映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

ランボー 最後の戦場

2020年07月13日 | 映画(ら行)

何のために闘うのか、ランボーは自身に問う

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ランボーの第4作目。
前3作は3年ずつをおいてトントンと制作されたのですが、
本作はそれから20年後、シルベスター・スタローン自身の監督作品です。

 

ランボーは第3作の時と同じく、やはりタイにいました。
ミャンマーとの国境に近い辺境のジャングル地帯で、河を行く人のためにボートを出したり、
蛇を捕まえてショーの業者に売ったり・・・しがないその日暮らし。


ちょうどその頃、ミャンマー軍事政権によるカレン族の迫害が激化しており、
米国の支援団体のサラという女性がランボーを訪ねてきます。
カレン族の村へ物資を届けに行くのでボートを出してほしいと。
今、その地へ行くのは非常に危険。
渋るランボーでしたが、サラの熱意に断り切れず、引き受けることに。

村付近の船着き場まで一行を送り、引き返したランボーですが、
その後サラたちがミャンマー軍に襲われ、拉致されたと聞きます。
その救出のため、数人の傭兵部隊が送られることになりましたが、
ランボーも同行することに・・・。

前作の時にも書いたのですが、私はこの度「ランボーが何のために闘うのか」にこだわって見ているのです。

この4作目のランボーが未だにタイにいて、
しかもどうにも今の自身自身の境遇に満足できていないというのに、
私は若干の驚きと失望を感じてしまいました。

少なくとも、第3作でタイにいたランボーはそれなりに幸せそうに見えたのですが・・・。

 

どうなんだろう、あのときトラウトマン大佐が
「ここは君のいるべき場所じゃない」と言ったのは、やはり的を得ていたのでしょうか。
それともランボーがその言葉に囚われてしまったのか。
結局生ぬるい日常で彼は「生きがい」を得られなかったようなのですね。

 

・・・というか、なんであの後トラウトマンはランボーの居場所というか働き場所を考えてくれなかったのか、
という疑問は残ります。
しかしさすがに今回トラウトマンは出てこなかった・・・。

だから今回は結局サラの救出のため危険に飛び込む事になったのだけれど、
そこには闘うことが本当に自分の「本性」なのか、
この日常で得られない満足を自分は得られるのか、
そうしたことを確かめたかったのかもしれません。

 

ああ、それにしても20年という時の流れ・・・。
あの若く張りのある美しい肉体はもう見られない・・・。
筋肉はついていますけれどね。
あの頃とはちがう。
そして今回は、本当の戦いとはどんなものなのかも知らない若造の傭兵たちを、
初めは侮られながらも結局は率いることになる。
まあ年齢的にはそうじゃなければおかしいけれど・・・、
あの飢えた狼のような孤高な青年の魂、
そうしたものはなくて、やはりオジサンなのでした・・・。

 

最後に、あきれるほどにすさまじい戦闘の後の死屍累々の場を見渡し、
冷めた目をするランボーがいます。

やるべき事はもうやり尽くしたという思いなのか、
それとも、自分の喜びがこんなことのはずがないという、ようやくの気づきなのか。

 

ラストは、故郷アメリカ、実家の牧場へと歩むランボーの姿。
作中で多分父親がまだいると彼が言っていました。
ちょっと意外だったんですよね。
20年もタイに居続けたのは、アメリカに帰る家もなかったのだろうと思っていたので・・・。
ま、20年ぶりの作品なので仕方ないか。

 

やたらと描写の残酷さが目立ちましたが、
時代がどんどん過激を求めるようになってしまったということかもしれません。

20年の時間経過を考えるには興味深い作品。

 

結局のところ私はやはり、自身のアイデンティティのために闘った、
ランボーの第一作が一番好きです。
後のはなくてもよかった・・・。

しかし、5作目までできてしまった・・・。
本作、「最後の戦場」じゃなくなってしまいましたね・・・。

 

<Amazonプライムビデオにて>

「ランボー 最後の戦場」

2008年/アメリカ/90分

監督:シルベスター・スタローン

出演:シルベスター・スタローン、マシュー・マースデン、
   グレアム・マクタビッシュ、レイ・ガイエゴス、ジュリー・ベンツ

闘う意義度★★★☆☆

満足度★★★☆☆

 


ランボー3 怒りのアフガン

2020年07月11日 | 映画(ら行)

勇敢なアフガン民族に捧ぐ・・・!!

