映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

蜜蜂と遠雷

2019年10月13日 | 映画(ま行)

原作をうまく整理した脚本の勝利

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直木賞・本屋大賞ダブル受賞となった「蜜蜂と遠雷」が原作。
私ももちろん読んでいて、まだ記憶も新しいところ。
実のところ、予告編を見てこれは失敗なのでは?と思っていたのです。
というのも、いきなり超絶技巧の激しい曲が使われていて、「やり過ぎ感」を覚えてしまったので。
でもこのたび、他にタイミングよく見られる作品がなかったので、一応見てみることに。

しかし、予告編のあまりよくない印象は払拭されました!!

 

芳ヶ江国際ピアノコンクールに挑む4名の若者たちに焦点を絞り、
その経過と彼らの音楽へ対する思いを描きます。

 

母の死をきっかけにピアノが弾けなくなった、かつての天才少女・亜夜(松岡茉優)は、
7年のブランクの後、初めてのコンクールに挑みます。

 

楽器店で働き、妻子もいる、コンクール年齢ギリギリの高島(松坂桃李)。
今回ダメならばピアノの道は断念する覚悟です。

 

名門ジュリアード音楽院在籍中、優勝候補のマサル(森崎ウィン)。
子供の頃、亜夜と幼なじみでもありました。

 

謎のお日様少年、塵(鈴鹿央士)。
天衣無縫かつ底知れない才能を秘めたこの少年に、皆は触発されていきます。

  

原作はかなりのボリュームがあるのですが、
本作はうまくそこを整理したストーリーになっていると思いました。
登場人物もコンテスタント4名に的を絞り、
予選も本当はもっといろいろ何度も複雑にあるのです。
落ち込み、道を見失いそうになる亜夜を他の3人がそれぞれの場面で励まし、
インスピレーションを与えていく場面が描かれているのがよかった。

 

中でも、宮沢賢治「春と修羅」のカデンツァが、
4人分全部紹介されているのが素晴らしかった・・・。
つまり、コンテスタントがそれぞれのイメージで自由に作曲して演奏せよ、ということなんです。
原作は文章だけで、私たちの心に音楽を呼び起こすことで話題になったのですが、
曲名は実在の曲なので、実際に聞こうと思えば聞くことはできます。
けれどここの部分だけは、実在しない訳なので、聞くことができません。
そこを本作中では本当に聞くことができる。
わざわざ本作のために4人分作曲したわけですよね・・・!
すごい!!

 

この、宮沢賢治の亡き妹への思いに満ちた心情、「あめゆじゅ」のエピソード自体、
私もとても思い入れがあるところなので、ここを取り入れてくれた脚本には大満足です。

 

そしてラストにいよいよ亜夜の熱演が来る。
これですよ。
ここまで抑え気味に来て最後に盛り上がる。
だからこそ感動がこみ上げてくる。
予告編では分量は少ないけれど、この盛り上がりの曲を使ってしまった
と言うのが間違いだったように思います。

 

結局大満足。
音楽を、そして感動をありがとう!と言いたいですね。

 

風間塵役の鈴鹿央士さんは新人で19歳・・・え? 
童顔ですよね。
中学生くらいにしか見えない。
これから活躍しそうです。

 

<シネマフロンティアにて>

「蜜蜂と遠雷」

2019/日本/119

監督:石川慶

原作:恩田陸

出演:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士

 

音楽度★★★★★

原作イメージ再現度★★★★☆

満足度★★★★★

 


「優雅なのかどうか、わからない」松家仁之

2019年10月12日 | 本(その他)

家=家庭なのか

優雅なのかどうか、わからない
松家 仁之
マガジンハウス

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20年余の結婚生活を解消、
井の頭公園に接して建つ、築50年以上の一軒家を自分好みに改装し、
新しい生活を始めた匡だったが
欲しいのは家なのか、家族なのか。
ひとりで生きるのは、ほんとうに大変なのか。

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48歳匡(まさし)が、離婚し、古い一軒家を改装して住むというスト-リーです。

