新・遊歩道

日常の中で気づいたこと、感じたこと、心を打ったこと、旅の記録などを写真入りで書く日記です。

二人の皇子の妻となった額田王 黒岩重吾『茜に燃ゆ』

2025年02月12日 | 本・新聞小説
額田王「あかねさす 紫野行き しめ野行き 野守は見みずや 君が袖振る」
大海人皇子「むらさきの にほへる妹を 憎くあらば 人妻ゆえに われ恋ひめやも」

皇族出の額田王は大海人皇子の妃として十市皇女をもうけます。しかし兄・中大兄皇子(皇太子)は知的で美しい額田王を弟から強引に奪い取り、代わりに自分の娘・太田皇女と讃良皇女を大海人皇子に与えました。一見仲の良い兄弟ではありましたが、これは微妙で繊細なバランスの上に成り立ったものでした。
当時強い権力を持っていた皇太子は自分の不利益になると、謀反者として無実の罪をきせて容赦なく抹殺しました。
大海人皇子は豪放磊落な生き方を見せますが、出る杭は打たれることをしっかり把握していて、それが大海人皇子を生き延びさせたのです。

そんな張り詰めた緊張を感じていたからこそ額田王は大海人皇子への愛を立ちきり、醒めた眼で二人の皇子を見つめ静かに長く燃え続ける愛を選び、皇太子の愛を受け入れ后となったのでした。

対外的にも高句麗、新羅、百済のせめぎ合いは大和朝廷をも動かします。
その出兵に際して詠んだのが有名な「熟田津に 船乗りせむと 月待てば 潮もかなひぬ 今は漕ぎ出でな」の歌。その背景には極めて複雑な天皇(母)と二人の皇子の関係があったのです。

この頃は10数年ごとに遷都があり、その政治的な意味が詳しくわかったのも回答を得た感じですっきりしました。

黒岩さんの古代小説が定評があるのがよくわかりました。小説とはいいながら歴史の事実には忠実に、人物の心の襞の奥までを否定肯定しながら描写する洞察力が素晴らしく、無味乾燥な年表が美しく繋がっていく面白さがありました。

時間をおいてもう一度読んだら、あの時代がもっと深く理解できる気がします。


コメント

「光る君へ」の余韻‥‥『落花』

2025年01月30日 | 本・新聞小説
「光る君へ」の最終回。旅に出たまひろは、途中で双寿丸の一団に出会います。東国で戦が起こり朝廷側の討伐軍に加わり、そこに向かっているところでした。
見送りながら、まひろの「嵐が来るわ」と言う呟き。その秀逸な終わり方は、摂関政治から武士の世への大きなうねりを予感させる終わり方でした。

荘園制にも陰りが出始め東国には武士が反乱を起こしています。ここのところを深読みしたいと取り寄せたのが澤田瞳子『落下』です。
すると「え~っ???」。同じ文庫本が2冊も届いたのです!
購入履歴を確かめると、何と1冊ずつ別々に購入ボタンを押していました😵💧
ここ数冊の澤田さんの本は短編で、なんとなく心に響かなかったのですが、今度は緻密な構成です。
年代的にはまひろの時代より100年ほど前になりますが、この時すでに武士は成長しつつあったのです。

この頃の東国の時代背景に弱いので、じっくり時間をかけて読みます。


コメント

奈良、平安時代のロマン

2025年01月25日 | 本・新聞小説
「光る君へ」関連で読んだ澤田瞳子『満つる月の如し』を再読して深く心を動かされ、次々と読んだ文庫本は既に12冊。今読書中の他にもう一冊スタンバイしています。
 
著者によって相性が異なりますが、澤田さんの本は自分の心にピッタリ馴染むのです。取り上げる時代も表現も。
澤田さんはもともと奈良仏教史や正倉院文書の研究者だけに資料をしっかり把握しながら、それを隙のない感じでつなぎ合わせて、読者を納得させながら、果てしなくロマンの世界に誘うと言うものです。
殿上人を扱いながらも、底辺の人々にしっかりと目を向けているので空回り感がありません。

直木賞受賞の『星落ちて、なお』は明治期の絵師・河鍋暁斎の娘・暁翠の絵師の葛藤を取り扱ったもので面白かったのですが、私はやはり奈良、平安期の小説の方がイメージを膨らませる範囲が広いし、この時代の若者の純粋なエネルギーが好きです。
ただタイトルが馴染みにくく、本によってはカバー画が漫画っぽいのが気になりますが。
シリアスなものだけでなく、菅原道真を主人公にしたコミカルなものもあります。