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前回、ベトナムの激戦の後、ランボーはタイのバンコクで
小さな仏教寺院の修復を手伝いながら静かに暮らしていました。
そこへ訪ねてきたのが、元上官、ランボーがただ一人信頼を置くトラウトマン大佐。
彼は極秘任務のためアフガニスタンに潜入するのだけれど、同行してくれないかというのです。

しかしランボーは「自分の戦争は終わった」と、断ります。

しかしその後、アフガニスタンへ潜入したトラウトマンはソ連軍の奇襲に遭い、拉致されてしまいます。
そのことを聞いたランボーは、大佐を救出するため、アフガンへ向かう・・・。

 

私、ランボーのシリーズは、「超人的な戦闘能力を持つ男の胸のすくアクション」というくくりはさほど重要視しておらず、
誰のために闘うのか、そのランボーの内面にこだわりたいと思ったのです。

ランボーは何も殺人が好きなわけではない。
でも自分が生きるためにやむなく闘い、相手を殺してしまう・・・。
元々気持ちの優しい彼であるから、このタイでの暮らしこそが落ち着きどころ・・・、
それでいいじゃない、と思いました。

しかし、そんな穏やかな生活をしているところにわざわざトラウトマンが訪ねてきて、言うのです。
「君の居場所はこんなところではない。君がすべき事は他にあるはずだ。」

ふん、余計なお世話ですよね。
もう巻き込むのは止めてほしい!!

そもそも、アメリカに帰還したランボーがどんな扱いを受けたか。
だからこそ、彼は国にも帰らず、タイで過ごしていたというのに。

多分、ランボーもそう思ったに違いない。
だから、彼はアフガン行きを断ったのです。

それなのに・・・。
お人好しの彼はやはりトラウトマンの危機を放っておけない。
また危険へと踏み込まざるを得ないのです。

 

前二作、トラウトマンは指令本部にいるだけだったのが、今回は現場へ赴く、
と、そこのところだけは評価しましょう。
それにしても、もうランボーには関わらないでほしい。
今回も彼はトラウトマンのために出動したわけで・・・。
国のためとか米軍のためとかは、ランボーは考えていないのです。
そこのところが大事。

 

さて、それにしてもですよ、本作公開時点での状況は、アフガニスタンにソ連が侵攻。
アフガンはそれに対抗すべくゲリラ活動が行われていて、
米国がそれを支援しているわけです。
だからランボーやトラウトマンはアフガンの民と共にソ連軍と戦う。

本作ラストには「勇敢なアフガン民族に捧ぐ」というメッセージが出されるくらいです。

・・・なんという皮肉!!

とても拍手喝采する気にはなれません。

つまり、政治情勢によって敵も味方も変化していく訳なのです。
だから、ランボーが国を信じていないという姿勢こそがここでは光る気がするのです。

しかしそれにしても、アクション作品とは言えあまりにも多くの人が死にすぎ・・・。
それを言っちゃあ、こんな作品は成り立たないのか・・・

 

Amazonプライムビデオにて

「ランボー3 怒りのアフガン」

1988年/アメリカ/101分

監督:ピーター・マクドナルド

出演:シルベスター・スタローン、リチャード・クレンナ、マルク・ド・ジョンジュ、サッソン・ギャベ

 

歴史の皮肉度★★★★★

満足度★★★☆☆

 


「盲剣楼奇譚」島田荘司

2020年07月10日 | 本(ミステリ)

蘇った伝説の美剣士の正体とは・・・?

 

 

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江戸時代から続く金沢の芸者置屋・盲剣楼で、
終戦直後の昭和二十年九月に血腥い大量斬殺事件が発生した。
軍人くずれの無頼の徒が楼を襲撃、
出入り口も窓も封鎖されて密室状態となった中で乱暴狼藉の限りを尽くす五人の男たちを、
一瞬にして斬り殺した謎の美剣士。
それは盲剣楼の庭先の祠に祀られた伝説の剣客“盲剣さま”だったのか?
七十余年を経て起きた誘拐事件をきっかけに、驚くべき真相が明かされる!?

