表紙の絵がほのぼのしている、こんなかわいい本「ジャミールの新しい朝」(くもん出版)をいただきました。「小学校中級から」となっていますが、決して子供向けだけの本ではありません。
子供の心のひだが誠実に、正直に表現してあり、読み進むうちにいつの間にか子供のころの純粋な気持に帰っている・・・。読むと心があたたかくなる本です。
帯には「君はひとりぼっちなんかじゃないよ。落ち込んだ時、悲しくなったとき、そっとこの本を開いてごらん。新しい一日が、ここからはじまるんだ。」
舞台はトルコ。2か月の間に最愛の母を、続いて父を亡くした少年ジャミールは、今は一人ぼっち。ひとりで生きていくことを決心した彼は、だれの手も借りようとはせず、近所との交流も避けて、かたくなに心を閉ざします。そんなときにひょっこり出会った子犬。心を奪われそうになりながらも、必死に心を冷たくして子犬を追い払います。「そんな余裕はないんだ・・・」と。
そしてある朝、トルコの大地震が・・・。ジャミールは、崩壊した家の下敷きになり、暗闇の中で死の恐怖とたたかいながら、ひとり孤独に耐えます。そんなときに彼を見つけてくれたのが子犬でした。
ジャミールは犬に向かってささやきます。「はじめて会ったときから、ぼくは、おまえがすきだったよ。・・・・でも、それはこわいことなんだ。だって、ぼくが大すきな人は、みんな死んじゃうんだよ。さいしょはかあさん、それから、とうさん。ぼくはこわかったんだ。もし、ぼくがおおまえを大すきになったら、おまえにもなにかおこるんじゃないかと思って。そんなことになるのは、いやだった。わかるだろ?」
「犬がいくら追いはらってもはなれずにいてくれて、ほんとうによかった。その上、がれきのなかをはってきて、ぼくを見つけてくれたんだ。 」と、ジャミールは、一人ぼっちになって以来、ずっと胃の中にあった固いかたまりがとけていくのを感じていました。
子犬と村の人たちに助け出されて、瓦礫の村を目の当たりにしたジャミールは、自分の家を建てなおすには村の人の助けも必要だし、自分もみんなを助けてあげられるだろうと思います。村の人が彼に差し出していた手は、同情なんかでなく愛情であり、村の人たちとの心のつながりが支えになることにジャミールは気づいたのでした。
トルコに旅行をした折に、牛・羊の放牧や、くたびれた背広を着て日がな一日お茶を楽しむオジサンたちの習慣も見ました。畑仕事の手を休めて、観光バスに手を振ってくれた農家の人たちの笑顔。ジャミールの隣人たちのように、トルコは心の温かい人たちの国でした。
この本の訳者、加島葵氏は、北九州出身者です。多数の児童文学を翻訳出版されています。