 

結婚して20数年、一人息子はアメリカに留学したきり戻る気配もない。
離婚の原因は、つまりは彼自身の浮気なのですが、
その相手は煮え切らない匡に嫌気がさして、ちょうど別れたところなのでした。
・・・ということで、図らずも放り出されたように一人きり。
そんな彼は、これまでなんとなく憧れていた自然のたたずまいの残る、
井の頭公園に接している築50年以上という一軒家を借り受け、改装に取りかかります。

 

そんな一人暮らしが順調に滑り出した頃、匡はかつての不倫相手、佳奈と再会。
佳奈は老いた父親と暮らし始めていたのですが、
その父が倒れ、介護生活を余儀なくされます。
他に頼る相手もない佳奈は、やむなく匡を頼ってしまいます。
匡は多少の復縁の下心もありつつ、佳奈に協力しますが・・・。

 

いっそ結婚した方がお互いのためではないか・・・、揺れる匡の心。

 

つい匡に頼ってしまいながらも、すべてを投げ出したくはない、
個人としての矜持を護りたいという佳奈の気持ちの方に、私はシンパシーを覚えました。

「女にも意地と誇りはあるんじゃあ!!」というやつですね。

 

マメで心優しい匡さんも好きですが、どこかに芯の通っている佳奈さんも好きです。

通常「家」は、家族が住まうところですが、
自己の境界の内側でもある訳ですね。
匡は家にどちらの定義をはめようとしているのか、
そういう物語なのかもしれません。

図書館蔵書にて

「優雅なのかどうか、わからない」松家仁之 マガジンハウス

満足度★★★★☆

 

 


ジョーカー

2019年10月11日 | 映画(さ行)

ある男の破綻と誕生の物語

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バットマンの悪役として知られるジョーカーの誕生秘話。

 

・・・ということなんですが、本作、バットマンなんかぜんぜん知らないよ、という方でも全然OKです。
私は個人的に、亡きヒース・レジャー演じるジョーカーにすごく思い入れがあったので、
本作は是非見たいと思ったわけですが、実際その後のバットマンは見ていません。
本作にはバットマンも全く出てきませんし、
そういうコミックアクション的な部分は全くなくて、
じっくり見るべき破滅的心理ドラマなのです。

 

「どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉に従い、
コメディアンをめざすアーサー(ホアキン・フェニックス)。
全く売れずに、ピエロの扮装でサンドイッチマンをするバイトで食いつないでいます。
若干神経症的なところがあって、
なぜか笑うべきでないところで突然大声で笑い出してしまうという、困った障害があります。
そんな風なので、周りの人たちにもうまく溶け込めない。
抑圧された彼の心がある日爆発し、ある事件を起こしてしまいますが・・・。

 

アーサーの壊れた心の原因は、どうも母親にあるようなのですね。
困ったとき、緊張したときほど笑っていなければならなかったアーサー。

そんな彼が、ジョーカーという化け物に変貌していくことに、
すごく説得力がありました。

そしてまた、アーサーの壊れた心のなせる技で、
彼の見ていることと現実は、異なる部分もあるのです。
そんなところに私たちは幻惑されるのですが、
アーサー自身もさらなる迷宮に入り込んでいく・・・という、悲劇でもありました。

 

できればこれも、ヒース・レジャーで見たかったところですが、
いやいや、ホアキン・フェニックスも超一流のジョーカーでした!

 

<シネマフロンティアにて>

「ジョーカー」

2019/アメリカ/122

監督:トッド・フィリップス

出演:ホアキン・フェニックス、ロバート・デニーロ、ザジー・ビーツ、フランセス・コンロイ、ブレット・カレン

 

狂気度★★★★☆

満足度★★★★.5

 


食べる女

2019年10月09日 | 映画(た行)

女子会は好き。

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雑文筆家トン子(小泉今日子)は、古書店「モチの家」の女主人でもあり、
古びた日本家屋に暮らしています。
料理をこよなく愛する彼女の家に、夜な夜な集まる女性たち。
年齢も職業もバラバラ。
そんな彼女たちの食と性を描く群像劇。