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久しぶりの島田荘司さん、吉敷竹史のシリーズです。
図書館で貸し出し予約をしてあったのですが、コロナ禍での図書館休業もあったりして、
ほとんど発行から1年近くたってやっと読むことができました!

 

舞台は、吉敷竹史の元妻、加納通子の地元、金沢。
通子の親しくしている女性の孫が誘拐されたということで、
吉敷がその事件解明に関わることになります。
この事件の根っことなるのが、この地に伝わる「盲剣士」の謎めいた英雄譚。
本作では、現在と、戦後間もない警察が機能していなかったほんの一時期の事件、
そして盲剣士の伝承となった江戸時代の出来事、
3つの時代が語られます。

 

中でも分量も多くて力が入っている、江戸時代のパーツ、これがなんとも面白い。
島田荘司さんによる時代小説!
主人公は剣の道を究めようとする美形の剣士、山縣鮎之進。
彼が、
「美形で盲目の剣士が、なぜか赤子を背負い、
たった一人で大勢の無頼のものをバッタバッタと切り倒し、
囚われていた女性たちを救った」
という伝説の主に、なるまでの物語です。
鮎之進は並ぶもののない剣の天才。
しかも彼が極めようとしているのは、木刀や竹刀の「剣道」ではなく、
真剣で、実際に人と闘うための剣の道。
しかし江戸時代、すでに戦はなく、剣道は単なる「様式美」となってしまっている。
真剣による戦いは、竹刀などとは全くのベツモノ。
そういうあたりがとても詳しく書かれていまして、実に納得。
鮎之進の無欲でどこか飄々とした感じがすごくいいです。
ファンになっちゃいました。

そこのところにあまりにも力が入っているので、
ミステリとしての「奇想」とか「どんでん返し」味は、
常の島田ミステリよりもやや薄いような気がしましたが・・・。
しかし読み物としては、最高に面白かったです!!

図書館蔵書にて
「盲剣楼奇譚」島田荘司 文藝春秋
満足度★★★★☆


ランボー 怒りの脱出

2020年07月09日 | 映画(ら行)

国家に見捨てられた捕虜たちのために・・・

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前作での騒ぎのため、刑務所で服役していたランボー。
ベトナムで行方不明(捕虜)となった兵士の調査という
特殊任務に就くことを条件に釈放されます。
現地で写真を撮るだけ、戦闘行為は禁止という事で、
軽い任務のはずだったのですが・・・。
ランボーはアクシデントで基地との連絡が取れなくなり、
また、捕虜収容所はもぬけのカラという不自然さに疑問を感じます。
そして、捕虜は今もとらえられたまま虐待を受けていることを知ります。
ランボーは命令を破り、捕虜となった米兵たちの救出に乗り出します。

ベトナム戦争が終結したのが75年。
本作が何年を舞台としているのかはわかりませんが、
まあ、戦後5年前後というあたりでしょうか。
それなのに、まだ米軍兵士が捕虜となったまま、というのには
米国のほの暗い事情があったようなのです。
米国がベトナムに対して賠償金を支払わなかったため、
捕虜が解放されなかったと、作中では言っていました。
そんな訳なので、元々この任務、実際に捕虜がいようがいまいが、
「いない」という結論を米軍=米国は得ようとしていた。
そんなわけで、この任務の口利きはランボーが信頼する元上司、トラウトマン大佐だったわけですが、
真の目的を胸に秘めたマードック司令官こそがクソ野郎なのです。


第一作目では、ランボーと敵対するのは田舎警察の、権力をカサに着た愚か者だったわけですが、
ここではベトナムのゲリラ兵と、彼らを支援するソ連軍が目前の敵。
けれどそれに加えて米軍、すなわち国家こそが真の敵。
こんな中で孤軍奮闘するランボーの強靱な肉体と精神に圧倒されますねえ・・・
やっぱりかっこいいです!!

