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萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

夏嶺、香らす花に―万葉集×Ben Jonson

2013-07-14 23:58:35 | 文学閑話韻文系
青山白花、光の夏に



夏嶺、香らす花に―万葉集×Ben Jonson

都久波祢の 佐百合の花の夜床にも 愛し家妹ぞ昼も愛しけ  大舎人部千文
つくばねの さゆりのはなの ゆとこにも いとしけいもぞ ひるもいとしけ

筑波嶺に咲く小百合花、
あの香り高い花を敷いた夜のベッドに愛しんだ僕の恋人、
あの人が昼も愛しい、家に置いて愛しんでいたい、百合の花のよう香らす美しい君を。

雑歌として『万葉集』巻二十に掲載される防人の歌ですが、コレって恋歌でしかないなと。笑
今日は歌にある都久波祢=筑波山に登って来たんですけど、リアルに山百合が咲いていました。
千年以上前に歌われた百合の子孫が今に咲く、そういうの面白いなと。笑

筑波山はツインピークスの山です。
西側を男体山・標高871m、東側を女体山・標高877mと女山の方が背が高くなります。
よく自然界での雌雄は女性の方が大きいこと多いですけど、この山もそうなのかは未詳です、笑
この山は「紫峰」という雅称もあるほど古来から詩歌に詠まれ、上述のよう『万葉集』から登場します。
で、男女のツインピークスがあることから縁結びの神山と謂われて歌垣=合コン祭の場として万葉の時代には有名でした。
歌垣「うたがき」は嬥歌「かがい」とも言い、既婚未婚とも参加&好きな相手とベッドインOKっていう大らかなモンです。

鷲の住む 筑波の山の 裳羽服津の 
その津の上に率ひて 娘子壮士の行き集ひ 
かがふ嬥歌に 人妻に我も交はらむ 我が妻に人も言問へ 
この山をうしはく神の昔より 諌めなぬわざぞ今日のみは 目苦しもな見そ事も咎むな

高橋虫麻呂の作歌で『万葉集』に載っている長歌です。
この訳をしちゃうとR18指定エロです、なのでココには載せない方が良いのかなと、笑
何て言って前に6月2日「鷲、富士、天空の際―万葉集×William Wordsworth」で歌だけ紹介しました。
が、あのときメッセージでリクエストくださった方にだけは自訳を返信しましたけどね、笑
ソンナ歌垣の舞台だと筑波山神社の参道にはデッカク看板が書いてあります。



A lily of a day
Is fairer far in May,
Although it fall and die that night―
It was the plant and flower of Light.
In small proportions we just beauties see:
And in short measures life may perfect be.

ただ一日の百合は
初夏のなか遥かに美しい
たとえ夜に枯れ落ちる命としても、
それは草木の命、そして光輝の花
小さな調和に端整な美しさを見る、
そして短い旋律たちには完璧なる命が謳う

Ben Jonson「It is not growing like a tree」
前にも紹介したイギリス詩ですが、上述の歌に合うなと思って載せました。
人間の命は一時、花の命も一時、それは大樹の生命より短いけれど輝いている。
そんな詩歌の想いは古今東西とも変わらないんだなと。

で、個人的意見としては百合も綺麗だし巨樹もカッコイイんで好きです、笑
今日も筑波山で大きな古木を沢山見ましたが、樹皮は歳古りて苔むしても梢は瑞々しいんですよね。
どんだけ老齢の樹木も葉は一瞬の生命、そんな輝きは一日の百合と同じ息吹に眩しくて綺麗でした。




このあと第66話「光望6」加筆校正をします。
そのあと短編を今夜or明朝にUPの予定です、が、今日の疲れで寝たらすみません、笑

取り急ぎ、





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第66話 光望act.6―another,side story「陽はまた昇る」

2013-07-14 00:05:53 | 陽はまた昇るanother,side story
La vérité secrète―唯ひとつの想いに、



第66話 光望act.6―another,side story「陽はまた昇る」

非常口のライトは碧くて、川の水底を思い出す。
碧い光ゆれる清流は冷たい水、涼やかに頬撫でる水面は太陽きらめく。
そんな光と水を全身に浸した夏は遠くて、けれど15年前にあった幸せは明るく温かい。

―あの頃みたいに川で泳いでみたいな、英二も一緒に、

懐かしい幸福の風光に微笑んだ前、白皙の貌は非常灯に碧く佇む。
見つめてくれる切長い瞳は碧い光を潤ます、そんな眼差しは心映して哀しい。
きっと今日のことを気付いてしまった?そんなふう想うからこそ笑ってほしくて周太は微笑んだ。

「英二、どうしたの?部屋に入らないの?」

笑いかけた先で瞳ひとつ瞬いて、視線の焦点が自分を見つめてくれる。
今この瞬間に心を戻してくれた、そんな瞳は穏やかに微笑んで綺麗な低い声が笑ってくれた。

「ぼんやりしてごめん、周太に見惚れてた、」

こんな貌でこんな時にこんな事を言うなんて?