 

ときおり集まってはおいしいものを食べ、飲み、
愚痴を言ったり夢を語ったり・・・。
こんな女子会の雰囲気がいいなあ・・・と思います。
年齢もバラバラというのがいいですね。
アドバイスをもらったり、授けたり。
しかし基本的には個人の生き方を尊重して深くは立ち入らない。
助けを求められればもちろん協力。
こんなおつきあいがあるのなら、
無理に結婚なんかしなくてもいいなあ・・・と、私は思う。

 

そうそう、異色なのがシャーロット・ケイト・フォックスで、
アメリカから来て日本人と結婚した彼女は、
専業主婦なのに食事も作らず、いつも買ってきたお惣菜で済ます。
そんな食事にうんざりした夫が離婚を言い渡す(本当は浮気してたのですが)。
路頭に迷った彼女は鈴木京香の営む料理屋に転がり込んで、料理の修業をする・・・
(役名でなく俳優さん名でゴメンナサイ) 
食は大事です、と言う話。

しかしねえ、まともなものが食べたければまず、
夫が実践例を示し、手作りのおいしさを見せるべきなのだけれど・・・。
男女別にこだわりすぎ。
だからまあ、夜な夜な集まるのも女子だけじゃなくて、
男子がいてもいいと、私は思う・・・。

 

まあ、雰囲気はあるのですが、
今の世界はもっと広くて混沌としているのではないかな・・・。

 

食べる女 [DVD]
小泉今日子,沢尻エリカ,前田敦子,広瀬アリス,山田 優
バップ

WOWOW視聴にて>

「食べる女」

2018/日本/111

原作:筒井ともみ

出演:小泉今日子、鈴木京香、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス

 

食事風景の楽しさ★★★★☆

満足度★★★☆☆

 


ドッグマン

2019年10月08日 | 映画(た行)

自己保身の行動原理

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1980年代にイタリアで起こった実際の殺人事件をモチーフとした不条理ドラマです。

イタリア、寂れた海辺の町。
マルチェロ(マルチェロ・フォンチ)は「ドッグマン」という犬のトリミングサロンを開いています。
妻とは別れて一人暮らしだけれど、犬がいて、時々娘と会い、
気のおけない仲間たちと一緒に食事をしたりサッカーをしたり。
決して裕福ではないけれど、満ち足りた生活でした。
ただ一つ問題なのは近所に住む友人、シモーネ(エドアルド・ペーシェ)。
いえ、友人ではなくて単に主従関係と言うべきでしょうか。
体が大きく自分勝手ですぐに暴力を振るうシモーネは、このあたりでも鼻つまみ者なのですが、
怖くて誰も文句が言えません。
小柄で小心者のマルチェロも結局彼のいいなり。
まるで従順な犬のよう・・・。

 

そんなある日、とある窃盗を思いついたシモーネが
むりやりマルチェロを協力させて、犯行を実行します。
しかしこのことでマルチェロは仲間たちの信用もサロンの顧客も失い、孤立してしまうのです。
当のシモーネにさえもつれなくされてしまったとき、
マルチェロの胸中に芽生えたのは・・・。

 

マルチェロの心の変化は、何かしらストーリーをつけて理解したくなります。
先に読んだ千野帽子さんの話のように。

 

マルチェロは結局シモーネをかばう形で、服役までするのです。
荒くれ者ばかりの刑務所でのマルチェロの立場は悲惨だったに違いない。
そこの詳しい描写はないのですが。
なぜそのときマルチェロはシモーネをかばったのか。
警官は事情をよくわかっていて、シモーネがやったと言うだけでよいのだと、
マルチェロを説得すらしたのに。
分け前がほしかった、それはあるとは思います。
娘と旅行に行きたいと言う望みはあった。
でも、それは恐ろしくてシモーネに逆らえないことの言い訳のようにも思えます。
もしシモーネが服役したとしても、出所してからどのような目にあわせられるかわからない。
人の行動原理の一番奥底にあるのは正義などではなくて、“恐怖”なのかもしれません。
つまりは、自己保身ということで、これは誰にも責められないことではあります。

