このパンフレットは、福岡市美術館で今開催中の「安宅コレクション」展のものです。中国・朝鮮陶磁のコレクションとして世界的にも比類のないコレクションは、安宅産業の取締役会長を務めた安宅英一氏によるものです。
安宅産業は昭和52年に経営破綻に陥りましたが、幸いにも主力銀行であった住友グループによって大阪市に寄贈され、散逸を防ぐことができました。大阪市は昭和57年に大阪市立東洋陶磁美術館を新に設立し、コレクションを保存展示してきました。
この展覧会の副題は「美の求道者・安宅英一の眼」です。恵まれた資金、優れた鑑識眼、収集意欲、国内外に持つ恵まれた人脈によってコレクションは作り上げられました。音楽分野に対しても保護と育成に貢献し、氏の芸術に対する深い理解と信念に敬服します。
写真は国宝《飛青磁花生》元時代のものです。 細い首、ゆったりと膨らんだ胴。文句のつけようがない均整の取れた完璧なまでの形の美しさです。中国の青磁には、高麗青磁とは違った透明感がありました。
右の汝窯《水仙盆》は、昨年の台湾故宮博物館のリニューアルオープン記念にただひとつ東洋陶磁美術館から出品されていたものです。世界中から集まった汝窯の名品の中でも引けをとらない美しさでした。1年ぶりに再会したような懐かしさを覚えました。
もう一つの国宝《油滴天目》南宋建窯は、黒釉の中の鉄の微粒子が偶然に定着して現れたという現象で、みなのため息のもとでした。背伸びして上から覗いたり、横から見たり。
油滴天目中最高のものとされ、関白秀次から西本願寺、三井家、酒井家に移り、名品は数奇な運命をたどるものだと思いました。
展示品の一つひとつに、入手した時のエピソードが関係者によって書かれており、それがまたユニークで、鑑賞者のイメージを膨らませました。
国宝2点、重要文化財12点をはじめとして約200点が展示されています。私みたいな陶磁器に疎いものにも感動する作品が多く、日本でこれだけの名品が収集されたことに驚きと感動を覚えました。
安宅産業が破綻した折に、これらの価値ある作品が散逸しなかったこと、させなかったことの素晴らしさに改めて感銘を受けました。日本人の良識、日本の国益・・・。とてもいい展覧会でした。2月17日まで開催されています。