間もなく終わりますが、今肉筆の浮世絵展が開催されています。浮世絵というと多色刷り木版画の「錦絵」を目にすることが多いのですが、今回は筆で描いた肉筆の浮世絵、一点ものです。細部までひと筆ひと筆丹念に描き込んでいった絵師の力量に圧倒されます。
絶対に見たかったのが北斎の「酔余美人図」と「夏の朝」。これが前期と後期に分かれて展示されたので、2度も足を運ぶことになりましたが、170点にも及ぶ作品だったので2回でやっと満足のいく観方ができました。
前期に展示された「酔余美人図」―― 絵葉書からの写真(氏家コレクション蔵)
幅30センチ余りの小さな作品です。何ともなまめかしい姿態です。三味線箱の上の赤い包みは恋文か?とも言われています。飲み干して空になった盃。
この状況から、酔いに身を任せて三味線箱にもたれかかり物思いにふけるというところのようです。赤の使い方がこの場面を引き締めている気がします。
最も見たかった後期展示の「夏の朝」――― 絵葉書より(岡田美術館蔵)
長さが90センチ弱の細長の絵です。華やかな花魁の衣裳とは違って落ち着いた色の格子縞の着物、しっかり織り込まれた帯、四角く抜いた衣紋と着物の流れるような線の対比。後姿で見えない顔は鏡に映してその表情を見せるという心憎さ。構図も意匠も素晴らしいです。
キャプションには、吊り衣桁に掛けられた粋な縦縞の男の着物から、夫が起きる前に床を出て朝の化粧に余念がない姿と女心を描いたものだとか。
小道具への心配りも細やかです。
足元の鏡の蓋には金蒔絵がしてあり、その上に乗せた鉢には水が張られて朝顔が浮いています。その花も幾重にか重ねられているのです。歯磨き用の棒も見えます。
向うには足付きの水盤があり、水草の間に金魚が浮いています。まさに夏の朝です。
花魁でもなく武家の妻でもなく庶民の妻。心豊かな空気感と幸せな時間が伝わってきます。