 

それで前作はランボーが自分自身の「存在」をかけた戦いだったのですが、
今回は米軍の依頼というのが私にはちょっと気に入らなかった。
けれど、このミッション自体が欺瞞であり、
実際には、ランボーは自分自身と、取り残されていた米軍捕虜たちのために闘った、
ということで、納得はできました。

作中ランボーが「俺たちはエクスペンダブル(消耗品)だ。」というセリフがありまして、
これが後々の映画の題名のヒントになったのかも、と思いました。

 

Amazonプライムビデオにて
「ランボー 怒りの脱出」
1985年アメリカ/96分
監督:ジョルジ・パン・コスマトス
出演:シルベスター・スタローン、リチャード・クレンナ、チャールズ・ネイピア、マーティン・コーブ

闘う意義度★★★.5
満足度★★★★☆

 


ランボー

2020年07月08日 | 映画(ら行)

ひたすらに自分の生きる権利を守り抜く

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「ランボー」のシリーズ最新作「ラスト・ブラッド」が公開になったところです。
というわけで、そうだ、「ランボー」を始めからもう一度見てみようと、安直に思った次第。

そもそも第一作目、原題が「First Blood」なんですね。
それと対応しての今回「ラスト・ブラッド」であるワケです。


ベトナムでグリーンベレーとして活躍したランボー(シルベスター・スタローン)。
戦友を訪ねて、とある田舎町にやって来ます。
ところがその戦友は戦争の後遺症ですでに亡くなってしまっていました。
失意の中で、とりあえず食事でも・・・と街に立ち寄ります。
ところが街の警察署長ティーズル(ブライアン・デネヒー)が彼に目をつけます。
ティーズルはランボーを不審者と決めつけ、いきなり署に連行。
初め無抵抗だったランボーですが、警官の虐待がエスカレート。
ついにランボーの我慢も限界に達し、
あっという間に署内の警官たちをたたきのめし、逃走を図ります。
ランボー1人に対して、無数の警官やら軍隊が出動。
次第に戦争のような有様に。
そんな中、ランボーのかつての上司トラウトマン(リチャード・クレナ)が現れ、
ランボーはどんな状況にあっても生き延びる特殊訓練を積んでいると語ります。
彼の説得で、事は収るのか・・・?


ベトナム戦争の英雄。
しかし、戦争が終わり帰還すれば、PTSDが襲い、周囲からは敬遠され職もない。
せめて戦友と語り合いたくても、誰も残っていない・・・。
こんな状況に加えて、この町ではいきなり不審者扱いの上に虐待。
そもそも何もしていないのに逮捕とは・・・!
あまりの理不尽さに、彼は怒り、震える。
その痛みが、ビンビンきます。


ランボーは周囲のものや警官たちの行動をただ映す「鏡」なのです。
相手がにこやかに話しかけてくれば、彼も明るく言葉を交わすだろう。
しかし、彼を傷つけようと暴力を振るえば、それは同じく暴力となって返ってくる。
銃を撃てば銃を撃ち返すし、命を奪おうとすれば、こちらも死を覚悟しなければならない・・・。

あの、権力をカサに着た警察署長の行動は、
過日の黒人のクビを押さえつけて命を奪った警官と同じ匂いがする。
人を肌の色や身なりで判断し、見下して、自分だけが正義だと思う傲慢さ・・・。
そうしたものたちへ、見事な反撃をするランボーに感情移入しますね、強烈に。
本作、ランボーはヒーローなんかじゃない。
ただ、自分の生きる権利を行使しただけ。
何者であろうと、それを踏みにじるヤツには容赦しない。
誰かのためにとか、誰かの頼みでではなく、ただひたすらに自分のため。
この単純だけれど大切なメッセージが何と言っても魅力的なのです。
たしか、シリーズのこの続きはそうじゃなかったですよね。
まあとりあえずそれを確かめるために、また続きを見ることにしましょう。


それにしても、シルベスター・スタローン、若いわあ・・・。
「ロッキー」も見たくなってしまいました!