 

飼い犬だって、生き残るためには牙をむく・・・。
まあ、そういうことなのでしょう。
しかしさらに言えば、このマルチェロとシモーネの従属関係は、
この世界の多くのことにも例えられそうなのですね。
ジャイアンに従属するのび太。
常にアメリカのご機嫌を伺う東洋のどこかの国・・・。
脅しの言葉に負けて、金貨を受け取ってしまったどこかの役員とか・・・。
勇気を持って自分の意見を持って行動しないと、
待ち受けているのは闇なのかもしれません。

 

ラスト、マルチェロとシモーネの対決シーンは誠に鬼気迫る者がありました・・・。

<シネマフロンティアにて>

「ドッグマン」

2018/イタリア・フランス/103

監督:マッチオ・ガローネ

出演:マルチェロ・フォンチ、エドアルド・ペーシェ。マンツィア・スキャーノ、アダモ・ディオニージ

 

暴力度★★★★☆

満足度★★★★☆


「あなたが子供だった頃、わたしはもう大人だった」川崎徹

2019年10月07日 | 本(その他)

 心の流れのままに

あなたが子供だった頃、わたしはもう大人だった
川崎 徹
河出書房新社

 

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坂の上り口の桜の老木がある家、
列車目がけて石を投げた橋、
清掃工場の四角い建物から不安定にそびえた煙突、
ボルサリーノを巻き込んだまま走り抜けた列車、
網棚に置き去られた赤ん坊、
山岳部の再興を託された新米英語教師、
写真部で購入した8ミリカメラ。
小説の時間と現実の時間がまざりあう、著者初の書き下ろし長篇。

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何かの書評での推薦作だったと思います。

「あなたが子供だった頃、わたしはもう大人だった」。
老いた平山夫妻が坂の上の家に暮らしており、
妻の方が夫よりも一回り、つまり12歳年上という状況で、
妻が夫によく言う言葉が、これなんですね。
確かに、夫がまだ無邪気に友人たちといたずらをして駆け回っていた頃に、
妻の方は成人していたということになります。
こう言われてしまっては、もう全然妻に対して偉そうなことはいえませんね。

 

さて、この物語は老夫婦がいわゆる「老人問題」に直面する話かというと、
そうではありません。
元気な妻ではあったけれど、12歳も年上となるとさすがに衰えが目立ってきた。
車もなく、坂道の上り下りは自分でもつらくなってきた。
子供もいなくて、さて、この先どうなることか・・・。
漠然とした不安は持ちながらも、毎日は平穏に過ぎてゆきます。

 

そんな中で、本作で光るのが、会話とか記憶の流れが実にリアルにそのまま流れてゆくところ。
とりとめもない日常会話。
今「この」話をしていたかと思えば、次には連想で、「あの」話に移る。
しかすまたすぐに「この」話の続きになる。
記憶も同じですね。
いま、このことを考えていたけれど、とりとめもなく思考は飛んでいく。
そして不思議にもすっかり忘れていたような過去の出来事が、
会話していくうちに鮮明に思い出されていく。
記憶はまるでタイムマシンのように、人を過去へ運ぶ。
しかし、時にはその記憶自体が、事実とは異なっていることがあったりもする。
不確実だけれども鮮明で不思議な過去・・・。

 

様々な過去のエピソードの中で、一つ大きな出来事は、
平山の高校生時代のある教師のこと。
山岳部顧問となったその教師は、それまで未経験にもかかわらず登山の魅力につかれ、
後にヒマラヤ遠征するまでの登山家となるも、あるとき山で行方不明となる。
そしてまた数十年後に、山で遺体が発見されるのです。
それを知った平山の思い。
「わたしはずっと生きていた、先生がそこで死んでいた間。」

 