コメント

2025年大河ドラマ「べらぼう」の予習に。

2024年10月26日 | 本・新聞小説
来年のNHK大河は、江戸随一の出版元蔦重・蔦屋重三郎が主役で、その波乱万丈の生涯のドラマです。

私が「蔦重」を知ったのは、ある美術番組。絵描きや作家は名前も作品も歴史に残るのに、彼らを世に出した出版元は残らない・・・。これでは浮かばれないと胸がワサワサしたものです。
それが何とドラマになる!NHK の粋な企画に驚きました。

先ず読んだのが増田晶文『稀代の本屋 蔦屋重三郎』です。
登場人物も北斎、写楽、山東京伝、恋川春町、太田南畝、曲亭馬琴、十辺舎一九など文化人のてんこ盛りです。(昔、テストのために名前だけ丸暗記した人たちですが)

そんな江戸庶民文化の爛熟期にストップをかけた老中松平定信の寛政の改革。
弾圧にあいつつも世の中をひっくり返そうとする蔦重。470ページの大作です。

そしてもう一冊は、みずきさんのブログで知った谷津矢車『蔦屋』です。

こちらのほうが登場人物も少なく、それぞれの心の動きが描かれているので、ストーリーとしてとても面白く、わかりやすい展開になっています。
著者も「蔦屋もの」を形作る水滴の一つになれば、と謙虚です。

番組のキャストが豪華です。
蔦屋に横浜流星さん、田沼意次に渡辺謙さん、田沼意知に宮沢氷魚さん、駿河屋に高橋克実さん、歌麿に染谷将太さん。
時代背景も、田沼意次、松平定信が登場する18世紀半ば、江戸の町に大波小波の振動が起きた時代です。

コメント

再び、澤田瞳子『満つる月の如し』

2024年09月19日 | 本・新聞小説
『光る君へ』のために、2年前に読んだ澤田瞳子『満つる月の如し』を再読しています。借りた本だったので、じっくり読むために購入したリユース本です。

ストーリーは大まかに覚えているので、今回は資料を側に置いて、細かな著述の中身と照らし合わせて、手応えを感じながら読んでいます。

この作品で数々の賞を得ているのでストーリー性はもちろんですが、当時の政治、貴族、庶民、有職故実、地図など、相当に資料を読み込み研究されており、重厚さがあります。
1行1行を丁寧に読んでいくと、まさに平安京の町並みが、装束が、情景がイメージでき俯瞰しているような気持ちになります。
更に「光る君へ」の美しい映像と重ねられるし、こんな贅沢な読書ができるのがしあわせ!

 ☕ ☕ ☕ ☕ ☕ ☕ 
食事の用意は短時間になります。手抜き隠しはカラフルな色でカバーしています。
お昼ごはんは、肉を使わない具材沢山の焼き飯です。

夕ごはんはコールドスタートの鶏肉ソテーです。
フライパンの中で酒大さじ1、塩小さじ半分を揉みこみ弱火で蓋して10分、火を消してそのまま5分、蓋をとり強火1分で焦げ目をつける超簡単料理です。モモ肉でなくむね肉でOK です。

千切りキャベツは多めにスライス保存していて、ドレッシングで和えたコールスロータイプ。残暑が暑過ぎるのでよく合います。

差し色のフルーツパプリカが活躍します。2食とも黄色が多すぎるのは、今日の卵が1人分2個ちょっとになったから。

この夏に、紫蘇と青紫蘇ジュースを5Lほど作りましたが、いよいよ最後の青じそジュースです。冷蔵庫保存が大変だけど、来年はもっと作りたい!