こんな相手に途惑わされて困らされる、けれど少し安心も出来る。
いま切長い瞳は泣きそうなまま、それでもいつも通り笑ってくれる声に周太は訴えた。

「…そういうのはずかしいから廊下とかでいわないで?」

訴えに端正な貌は嬉しそうに笑って伸びやかな脚を踏み出してくれる。
長身は部屋に入り静かに施錠音が響く、そして綺麗な深い声が微笑んだ。

「周太、今日は黒木さんの事ありがとうな?仕事以外に話す機会を作ってくれて、」
「 ん、俺も黒木さんと話してみたかったから…」

微笑んで答えながら嬉しい、やっぱり解かって貰えると信頼を繋げられる。
まだ2年目でも英二は光一の補佐官として異動してきた、その責務に人心掌握は大きいだろう。
それを少しでも手助け出来たら嬉しい、そして、それだけじゃない理由に黒木とは話してみたかった。

―黒木さんの気持ちって俺には解る、それに訊いてみたかったから、ね、

真面目で物堅くて融通が利かない、独りでも大丈夫そうに見えて、けれど本当はそうじゃない。
そんな不器用は一年前の自分と似ていて他人事に想えなくなった、だから自分が話してみたかった。
それから訊いて確認したかった現実がある、その密やかな欠片を見つめながら周太は言える事だけと微笑んだ。

「…大学の山岳部ってどんなところか聴きたかったの、お祖父さんも山岳部だったらしいんだ、」

祖父は山岳部だったろう、そして射撃部と掛持ちしていたかもしれない。
そんな推定を黒木との会話に見つめて祖父の遺作からも読みとった。
まだ事実確認はしていない、それでも当るだろう。

―英二、もし俺が殺人犯の孫でも好き?家族になりたい?

本当は聴きたい問いかけは声に出来ない。
ただ独り秘密のままに抱きしめる、それは自分の誇りでありたい。
そんな願い微笑んだ前、切長い瞳に光ゆらいで長い腕が伸ばされた。

「…っ、」

抱きしめられた耳元ふれる吐息、呑みこんでくれる涙が熱い。
きっと英二の瞳は泣いていないだろう、けれど抱きしめてくれる腕の強さの分だけ切ない。
いま頭を包むよう掌は髪を梳いてくれる、そんな仕草はきっと今の顔を見せたくないから。

―英二は気づいてる、俺の異動のこと、

いま顔を見せない恋人に、その想いが解かって心が軋む。
今日の午後に告げられたSAT入隊テスト「命令」を、ずっと英二は恐れていた。
恐れて泣いて、自分を引留めたくて心中を図ろうとすらした程この別離に傷ついている。
それでも今は泣かない、今は何も言わずただ堪えて抱きしめてくれる、この真心に周太は微笑んだ。

「英二、そんなに抱きしめたら俺つぶれちゃうよ、英二は力持ちなんだから…もう少しゆるめて?俺は逃げたりしないから、」

自分は逃げたりしない、そう心は定めてある。

これから何があっても自分の全てから逃げない、自分の現実全てを受けとめる。
祖父の罪も願いも、父の隠された真相も、そして英二の涙も笑顔も全てを自分が抱きしめたい。
そう願うなら全ては叶うと信じている、必ず祖父の哀しみも父の想いも全ての真実を解いて、この人と幸せを育てたい。

―俺は殺人犯の孫で息子かもしれない、けれど立派な学者の孫で息子でもあるの、だから恥じたりなんかしない、

祖父は罪人かもしれない、父も裁かれること無い殺人を任務としたかもしれない。
けれど二人がこの世界に遺した学問の夢は多くの「希望」を育んだことも知っている。
この罪も希望も自分だけが抱ける、その誇りを懸けて自分は生きぬいて唯ひとり恋して愛する人に帰りたい。
こんな願いを自分勝手だと嗤う人もいるだろう、それでも全てを懸けて罪も希望も誇りも抱いて自分は生きるしかない。

―だけど英二?真実が解かったら俺は話すから、そのとき英二が嫌なら俺、きちんとさよならするね、

自分に纏わる罪を潔癖な英二が嫌っても仕方ない、そう覚悟している。
穏やかな笑顔の底には高潔が誇らかに熱い、そんな英二だから山ヤの警察官を選んだ。
本当は想った事しか言えないし出来ない生真面目な英二、その真直ぐな心に「罪」が拒絶されても仕方ない。
そんな人だから自分も恋した、だからこそ真実の瞬間に別離を隠した肩を英二は抱きしめてくれた。