時は誰の上にも等しく流れるわけではないようです。
人の思いの中で、自在に時を行き来する記憶の不思議。
・・・それは年齢を重ねれば重ねるほどに厚みを増すけれども、
あるときから急にゆがんで薄まって、消えてゆくような気もします。

 

出来事としては日常しかないのだけれど、大きなドラマを見たような不思議な感覚に陥りました。

図書館蔵書にて

「あなたが子供だった頃、わたしはもう大人だった」川崎徹

満足度★★★★★

 


正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官

2019年10月06日 | 映画(さ行)

理不尽なほど排他的な・・・

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ロサンゼルスの密入国者や不法労働者を取り締まる機関、
移民税関捜査局(I.C.E.)に勤務する捜査官マックス(ハリソン・フォード)。
同僚の捜査官の妹が殺害されるのですが、
その同僚の上着ポケットから被害者の遺品を発見します・・・。

 

捜査官マックスを中心としながら、米国の市民権・グリーンカードを求める人々の群像劇となっています。
9.11以降、理不尽なほど排他的なアメリカで、
夢や人権までもが踏みにじられている実態が描かれていきます。

 

幼い息子を残したまま、メキシコに強制送還される母親。

グリーンカードを入手するために移民捜査官に体を売り渡すオーストラリア女性。

9.11テロ実行犯に同情的な意見を言っただけで、拘置されるイスラム教少女・・・。

 

捜査局の仕事をしながらも、こんな不寛容な政策はどこかおかしいと思うマックスなのでした。
しかし彼は決してスーパーマンではなく、個人としてできる限りのことをするのみ。
そうしたむなしさが伝わる作品です。

 

しかし、本作2009年、つまり10年前の作品。
トランプ政権下の今は、移民の扱いは本作中よりさらに厳しくなっていると思われます。

自由で平等な国、アメリカはいずこ・・・?

「正義のゆくえ」はますます混沌としています。

 

クラマー監督自身南アフリカ出身で、グリーンカードを得るためにかなりの苦労があったとのこと。

 

正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官 [DVD]
ハリソン・フォード,レイ・リオッタ,アシュレイ・ジャッド,ジム・スタージェス
20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

WOWOW視聴にて>

「正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官」

2009年/アメリカ/113分

監督・脚本:ウェイン・クラマー

出演:ハリソン・フォード、レイ・リオック、アシュレイ・ジャッド、ジム・スタージェス、クリフ・カーティス

 

人権無視度★★★★☆

満足度★★★.5


任侠学園

2019年10月05日 | 西島秀俊

町内に一組ずついてほしい

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さあ、西島秀俊さん出演ですねー!

背中に見事な入れ墨、ヤクザな西島秀俊さんもかっこいいですー

 

社会奉仕がモットーの地元密着型ヤクザの阿岐本組、組長(西田敏行)含めて総勢6名。
 なぜこんな弱小の組が未だに生き残っているのか、警察も首をひねります。

 そんな彼らが、経営不振の高校の理事となって、立て直しを図ることに・・・。
 学校の様子を見に行った日村(西島秀俊)や、二之宮(伊藤淳史)らは、
 子供たちは無気力で、教員も事なかれ主義、そんな校風に違和感を覚えます。
 そして、度々校舎の窓ガラスが派手に割られているという事件が発生しますが・・・。

 ・・・という風に始まるお話。

 

学園もの&ヤクザもの、面白かった~。

学校なんか大嫌いだったという、かなりすさんだ高校生らしかった日村が、
 今なぜこんなにも社会奉仕に務めているのかと言えば、
 それは組長の影響だった・・・と言う過去のエピソードが効いてましたね。

見た目は明らかにヤクザそのものなんだけど、皆、心優しい人たちばかり。
 こんな組なら町内に一つずつあってほしい・・・と思ってしまった。
確かに、交番に詰めてて欲しいね。

 

本作、巻き込まれ型兄貴分の西島秀俊さんと、ツッコミ担当の伊藤淳史さんのコンビがいいんだよねー。
 この二人は今までも何度かコンビを組んでいるけれどベストマッチだよね。
 CMでもコンビで出てるし。

先輩後輩とか上司と部下ならこの二人。
 ライバル関係なら香川照之さんと西島さん。
 これでバッチリです!!