Amazonプライムビデオにて
「ランボー」
1982年/アメリカ/97分
監督:テッド・コッチェフ
原作:デビッド・マレル
出演:シルベスター・スタローン、ブライアン・デネヒー、リチャード・クレナ

生きる力度★★★★★
満足度★★★★★

 


パラレルワールド・ラブストーリー

2020年07月07日 | 映画(は行)

記憶と真実はベツモノ

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脳の研究を行うバイテック社で働く崇史(玉森裕太)と智彦(染谷将太)は、
幼なじみで親友でもあり、よきライバルでもあります。
ある日、智彦が崇史に紹介したいと麻由子(吉岡里帆)という女性を連れて来るのですが、
それは、崇史が学生時代密かに思い続けていた女性でした・・・。
ところが次の瞬間、崇史が目を覚ますと、麻由子が崇の恋人として朝食を作っているのです。
どうやらおかしな夢を見たらしいと、崇史は思うのですが・・・。
日々、違和感が大きくなっていく・・・。



本作、麻由子が親友智彦の恋人である世界と、崇史自身の恋人である世界、
二つの世界が交互に描写されています。
それで、表題のとおり、二つの異なる平行世界の物語なのだろうと思う訳ですが・・・。
本作はそうではなくて、つまり「記憶」の問題なのでした。



私たちは自分の記憶こそが真実と思って暮らしているわけですが、
しかし、人の記憶など当てにならないものなのです。
自分の記憶と現実はベツモノと思った方がいい。
そしてまた、その記憶を他者が作り替えることができたとしたら・・・。
記憶=個人の真実だとしたら、その者の現実は作り替えることができる
ということになってしまいます。
まさに、個々にとっての「平行世界」が存在するようなものですね。

一体真実はどちらなのか、麻由子の心は本当はどちらにあるのか、
そうした興味で、最後まで目が離せない作品なのでした。

<WOWOW視聴にて>
「パラレルワールド・ラブストーリー」
2019年/日本/108分
監督:森義隆
原作:東野圭吾
出演:玉森裕太、吉岡里帆、染谷将太、筒井道隆、田口トモロヲ

幻惑度★★★★☆
満足度★★★.5


「七瀬ふたたび」筒井康隆

2020年07月05日 | 本(SF・ファンタジー)

いきなり超能力大戦

 

 

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生れながらに人の心を読むことができる超能力者、
美しきテレパス火田七瀬は、
人に超能力者だと悟られるのを恐れて、お手伝いの仕事をやめ、旅に出る。
その夜汽車の中で、生れてはじめて、同じテレパシーの能力を持った子供ノリオと出会う。
その後、次々と異なる超能力の持主とめぐり会った七瀬は、
彼らと共に、超能力者を抹殺しようとたくらむ暗黒組織と、血みどろの死闘を展開する。

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「家族八景」の続編とは言いながら、
これは全くのベツモノといっていいくらいにテーマが変わっています。
「家族八景」はテレパシーという超能力をもつ女性が主人公ではありながら、
「家族」の実態、その実バラバラで身勝手な者の集まりという
皮肉な家族の様相を表すブラックな物語。
ところがこちら「七瀬ふたたび」は、いきなり正統派SFらしくなります。


お手伝い業をやめた七瀬は旅に出ますが、その夜汽車の中で
初めて同じテレパシーの能力を持った子ども、ノリオと出会うのです。
ノリオ3歳・・・。
継母に邪険にされていたノリオは、継母の事故死を期に
七瀬の弟として行動を共にすることになります。
3歳ではあまり頼りにはならない・・・。
しかし、七瀬を欲望の対象としない年齢でなければならないということで、
これも仕方ないですかね・・・。
でもノリオはこの世にたった一人の超能力者として孤独の縁にいる彼女にとって、
何よりの存在となるのでした。

 

しかしその後、彼女はタイムトラベラーやテレキネシス(念動力)を使う者、
様々な超能力者と出会うことになります。
そしてさらには、これら超能力者を人類の敵と見なし
抹殺しようとする暗黒組織との戦いが始まる・・・。