「ごめんな、周太、」

綺麗な低い声の微笑は、本当は泣いている。
その涙が伝えたい想いは哀しくて温かい、その温もりがまた囁いた。

「ごめん、…ごめん周太、」

いつものよう綺麗な低い声、けれど初めて聴く響き透明になる。
もっと言いたい言葉があるのに言えない、そんな全てが声に濾過され響く。
こんなふう謝ってくれる必要なんて欠片も無い、むしろ自分こそ謝りたくて周太は微笑んだ。

「ん…謝らないで、英二?」

ほんとうに謝らないで、だって自分こそ秘密も罪も抱いたまま何も言えない。
それすらも怜悧な英二は気づいているのだろうか、そんな想いごと大切な人を見上げ笑いかけた。

「謝ってもらうようなこと何も無いと想うから、だから謝らないで…ね、英二?」

本当は、全てから英二は無関係で生きられた。
自分が抱いている罪も真相も英二は哀しまなくて良い、本当は英二の自由に生きることが出来る。
それなのに英二は自分を選んでくれたから一年間の全てが起きた、だから一年間の苦悩は全て自分も原因がある。
だから英二が謝ることなど何もない、そんな想い見上げて笑いかけた周太に綺麗な低い声は言ってくれた。

「今は謝らせてよ、せめて、ごめんってだけは言わせて、周太、」

せめて、と英二が言う想いが愛しい。
綺麗な低い声は微笑んでくれる、けれど切長い瞳の底が泣く。
いま堪えてくれる分だけ想いあふれて伝わる、その全て見つめる真中で切長い瞳は微笑む。
泣いているのに微笑む瞳は綺麗で、そして長い指の左手が周太の手を取り白皙の頬にふれさせた。

「周太、最高峰の竜の祝福をあげるよ?傷痕は周太につけるの嫌だけど、祝福だけは受けとって?」

掌ふれる肌は滑らかなままデスクライトに艶めく。
ふれても傷の痕跡など解らない、けれど熱を持つとき紅一閃が浮ぶ。
これは冬富士の雪崩が刻んだ傷、それは山の意志に想えて最高峰の祝福だと自分は言祝いだ。
この傷痕にまつわる記憶は自分に初めて恋愛の傷をくれた、あのときの恐怖も傷みも今は愛しい。

―この傷、あのときもずっと見えてた…ずごく心は遠かったのに、傷痕だけは見えて、

冬一月、弾道テストの雪山で戻った記憶と光一への想いに自分は立ち止まった。
あの夜だけは静かに眠らせて欲しくて、だから初めて英二の腕に恐怖と屈辱を刻まれた。
同じ男なのに犯されるまま抵抗できない、そんな無力は悔しくて哀しくて、それでも憎めなくて。
男のプライド砕かれてすら消えてくれない恋、このまま嫌いになって離れるべきだと想っても嫌えない。
もう枯れない花になってしまった恋愛と同じに消えない最高峰の傷痕、この想いの真中で泣きそうな瞳が笑ってくれた。

「俺の幸運も周太にあげる、だから俺の嫁さんに必ずなって?もう周太以外は無理だから、お願いだから俺と家族になってよ?」

自分以外は無理だなんて、今、言ってしまうの?

あなたの妻になりたい、そう男の癖に願って努力しようと決めていた。
あなたを幸せにしたい、そう祈って自分の全てを贈りたくて、出来る限りをしようと想っていた。
けれど今もう自分の全てを贈りたくない、だって自分は祖父の犯した罪すら抱いて生きると決めてしまった。

―英二、お祖父さんは人を殺してしまったかもしれないの、だから、結婚なんて出来ない、

男同士の正式な婚姻は現行法では認められない。
一日でも年長な者の戸籍に入り養子縁組をする、そんな形でしか法的な家族になれない。
だから自分が英二の養子となる事を母も英二の父も認めてくれた、けれど、養子縁組は罪の累を及ぼす可能性がある。
それは法曹家として生きる英二の父にはリスクが大きすぎる、そして検事だった英二の祖父の名前すらも穢してしまう。
なによりも英二の未来を壊すことが怖い、高潔な山ヤの警察官として生きる夢も、英二を嘱望する後藤たちの期待も壊してしまう。
それを解かっている今はもう家族になれない、英二のことも英二の家族も巻き込むなんて出来ない、だから約束も出来ない。

―ごめんなさい、英二…約束はだめだったの、ごめんなさい、

ごめんなさい、そう謝るべきは自分のほう。
何も知らずに約束してしまった、そして英二も英二の家族も巻き込んだ。
男の身で望んでしまった「妻」という幸福が身の程知らずだったと思い知らされる、

最高峰の竜の祝福、その傷痕ふれる掌は熱くて唯ひとつ愛しくて、ほら、泣けない涙が全身を廻りだす。





(to be continued)

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