私は前田航基君のファンなんで、
 この、いじめられっ子のIT系頭脳派っていう役柄がすごくいいなあ・・・と思った。
ちょい役なんだけど、割と存在感があるって役柄が多いよね。
黙って立ってても確かに存在感はある・・・。

 

えーと、この組は、カタギには手を出さないと言うのが鉄則。
 だけど、別の組を相手にすることもあり、西島さんの見せ所のアクションもちゃんとあるよね。
 ヤクザの組員ではないけれど、悪だくみを画策する半グレ集団に対しては
 「人を誘拐するような奴らがカタギといえるかっ!!」
 と啖呵を切る西島さん、カッコイ~。
 私は思わず大きくうなづいちゃいました。

笑えて人情味を楽しめる、好きだなあ、こう言うの。

原作の「任侠シリーズ」を読みたくなっちゃうね。


<シネマフロンティアにて>

「任侠学園」

2019/日本/119

監督:木村ひさし

原作:今野敏

出演:西島秀俊、西田敏行、伊藤淳史、葵わかな、生瀬勝久、前田航基

コミカル度★★★★☆

満足度★★★★★

↑あくまでも西島秀俊さんファンの立場で、ということでご理解ください・・・

 

 


ぼくの名前はズッキーニ

2019年10月03日 | 映画(は行)

世界中のズッキーニたちに幸せを

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第89回アカデミー賞長編アニメーション部門にノミネートされた、ストップモーションアニメ。
そのときから気になっていたのをやっと見ることができました。

 

アルコール依存症の母と暮らす9歳少年ズッキーニ。
ズッキーニの過失により母親が亡くなり、孤児院で暮らすことになりました。
不安でいっぱいの新生活。
ちょっと意地悪な子もいます。
しかし、周りの友達もそれぞれの問題を抱えていることを知り、次第に打ち解けて、
ズッキーニは自分の居場所を見出していきます。
そんなとき、また新たに一人の少女・カミーユが入所してきます。

 

この「ズッキーニ」というのは、本名ではなく、彼の母が彼をそう呼んでいたのです。
いつも飲んだくれてガミガミ言う母ではありましたが、
ただ一つ母と自分との絆のような気がして、彼はそう呼ばれることを好んだのです。
実のところいくらフランスでも、野菜の名前なんておかしいと、
他の子供たちははじめ、笑うのですが。

 

ここの施設の子供たちのボス格なのだがシモン。
はじめにズッキーニに「ようこそムショへ」なんて言ったりするツッパリくんです。
でも次第にそう悪いやつでもないというのが見えてきます。
はじめからみんな仲良し、なんていうのよりずっといいですね。
子供たちは親が刑務所に入っていたり、虐待を受けていたり、それぞれにそれぞれの事情があって、
そしてまたここへやってきてもなお、心に受けた傷が癒えずに
行動に影響が出ている子がいたりするのです。

 

けれど、ここの施設の職員や、ズッキーニを保護してくれた警官のように、
子供たちをしっかり見守る大人がいるのは救いですね。

世界中の「ズッキーニ」たちに幸せが訪れるようにと願ってやみません。

 

ぼくの名前はズッキーニ[DVD]
ガスパール・シュラター
ポニーキャニオン

WOWOW視聴にて>

「ぼくの名前はズッキーニ」

2016年/スイス・フランス/66分

監督:クロード・バラス

子供たちの実情度★★★★★

満足度★★★★★

 


「うどん キツネつきの」高山羽根子

2019年10月02日 | 本(SF・ファンタジー)

日常から非日常への鮮やかさ 

うどん キツネつきの (創元SF文庫)
高山 羽根子
東京創元社

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犬そっくりの生き物を育てる三人姉妹の人生をユーモラスに描き、
第1回創元SF短編賞佳作となった表題作、
郊外のぼろアパートで暮らす人々の可笑しな日常「シキ零レイ零 ミドリ荘」、
15人姉妹の家が建つ孤島をある日見舞った異常事態「母のいる島」、
ねぶたの街・青森を舞台に時を超えて紡がれる幻想譚「巨きなものの還る場所」など、
全5編を収録。
第36回日本SF大賞候補作。

