映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「日曜日の人々 サンデー・ピープル」高橋弘希

2018年06月14日 | 本(その他)

陰鬱なストーリーの果てにあるもの

日曜日の人々
高橋 弘希
講談社

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他者に何かを伝えることが救いになるんじゃないかな。
亡くなった従姉から届いた日記。
それをきっかけに、僕はある自助グループに関わるようになった…。
死に惹かれる心に静かに寄り添う、傑作青春小説

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この内容紹介文には多少異議があります。
「傑作青春小説」。
まあ、確かに青春小説ではありましょうけれど、
こういう言い方をすると、ずいぶん溌剌としたストーリーのような印象をもたせてしまい、
それは違うのではないかと・・・。
実はかなりつらく苦い物語です。


航(わたる)のもとに、亡くなった従姉・奈々が残した日記が届きます。
奈々がある自助グループ・レムに参加していたことを知り、
航もレムと関わることになります。
文章中で、航がどんなに従姉の死がショックで傷ついたかということは一言も出てきません。
けれど、物語を追ううちに、
彼の行動すべてに奈々の死が色濃く影を落としていることがわかってきます。
この表現方法は、村上春樹氏の「風の歌を聴け」によく似ています。


レムに集う人々とは・・・
自殺願望があったり、拒食症であったり、不眠症、盗癖・・・、
どこか壊れたところのある人々なんですね。
ここで自分の思いを言葉にしたり、その話を聞くだけの人も。
けれど中にはやはり自殺してしまう人もいます。
そうした体験談を聞くだけでも辛いのですが、
航の状況でそうしたことを見聞きするのは更に辛い・・・。
レムとの関わりは決して力にはならず、行きていく意味が更に薄れ、
航の進む道も見えなくなっていくのですが・・・。


だけれども、どんな人も本当は生きたいのではないか。
生きたいのに、うまく生きられないから辛いのではないか。
どんな絶望の果にも、生への希求が確かにある。
陰々滅々のストーリーの果に、案外にも光があり、読後感は悪くはありませんでした。
それは、拒食症の少女が最後に垣間見せた「生きる力」のおかげでもありましょう。

図書館蔵書にて
「日曜日の人々 サンデー・ピープル」高橋弘希 講談社
満足度★★★.5