むちゃくちゃSFですね~。
そういえばこの頃、こういう超能力者の戦いというSF作品がはやっていたのかもしれません。
「幻魔大戦」とか・・・、そういえば私も読んでいたのを思い出しました。
そんなわけで、少しノスタルジーを感じました。
本作のラストは七瀬の終焉を暗示させるものだったのですが、
シリーズの続きがでていますので、この場はまだ無事のようです・・・。

「七瀬ふたたび」筒井康隆 新潮文庫
満足度★★★☆☆


火口のふたり

2020年07月04日 | 映画(か行)

いろいろなうしろめたさに、なお突き動かされるふたり

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東日本大震災から7年目の夏。
離婚、退職の後、再就職するも会社が倒産、
以来、プータロー暮らしの賢治(柄本佑)。
そんな賢治が、いとこの直子(瀧内公美)の結婚式に出席するために
故郷の秋田に帰ってきます。
実は昔、愛し合いひたすら求め合った2人なのです。
久しぶりに対面した2人は、直子の求めにより一夜限りの愛を交わします。
しかし、抑えきれない衝動に突き動かされ、
出張中の直子の婚約者が戻るまでの5日間を共にすることになり、
2人は本能のまま互いをむさぼり合うのですが・・・

本作に登場するのは最初から最後までこの2人だけなのです。
外を歩いたり、祭りを見物したりするときの通りがかりの人は出てきますが。
そして2人の赤裸々な愛のシーンも多々。

2人の間には何かしらのうしろめたさがあるようです。
2人はいとこ同士ですが、直子の母が早くに亡くなって、2人は兄弟のように育った。
そんな相手と体を重ねることに、賢治は近親相姦めいた罪悪感を持っていた。
しかし血のつながりの濃さ故に惹かれるところもあるのではないか・・・とも。
けれど、そんな気持ちがあったせいか、賢治は他の女性と浮気し結婚までしてしまい、
2人は別れたのです。
それから会ってもいなかった2人ですが、
今回は直子がせめて結婚前に、あの日の愛をもう一度・・・と思ったのですね。
結婚が決まっていながらも、別の相手と愛を交わす。
ここでまた新たなうしろめたさ。
そしてさらには、例えば大きな災害があったとしても、それはどこかよその出来事で、
自分たちはここでこんなことをしている・・・といううしろめたさ。
こうしたうしろめたさが、いよいよ2人の性を燃え上がらせるのです。



2人の性=生なのだろうという気がします。
彼らの人生の節目が、互いの本能的な性と共にある。
ここまで相性が合うのは、ちょっとうらやましいかも、なんて思ったりして・・・

珍しくベッドシーンではないシーンで、
祭りの夜や、風力発電の大きな風車が立ち並ぶシーン、
こうした中にいる2人も美しく、ステキでした。

<WOWOW視聴にて>
「火口のふたり」
2019年/日本/115分
監督・脚本:荒井晴彦
原作:白石一文
出演:柄本佑、瀧内公美
ラブシーン頻度★★★★★
満足度★★★.5


負け犬の美学

2020年07月03日 | 映画(ま行)

敗者があってこその勝者

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最盛期を過ぎた45歳のプロボクサー、スティーブ(マチュー・カソビッツ)。
これまで、49戦13勝という自慢にもならない成績。
あと一戦、50戦を期に引退しようと考えています。
しかし家族のためにはまだまだ稼がなければならない。
そんな時にスティーブは、欧州チャンピオン・タレク(ソレイマム・ムバイエ)の
スパーリング相手となることにします。
つまり体のいい打たれ役。
いいように使われて、自身の体がボロボロになる危険もあります。
しかしスティーブは、そもそも年齢が行き過ぎていて体力が衰え、動きも機敏ではない。
スパーリング相手としてもクビになりかけますが・・・。

タレク役は、WBA世界スーパーライト級王者、ソレイヌ・ムバイエその人が務めています。
これがハリウッド映画なら、中年の引退間近のボクサーが
馬鹿にされながらも必死でトレーニングを積んで、
テーマミュージックをバックに、チャンピオンを打ち負かす・・・みたいな話になるところですが、
しかしこれはフランス作品。
さすがにもっとしっとりと落ち着いています。
奥さんと娘も彼を見捨てて出て行ったりはぜず、
若干困惑するところを見せながらも、夫・父に寄り添い、支えます。



