★ アルテ・ピナコテークで絶対に忘れてはならない画家の絵を落としていました。デューラーと並ぶ大切な画家、アルブレヒト・アルトドルファー『アレクサンドロス大王の戦い』です。
この画面にいったいどれくらいの兵士が描かれているのでしょうか。一人ひとりの表情は違い、まるで生きているかのように描かれています。その精密さ緻密さには気の遠くなるような画家の努力と才能が見えます。
紀元前4世紀のこのイッソスの戦いは、アレクサンダー側が3万人、ペルシャのダレイオス側が10万人。画家はその人数の多さを、うねるようにつながった軍隊の隊列で完璧に表現していると思います。
アレクサンダー大王は兵を縦横無尽に指揮してペルシャ軍に勝利し、その大王の象徴が右上の太陽です。
それまでのイッソスの戦いの絵は二人の主人公が主役でした。しかしこの絵では、二人の主人公は探さないとわからないくらい小さく描かれています。
地表を埋め尽くす軍隊は下半分に描かれています。上半分には、海と山と空の壮大なパノラマ、二人を象徴する太陽と月が描かれ、背景が風景画として大きな意味を持っているそうです。
アルトドルファーは西洋絵画で初めて風景がを描いた画家といわれています。それまで宗教画の背景にほんの少し描かれるだけだった風景を、人物は描かずに風景だけ描いたのです。今では当たり前にある風景画ですが、アルトドルファーが風景画の端緒を開いたとして高く評価されているようです。
ナポレオンはこの絵を浴室に飾っていたそうです。アレクサンダーの軍事的能力と密集歩兵隊を指揮するうまさ。古代のヒーローに学びたかったのかもしれません。
★ スイスの画家は日本ではあまりなじみがありませんが、スイスでは第一人者として彫刻家のジャコメッティと、画家のフェルディナント・ホドラーが挙げられています。
ホドラーの絵はチューリッヒ美術館にたくさん展示され、階段の踊り場には青いドレスの女性群像が展示されています。風景画はアルプスの空気の透明感がよく出ていて、左右対称、上下も対称のシンメトリーの構図が自然の静謐さを添えている感じです。
彼は、30代の終わりまでは食べるために働かなくてはならないほど苦労しますが、後にはクリムトと並んでウィーン分離派の中心的存在にまでなります。