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先に読んだ「オブジェクタム」で興味を持って、引き続き読みました。
高山羽根子さんの短編集。
表題作の「うどん キツネつきの」は、第一回創元SF短編集佳作となった作品。

そもそもこの題名は何だ???
きつねうどんの話?  
読んでいくとなんと「うどん」は、犬の名前だったのです。
と言うか犬というのがそもそも疑わしい。
でも、一応犬のように見えるのですが、その「うどん」を拾って育てる三姉妹の話。
なんだかほっこり、ユーモラスでもある語り口。
しかし、最後の最後に驚かされます・・・
と言うか、よくわからない。
不思議な世界に知らないうちに放り出される感じです。
「オブジェクタム」でも感じたことでした。

 

SFというとわりと語り口が無機質的になることが多いのですが、
この方のストーリーはなんだか文体や登場人物にぬくもりがありような気がして、好きです。

が、しかし最後の「巨きなものの還る場所」となると、
かなり幻想的でスケールも大きく、もう牧歌的なんていうものではありません。
著者の果てしない将来性を感じさせる一作。
日常から非日常への転換の鮮やかさに幻惑されます。

 

「うどん キツネつきの」高山羽根子 創元SF文庫

 

 


あなたの名前を呼べたなら

2019年10月01日 | 映画(あ行)

女性の自立に向けて

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インド、ムンバイ。
農村出身のラトナは、ファッションデザイナーを夢見ながら、メイドとして働いています。
建設会社御曹司・アシュヴィンの新婚家庭で、住み込みのメイドとして働く予定だったのです。
ところが、婚約者の浮気が発覚して、破談。
傷心のアシュヴィンを気遣いながら、身の回りの世話をすることになったラトナ。

ラトナは日中の空いた時間に、仕立屋に行って裁縫を習うことの許可をアシュヴィンに願い出ます。

 

ラトナは結婚まもなく夫を亡くし、若くして未亡人になってしまったのです。
しかしインドの田舎では未亡人は厄介者扱い。
まるで口減らしのように、嫁ぎ先を追われて都会に出てきたのです。
しかし彼女はこれをチャンスととらえ、
なんとかファッションデザイナーへの道を開こうとしているわけです。

 

でも女性が自立しようとするのは、特に、彼女のような身分では非常に特異なことなのですね。

さて一方、アシュヴィンはアメリカで生活していた期間があるのです。
アメリカの自由な風潮を知っていたし、インドの外からインドを客観視もしていた。
だから、ラトナを応援する気持ちが芽生えたのですね。

 

それでなくとも、一つの家に年頃の男女が同居していたら、身分の差なんて言っていられません。
何かが起こる可能性は大きい・・・。
でも、二人の気持ちが通い合うようになってからも、
ラトナはアシュヴィンを「旦那様」としか呼べません。
名前を呼ぶなどと畏れ多い・・・そんな気持ちを拭い去れないのです。
そして、周りの人々の反応を思えば決して二人の気持ちをあからさまにすることはできない・・・。

 

都会の人々の暮らしはかなり近代化されているわけですが、
人々の気持ちはまだまだ古い習慣にとらわれたままですね。
そんな中ではラトナは恋の成就よりもまず、自分の生活の自立を優先させなければなりません。
でもそういう彼女の心意気が実に爽やかに胸に響くのでした。
ラトナがアシュヴィンを名前で呼ぶとき、
初めて二人が対等な関係になれると言うことですね。

 

<シアターキノにて>

「あなたの名前を呼べたなら」

2018年/インド・フランス/99分

出演:ティロタマ・ショーム、ビベーク・ゴーンバル、ギータンジャリ・クルカルニ、ラウル・ボラ

インドの前近代化度★★★★☆

満足度★★★★☆