ボクサーとしては実際、もうポンコツ。
最良の時だってたいしたことなかった。
それでも彼はとにかくボクシングが好きなのでしょう。
だから最後の最後まで頑張ろうと思う。
だからこそ、邦題は「負け犬の美学」。
原題では単に「スパーリング」なのですが。
ちょっとクサい感じではありますが、まあ、悪くはないか・・・。



作中「敗者があってこその勝者だろう」というセリフがありました。
確かに。
負けても負けても頑張っているボクサーや、他のスポーツのアスリートたちは大勢いますね。
そうした人々に捧げる作品と言ってもよいと思います。

娘役はビリー・ブレインという少女。
一瞬男の子かと思うほどのショートカットヘアですが、
このボーイッシュな感じがすごくいいです。
今後もまた別の作品で見てみたい。

<WOWOW視聴にて>
「負け犬の美学」
2017年/フランス/95分
監督:サミュエル・ジュイ
出演:マチュー・カゾビッツ、オリビア・メリラティ、ソレイマヌ・ムバイエ、ビリー・ブレイン

負け犬度★★★★☆
満足度★★★★☆

 


シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢

2020年07月02日 | 映画(さ行)

ダメオジサンたちの夢

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スウェーデンに実際に存在する男子シンクロナイズドスイミングチームをモデルにしています。
シンクロナイズドスイミングは、現在「アーティスティックスイミング」と呼ばれていますが、
本作ができた時点ではまだシンクロナイズドスイミングだったようなので、
それで通させていただきますね。

うつ病で2年前会社を退職し、引きこもりがちに過ごしていたベルトラン(マチュー・アマルリック)。
地元の公営プールで男子シンクロナイズドスイミングのメンバー募集の貼り紙を見ます。
家族に疎ましがられている毎日を変えたいと思い、ベルトランはチーム入り。
ところが、メンバーはみなベルトラン同様に何らかの不安を抱えたさえないダメオジサン・・・。
そんな彼らがやがて無謀にも世界選手権に出場することに・・・。

男子シンクロナイズドスイミングと言えば、それはもう、「ウォーターボーイズ」ですよね!! 
あのときはポンコツの高校生の集まりのチームでしたが、それでも若くて元気でピチピチでした。
ところがこちらはもう、紛れもなくくたびれたおっさんたちです。
これってどうなのよ・・・とは思いましたが。



とにかくさえないおじさんたち。
何度やっても事業に失敗する男。
内気で女性経験がない男。
ロックミュージシャンの夢を諦めきれない男。
妻にも母にも見捨てられた男。
そんな彼らが、ともかくもゆるゆると練習を続けます。
彼らは自分たちのダメさを受け入れて、それでもいいのだ、と開き直っていくように見受けられます。
互いに愚痴を言い合い、同じ競技に取り組む楽しさがあれば、
自分の悩みばかりに囚われずに済む。
そうした効用があったのかもしれません。

一方彼らのコーチ、デルフィーヌは元シンクロ選手。
ペアを組んでいた相手が競技できなくなったことで自分も競技ができなくなり、
ヤケになってアルコール依存症に。
それはなんとか解決したのですが、どうも今は恋愛依存症になっているらしい。
通常はこのコーチの熱意にチームメンバーは引きずられていくという流れになるのですが、
どうもこのコーチはさほど熱心のようには見えません。
ところがその代わりに、彼女の友人アマンダがしゃしゃり出てきます。
車椅子の彼女はなんとも過激な言葉で彼らに檄を飛ばす。
なんとも小気味よいです。
もしかすると、彼女の罵声がダメ男たちの生き方自体にも喝を入れたのかも・・・。
理想を高く持つことは悪いことではないですね。