コメント

今日いち-2024年9月18日

2024年09月18日 | 本・新聞小説
友人の薦めで、初めて佐伯泰英『御鑓拝借』を。
豊後の小藩を題材にしたもので時代小説だけど、歴史の部分も細かく調査されていて夢中になっています。読書時間が欲しく、夕食は残り物を並べました。
コメント

カフェオレで『指先から旅をする』を読む

2024年07月19日 | 本・新聞小説
あの宝石のような音を奏でる藤田真央さんの筆になる本が出版されたことは知っていましたが、文庫本になり買いやすくなってから購入するつもりでした。

が、録画したモーツァルトのソナタを聴く度に、やっぱり買おうとアマゾンでポチッ。すぐ届きました。

頭のなかはいつも音楽で占められている藤田さんの文章は実に美しく、エッセイなので一語一語かみしめながらゆっくり読めます。

こんな時には、なぜか紅茶でなくカフェオレが欲しくなります。

温めた牛乳を泡立てて、コーヒーに静かに注ぎココアを振りかけます。くっきり二層になって、目でも楽しめるコーヒーです。

少し手間を掛けてコーヒーを淹れ、好きな本を読む、この上質の時間が大好きです。




コメント

塩野七生『わが友マキアヴェッリ フィレンツェ存亡』

2024年05月05日 | 本・新聞小説
チドリソウ。環境に強い種で、こぼれ種が門灯を覆い隠すほど成長したので切り花にしました。

小さい鳥が飛ぶ形に似ていることからついた名前だとか。我が家の春の庭に欠かせない花になっています。ヒエンソウ(飛燕草)とも呼ばれます。
拡大するとチドリでなく、真ん中の花弁がムンクの「叫び」を彷彿させますが、表情から「歓喜」の方がしっくりきそう。

📖📖塩野七生『マキアヴェッリ』📖📖
この文庫本は断捨離から外してはいたものの長い間捨て置かれた本でした。数十ページは読んでいたのですが、読み進めなくて・・・。

塩野さんのルネサンスシリーズ4巻の後に続いて読んだ『チェーザレボルジア・・・』と『ルネサンスの女たち』はまさに心を踊らせる内容でした。全部再読ですが、歴史が少しわかってから読むといきいきと新鮮に読めます。
この両方に度々登場するのがマキアヴェッリ。教科書では『君主論』の著者として記憶し、このようにイタリア国内、フランスまで駆け巡って活躍する認識はありませんでした。
この時頭に浮かんだのが、捨て置かれた『わが友マキアヴェッリ』。文庫本で630ページの大作ですが、こうなったら読んでみよう!
マキアヴェッリは思想家と思っていましたが、フィレンツェ共和国の書記官でした。貴族出身でもなく、大学も出てないことから能力はありながらも書記官止まり。その仕事に満足し活躍していましたが、メディチ家転覆の罪を着せられて獄へ。 この後、郊外の山荘に隠遁して執筆活動に入り数々の名著を生み出しました。
その著作により有名になると交友も広がり、メディチ家とも和解、グィッチャルディーニという年下の信頼できる政治家に出会い、共に素晴らしい書簡を交わしながら、単発的に仕事をします。
北からはフランスが、南からはスペイン・ドイツがイタリアを狙います。ローマ教皇庁も加わり国際情勢も混沌としてきます。

1527年スペイン・ドイツがローマを攻めて、半年間も全ローマが破壊される「ローマ掠奪」が行われました。ルネサンス時代の建物の8割が焼かれたり破壊され、更にペストが追い討ちをかけます。法王はほぼ無条件でスペイン王カルロス(カール5世=神聖ローマ皇帝)に屈しました。
この頃メディチ家がフィレンツェから追放されました。マキアヴェッリはメディチの居ないフィレンツェに自分の居場所を確信して、再び書記官に立候補します。しかし惨敗で、もう一度祖国のために働きたいという願いは、祖国からも拒否されてたのです。 
この10日後に病に倒れ、その2日後に亡くなりました。落選が原因のようです。
イタリアはヴェネチアを除いてほぼスペインの支配下に入りました。ルネサンスの開放的な文化と知的交流の世界は終わりました。

この本の副題は「フィレンツェ存亡」。最終章が 「ルネサンスの終焉」。16世紀は歴史の動きを左右するのが都市国家から領土型国家に移る時でもあったのです。

コメント

面白すぎる!

