウッド、トム・ウィルキンソン・・・
なんとも地味に豪華なんですね!!

エターナル・サンシャイン [DVD]
ジム・キャリー,ケイト・ウィンスレット,キルステン・ダンスト,マーク・ラファロ,イライジャ・ウッド
GAGA

<WOWOW視聴にて>
「エターナル・サンシャイン」
2004年/アメリカ/108分
監督:ミシェル・ゴンドリー
脚本:チャーリー・カウフマン
出演:ジム・キャリー、ケイト・ウィンスレット、キルステン・ダンスト、マーク・ラファロ、イライジャ・ウッド、トム・ウィルキンソン

ラブストーリー度★★★★☆
満足度★★★★.5


TEAM NACS HONOR~守り続けた痛みと共に

2018年06月02日 | 舞台

受け継がれる故郷の歴史

HONOR ~守り続けた痛みと共に [DVD]
森崎博之,森崎博之
アミューズソフトエンタテインメント

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2007年  脚本・演出 森崎博之

人口650人の架空の村の70年に及ぶストーリーです。
先に見た、「LOOSER」は新選組、「COMPOSER」はベートーヴェンと、
実在の人物たちを主役に据えていましたが、今回は全く無名の人。
故郷とは、受け継がれる故郷の歴史とは・・・、
私達にそんな問いを投げかけます。

まずは4人の幼なじみの老人たちが太鼓を叩くシーンから。
(でも実際は5人並んでいるところがミソ)
そこから彼らの回想が始まるのです。
かつて彼らが子供の時に、五作という風変わりな老人から太鼓を教わったこと・・・。
そしてその彼らが幼い頃のシーンになるのですが、
物語はさらに、その五作が幼かった頃にまでさかのぼっていきます。
森を守り、祭りを守り、子どもたちを見守ってきた、
一人の老人の生きざまが浮かび上がってきます。
村人たちからは変人か狂人のように扱われてきたのだけれど・・・。


架空の村ですがやはり北海道ですね。
その歴史と言ってもせいぜい3代を遡るくらい。
本州ならもっと膨大な時の流れの物語になるのかもしれません。
けれどそのたかが70年位の時間の中に、多くの人々の生と死があり、
そして戦争という大きな転換期があり、
若者は故郷を離れ、老いてまた戻ってくる。
変わらないようでいてやはり移り変わっていく故郷の村と共にあった五作の人生。
名もなき人物ではあるけれど、
実は身の回りの多くの人の物語でもあるのかもしれません。


私、前回から言いたくて仕方がなかったのですが、
安田顕さんの存在感が凄い!!
なんだかもう、つい目が吸い寄せられてしまいます。
現在テレビドラマ「正義のセ」に出演中ですが、
ここに安田顕さんなしでは、全然でつまらなくなってしまうだろうと、
私は確信しています。
TEAM NACSの録画はまだ何本かあって、
ますます見るのが楽しみになってきました。

<WOWOW視聴にて>

「TEAM NACS HONOR~守り続けた痛みと共に」
満足度★★★★☆


モリのいる場所

2018年06月01日 | 映画(ま行)

完結しているモリの世界

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30年ほとんど家の外に出ることなく、庭の生命を見つめ描き続けたという伝説の画家、
熊谷守一(=モリ)のとある一日を描きます。

昭和49年、モリ93歳のある日・・・。
モリ(山崎努)自身はいつものごとく庭の虫や植物を見守っています。
この家を取り仕切るのは妻・秀子(樹木希林)。
この夫婦、なんとも穏やかなんですねえ・・・。

お互いに面と向かって優しい言葉を掛け合ったりはしません。
けれどもその行動の端々に互いを思いやり敬愛していることがにじみ出ている。
とくにこの奥様、夫の風変わりとも言えるライフスタイルをまるごと受け入れて、
その中にちんまりと居座りながら支えているという・・・
うーむ、この雰囲気、確かに樹木希林さんでなければ出せないのではと思いました。
常の女優さんなら、多分優しくなりすぎるのでは?



そしてまたこの家、意外と人の出入りも多いのです。
守一の写真を撮ることに情熱を感じているカメラマン、
隣近所の人たち、また時には何やら得体の知れない男・・・。
それぞれの人々との交流を描きつつ、この夫婦の人となりが浮かび上がってきます。



家の中と草木が生い茂る庭。
この中でモリの世界は完結しているのです。
必要があれば向こうからくる。
これ以上の何を欲する事があるだろうか・・・。
ということで、あっさりと文化勲章を断ってしまうこの夫婦には感服。



それでも世の中は変わっていく。
隣接する場所にマンションが立ち、庭にほとんど日が当たらなくなってしまうことになる・・・、
ということで、モリはある一つの決断を下す必要に迫られます。
変わらない毎日のようでいて、やはり人の世は絶えず変化していくものだ
という諦念もそこにはある。
というか、むしろそういうことを切り取った作品というべきなのかもしれませんね。



劇場は意外と賑わっていました。中高年の方がほとんどでしたけれど。

<ディノスシネマズにて>
「モリのいる場所」
2018年/日本/99分
監督・脚本:沖田修一
出演:山崎努、樹木希林、加瀬亮、吉村界人、光石研

夫婦愛度★★★★☆
満足度★★★★☆