「ウォーターボーイズ」に比べると、やはりハツラツさやパワー、はじけた感じはないのですが、
年齢なりの充実した感じはあるようです。

<WOWOW視聴にて>
「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」
2018年/フランス/122分
監督:ジル・ルルーシュ
出演:マチュー・アマルリック、ギョーム・カネ、ブノワ・ポールブールド、ジャン=ユーグ・アングラード、フィリップ・カトリーヌ

おっさんたちのダメ度★★★★☆
満足度★★★★☆


「家族八景」筒井康隆

2020年07月01日 | 本(SF・ファンタジー)

超ブラックな「家族」の風景

 

 

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幸か不幸か生まれながらのテレパシーをもって、
目の前の人の心をすべて読みとってしまう可愛いお手伝いさんの七瀬
――彼女は転々として移り住む八軒の住人の心にふと忍び寄ってマイホームの虚偽を抉り出す。
人間心理の深層に容赦なく光を当て、平凡な日常生活を営む小市民の猥雑な心の裏面を、
コミカルな筆致で、ペーソスにまで昇華させた、恐ろしくも哀しい本である。

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本作が刊行されたのは昭和47年。
50年近く前になるのですね。
筒井康隆さんは私くらいの年齢ならものすごーく身近な作家さんなのに、
これまであまり読んでいなかったのです・・・。
お恥ずかしい。
もっぱらミステリ路線だったもので。
でも「時をかける少女」は1967年ジュニアSFシリーズの本で読んで、
シビれてしまい、大ファンになったのです。
後にTVドラマや映画、アニメになるよりも前のこと。
それだけは自慢です!!

 

さて、本作の主人公は18歳の七瀬。お手伝い業。
お手伝いといえばつい「家政婦は見た」などを連想しますが、
そのものズバリ、彼女は仕事をしつつ、様々な家庭の実情を「見る」ことになるのです。
しかも、通常の人が見るよりももっと真相の真相、深~いところまで。
というのも、ここがやはり筒井康隆さんで、
何と七瀬は人の心を読むことができるエスパーなのです!!


しかし、人の心が読めるというのは便利なようでいて大変なことなのです。
先日読んだコニー・ウィリスの「クロストーク」にもありました。
人の心の奥底の、暗くて残酷な部分、醜い部分、身勝手で猥雑な欲望・・・、
知りたくもない薄汚いものがわかってしまうというのはつらいです。
そして個々のそんな心の中の声が、一斉に飛び込んで来るとしたら・・・!
だから彼女は普段はなるべく「掛け金を下ろす」という行為で
無用な人の心の声が聞こえてこないようにしているのです。
「クロストーク」の中でも、そうしたことが非常に大事であることが描かれています。


そしてまた、もし七瀬のテレパシーの能力が人に知られてしまったとしたら、
どんなことになるかわからない。
人からは奇異に思われ、嫌われるだろうし、研究者からは実験動物扱いされるかもしれない。
絶対にこの力を人に知られてはならない。
こうした事を心に誓いながら、彼女は住み込みのお手伝いとして、
様々な家庭を渡り歩きます。
住み込みのお手伝い、というところが時代を感じます。


ところが多くは平和で和やかな家庭を装いながらも、
その実それぞれの心は薄汚くバラバラ・・・。
多くの「夫」は七瀬を見れば襲いかかり犯したいと思うし、妻に魅力は感じず、外で浮気をしている。
「妻」はといえば、夫が疎ましく、夫同様に外で浮気をしたり、若い七瀬に嫉妬したり・・・。
一応まだうら若い乙女の七瀬が、男女のこうした感情を読めてしまったら、
結婚に希望を感じなくなってしまうでしょうね・・・。
結局イヤなものが見えすぎてしまうが故に、彼女は一つの家に長くはいられないのです。
しかし回りに振り回されているわけでもありません。
彼女にとってはそれは日常茶飯事でもあり、極力冷静に見定めているのです。
自分の身に危険が降りかからなければそれで良い。
超能力者である彼女は、ある意味「人間」を超越してもいて、
それが少女としての酷薄さとも相まって、若干残酷な結末になったりもする。
それで、かなりブラックな「家族」の物語となっています。

「家族八景」筒井康隆 新潮文庫
満足度★★★☆☆