2024年03月30日 | 本・新聞小説
4半世紀も前、イタリア旅行前に読めばと友人に薦められたのが塩野七生さんの本でした。タイトルは字余り的な『チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷』。
小国乱立のイタリアと複雑な人物相関図、紛らわしい長い名前に辟易しながらどうにか読んだものの、理解できたのは枝も葉もなく幹の部分だけでした。

それが塩野さんの文庫本を70冊以上も読み終えて、再度手に取るとよく理解できて、「こんなに面白かったのだ!!!」と深く感動しました。

春休みを前に孫に送るつもりの塩野さんの8冊でしたが、夫が「ちょっと待って」と言い出しました。
そこで、15世紀のイタリア、最も華やかなルネサンス時代を知りたかったらと、この2冊を薦めました。
『ルネサンスの女たち』は恋愛小説とは程遠い、政治に振り回された、あるいは振り回した女たちを中心にイタリアの領土分取り合戦です。
イタリア北部の小国、ヴェネチア、フランス、スペイン、ローマ法王、果ては東のトルコまで絡んでヨーロッパが動いた・・・、とにかくワクワクする内容です。

塩野さんの本は膨大な資料に裏付けされて、歴史上実在した人物相関図も地図も、さらには増版本にはルネサンス期の名画もストーリーに織り込むという緻密さ、素晴らしい本です。

🍜 🍜 🍜 🍜 🍜 🍜
お昼は私だけ塩分を気にしないうどん!

冷凍していた牛丼用の肉を使って温玉牛うどんです。
夫は1人分しか残っていなかったロールキャベツを満足して食べているので、私も堂々とうどんを堪能しました。満足!!!幸せ!!!

このロールキャベツは、キャベツの葉を大きいまま茹でて冷凍保存していたものを使いました。
解凍した葉で肉を巻き込むと、繊維がさらに柔らかくなって、くるっと抵抗なくきれいに巻けます。





コメント

2025年NHK大河は蔦屋重三郎

2024年03月03日 | 本・新聞小説
来年の大河ドラマは、なんと「蔦重」だって!
朝井まかて『秘密の花壇』で滝沢馬琴、山東京伝が出てきますが、蔦重は脇役程度でした。
歌麿はもてはやされても、彼をプロデュースした蔦重の名前が出ることはめったにありません。やっと陽の目を見たとワクワクしています。
江戸時代と吉原は切り離せません。大河ドラマでは、その花魁に小芝風花さんが抜擢されて、これも期待がもてるところです。

蔦屋重三郎の本を探して、早速取り寄せました。

華やかな歌麿の絵に隠れて出版元が取り上げられることは稀ですが、ここでは主人公。有名、無名の画工の絵心を磨きあげて世に広めるという名プロデューサーの手腕が詳細に書かれています。
そして松平定信の発する禁制に抗う出版元の意地と意気込み。禁制に背いた罰として財産も家も半分没収されるという苦い経験をします。

そんな苦労の中で見いだしたのが写楽。謎の多い写楽。数多い写楽説の中から一番納得させ得るプロットに仕立ててあるのに深く感動しています。
ある一瞬だけ輝いてスッと消えた写楽に「なぜ?」。ここの部分も納得でした。
掲げられた参考文献が50冊ほど。文中にその努力の箇所が見え、江戸の舞台の輪郭をよりはっきりさせています。

とにかく1年間のドラマがどんな風に展開されるか待ち遠しく思います。










コメント

背景を知るとひと味違う「光る君へ」

2024年02月11日 | 本・新聞小説
前宣伝が紫式部の物語と聞いていたのでそれらしい文庫本を買いましたが、始まってみれば道長も主役の物語。柄本佑さんの凛々しい姿に、道長に興味が湧き『道長ものがたり』を購入しました。

2月12日放送に関して『道長ものがたり』からの一口メモです。
右大臣の父・兼家と姉・詮子は道長に左大臣・源雅信家への婿入りを勧めます。
源氏姓は血統が天皇に近く高貴な氏族。対して藤原氏は臣下になるのです。この先、黒木華さん演じる倫子と道長がどんな風に結ばれていくのか楽しみです。

長兄・道隆の家で漢詩の会が行われました。これを勧めたのが妻・貴子です。受領・高階氏の出で、内裏の掌侍を務めた女官で漢文にも長けています。
上級貴族の子女に比べると品の劣る立場でしたが、道隆が欲しかったのは〈高貴さ〉でなく〈知性〉で、これが見事に当たりました。貴子は知性に秀でた長女の定子を生むことになります。

父の兼家も妻の血統に頼らぬ実力主義の人でした。系図には5人の妻があり天皇の内親王もいたようですが、受領階級出身の時姫を正妻(道隆・道兼・道長の母)にしました。
財前直見さん演じる寧子も妻の一人で、『蜻蛉日記』は彼女の手になるものです。

藤原公任役の町田啓太さんは道長兄弟の又従兄弟ですが、何事にも優れていて、道長が「うちの子は公任の影法師も踏めない」と嘆いていたそうです。
毎回、平安の装束が素晴らしく衣ずれの音が聞こえそうです。

Gooブログ《新古今和歌集の部屋》にリンクされた「光る君へ第6回」を見ると、脚本はここまで気を配るのかと大石静さんの力の入れようが分かります。見逃したらもったいない。下記にリンクを貼っておきます。
https://blog.goo.ne.jp/jikan314/e/7f5c0b899bd2205af7f397d45744ac71



コメント

やっぱり塩野七生さん!

2024年02月08日 | 本・新聞小説
正月に来た時に、世界史が好きという高1の孫が「何か面白い小説はない?」
すぐに塩野七生さんが頭に浮かびましたが、塩野さんの「ローマ人の物語」を初めとする文庫本70冊ほどは全て処分していました。
心にひっかかるものがあり辛うじて残していたものが『海の都の物語ヴェネツィァ共和国の一千年』『コンスタンティノープルの陥落』『ローマ亡き後の地中海世界』です。それを喜んで持って帰りました。

順序として『海の都の・・』『コンスタンティノープル・・』の後に、イタリア三部作の『緋色のヴェネツィア』『銀色のフィレンツェ』『黄金のローマ』と続けて欲しいと思い、ネットで探しました。

すると増訂版『小説イタリア・ルネサンス』と名を変えて4巻に生まれ変わっていました。
増版の部分が気になり、このまま孫に配達してもらう前に、自分が読みたいと我が家に届けてもらいました。

20年前に読んだはずなのに、面白くて、面白くて、息継ぐ間もなく読了!
塩野さんの配偶者の祖先はヴェネツィアと聞いたことがあり、4巻目もヴェネツィアの話。塩野さんのヴェネツィア愛に引き込まれて私もヴェネツィアが好き!
文化勲章受章を聞いた時は「やっぱり!」と嬉しくなりました。

『ローマ人の物語』は文庫本で43冊。孫がこの本を読みたいと言ってきたら、即、送るつもりですが。
待っています。



コメント

「英雄たちの選択」……渋川春海

2024年01月18日 | 本・新聞小説
BS「英雄たちの選択」で『天のことわりを見抜け!渋川春海 改暦への挑戦』の録画を正月気分が抜けた頃やっと見ました。
地味~なタイトルですが、年の初めにふさわしい清新な番組でした。
渋川春海は別名・安井算哲を名乗る幕府お抱えの囲碁棋士でもあります。
自分で天体観測をして、あらゆる資料を読み、日本独自の暦作りをめざしますが、失敗と挫折の苦節20年。
この番組の出演者が作家冲方丁(うぶかたとう)さんで、春海への思い入れが深く熱かったのでとても印象に残りました。

中学では「江戸時代に暦を作ったのが渋川春海」とテスト用の無味乾燥な記憶をしていました。だから冲方さんの解説を聞いて大きく心を揺すぶられました。
もっと詳しく知りたい・・・と本を購入。

タイトルも著者名も四角張って引いてしまいそうですが、とにかく一気に読めて、読後が爽やか!

春海のサポートが徳川光國、保科正之、酒井忠清・・・と、この辺りも面白いところです。そんな恵まれた中での一大事業でした。

『武家の手で文化を創出し、もって幕府と朝廷の安泰をなす』という保科正之の願いどおりに、それまでの宣命暦、授時暦、大統暦の誤謬を指摘し、大象限儀で観測した自分の暦「大和暦」の正しさを証明したのです。それを「貞享暦」と呼ぶ勅命を賜り、改暦実現となったのです。

17世紀中頃。関孝和も主要な登場人物で、この頃の算術がかなり発達していたのには驚きでした。
『勾の二乗に、股の二乗を足すと、弦の二乗に等しい』
なんともう、三平方の定理があったのです!びっくり、びっくりです。明治維新で急激に科学が発展したのではなく、この頃からの基礎があったのだと思われます。 

これで春海は幕府初代天文方になりますが、国立天文台の職員の方は今でも「渋川先生」と呼ぶそうです。


コメント

今度こそ松平春嶽が主人公!

2023年11月27日 | 本・新聞小説
幕末の小説には必ず登場する松平春嶽。徳川一門でありながら開明的であった春嶽が、小説やドラマで主人公になることが少ない気がしていました。
なぜ?そして偶然見つけたのがこの本です。
★ 葉室麟『天翔ける』

越前藩主と言いながらも生まれは御三卿の田安家。徳川の血が流れている家門大名です。早くから開国論者でしたが、同時に尊王でもあったので朝廷と敵対したわけではありません。国内外の緊迫した状況の中で幕府を守るために公武合体、雄藩連合とその都度模索していきます。
大きく影響を受けた橋本左内、横井小楠の具体的な思想が分かりやすく書かれており、坂本竜馬の訪問は大政奉還へとはっきり舵を切りました。
この時の小御所会議の場面が秀逸です。(春嶽+山内容堂)対(岩倉具視+薩摩)のやり取りの場面が詳しく書かれて、その歴史的意味がはっきりと納得できました。
将軍慶喜に対する春嶽の覚めた観察眼がなかなか面白く、慶喜像を一番納得させてくれました。
権勢欲がなく奸智を巡らさず、誠実に調和を図りながら政権交代に大きく貢献した春嶽の一生を描いた小説です。


★ 辻原登『発熱』
2000年、日経の連載小説で初めて辻原登さんの小説に出合い印象に残っていましたが、何となくまとめて読んでみたいと思うようになり文庫本を取り寄せました。
というのも、著者の知的視野が広くクラシック、漢詩、絵画、古美術、焼き物、国内外の文学・・・が至るところに散りばめられ、読み進めながら豊かな気持ちになったからです。

ウォール街で名を知られた凄腕のトレーダー天知龍。暴走族上がりで少年院にいた身寄りのない彼に手を差し伸べたのが亡き母の美しき友人。その支えがあって東大からニューヨークへ。

無届で米国債の運用をしている邦銀の行員を、龍は巨額の債権を空売りして合法的に叩きのめします。そんな生活に嫌気がさし、異常な夢から覚めたように日本に帰国します。

そんな辣腕の彼に誘いの手がかかります。戦後日本の既成権力集団に挑む戦いです。
手始めに不良債権にまみれた証券会社を自主廃業させ、政府系銀行を潰しにかかります。
権力集団の反撃は苛烈で、そこに見え隠れする謎の女性が、母の友人であり龍を陰で支えた女性と同一人物でした。20歳も年上の彼女を思慕する龍。
トップクラスの人間相関図に恋愛感情も絡んで、複雑な糸がサスペンス風に解きほぐされていきます。
金融の世界を理解するのは私にはハードルが高く、完全に理解できたという感じがありません(-""-;)
芥川賞受賞作家というだけあり、細部までも繊細な感覚で見つめ、それを美しい日本語で表現するところに大いに心が引かれました。








コメント

葉室麟『星火瞬く』

2023年11月09日 | 本・新聞小説
ロシア人で歴史上の人物という記憶しかない「バクーニン」が、葉室麟さんの手になれば一気に読んでしまう歴史小説になっています。
明治維新前夜の横浜ホテルで遭遇した人物達が絡む話ですが、その登場人物が当世のAクラスばかり!

一度は日本から追放されたシーボルトが、開国した日本に入国を許されて息子を伴ってやって来るところから物語は始まります。ストーリーテラーは息子アレクサンダー・シーボルト。若く繊細で柔かな視点がフレッシュです。

ロシアの思想家バクーニンがシベリア流刑地を脱出、箱舘を経て横浜ホテルに現れたのです。
そのわずか数ヵ月の横浜滞在中に交流するのが小栗忠順、勝海舟、清河八郎、高杉晋作、オールコック、ジョセフ・ヒコ(浜田彦三)。
ロシア軍艦の対馬占領や公使館焼き討ち事件に絡み登場人物はもっと増えて15~6名。まさにキラ星です。その複雑な糸をほぐす様に維新前夜の動きが興味深く味わえます。
登場するジョセフ・ヒコは吉村昭『アメリカ彦三』で感動の一冊になっています。
幕末の動乱期に幕府を支え近代化を目指す小栗忠順の言動が興味深いところで、もっと取り上げて欲しい人物です。



コメント