萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

嵐の朝

2013-09-16 10:59:54 | お知らせ他


おはようございます、窓の風雨がエライことになってる今朝です。

今ちょっと心配なのが昨日、川縁にキャンピングカーが停まっていたこと。
たぶん増水とかすごいと思うんですけど無事に帰ってくれてると良いなあと。
停電の地域、冠水など色々と出ていますがくれぐれも気をつけて下さいね。

これから昨夜UPした短編+第68話の加筆校正をします、昨夜は眠くて寝ちゃったので、笑
それが終わったら短編やら第68話続きあたりを書く予定です、

取り急ぎ、


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secret talk16 短夜月act.3―dead of night

2013-09-16 00:02:09 | dead of night 陽はまた昇る
Sans qu'on dise 唯ひとつ言葉を、



secret talk16 短夜月act.3―dead of night

行かないで?

もしも赦されるなら、告げたかった。
もしも許されなくても告げたかった、けれど今もう叶わない。

「祖父がくれた宿題を見つけに行ってくるね?プレゼントは全部、ちゃんと受けとりたいから、」

そう残した言葉の意味を、本当は自分は全て知っている。
それなのに何も言えないまま見つめる背中は遠ざかる、もう、あの門を越えてしまう。

「…っ、まって、しゅ…っ」

引留めたい声は掠れて零れて、一歩に踏み出した足へ痛みが刺す。
微かでも刺された痛覚に気がつきながらアスファルトを踏んで駆け出して、けれど門に阻まれる。

…かしゃん、

通用口は後ろ手に閉じられて、スーツ姿の背中は遠ざかる。
登山ザック背負ってボストンバッグを提げて、小柄で端正な背中は行ってしまう。
見つめたまま駆け寄って門扉を掴んで、けれど開けない規則と立場に鎖されたまま呼ぶことも出来ない。

行かないで?

行かないで傍にいて、離れないで傍にいて。
どうか追いかけたいのに追えない現実、この門を越えたいのに超えられない。

課せられた義務も選んだ立場も全てが隔てるままに、唯ひとつ望んだ体温の記憶だけが自分を抱きとめる。
唯ひとり抱きしめていたいと望んで願って去年の秋、全てを懸けて抱きよせ手に入れた純潔は今もうこの腕から離れてゆく。

「…なぜ、」

なぜ?

疑問が唇こぼれて青い薄闇に融けてしまう。
なぜ自分は手に入れても得られない、遠ざかってしまう、その疑問に答えなど解っている。
こんなこと誰の所為でもない、ただ幸福に馴れあってしまった思い込みが自分で自分を裏切った。
そして傷つけたままで、唯ひとり共に幸せにしたかった人は何ひとつ言わないで今、遠く離れてゆく。

『ちょっと遠いところだから、』

遠いのは、空間的距離だけ?
遠いのは物理的距離よりも心の遠去かる予告?

『携帯とかも電波入り難いかもしれないんだ、でも行ってくるね、』

電波、そんな物理的理由だけ?
本当は電話の声すらもう与えてくれない、そんな理由じゃないの?

本当はどれだけ遠くに君は行ってしまう?

そう訊きたいのに聴けない本音は心廻らせ鼓動を絞める、もう視界からすら君が消える。
掴んだままの鉄柵からスーツ姿が消えてゆく、その背中を照らす曙光に黒髪やわらかな風ゆれる。
あの髪に香っていた穏やかな空気すらもう解らない、そのまま置き去りにされた視界ゆっくり足許に落し、微笑んだ。

「…俺、裸足だ?」

ベッドから起き上がったさっき、床に落ちたシャツとコットンパンツを着て追いかけた。
あのとき確かに靴を履いた記憶が無い、そのままに素足の肌はアスファルトで何か傷む。
この傷みを知りたくて足裏を返した先、一点の赤い血玉から破片を指で抜き取った。

「痛っ…」

ごく小さな堅い欠片、それでも肌を破り血を流させる。
こんなふうに自分は幾つ欠片をあのひとに刺してしまった?
そんな想いに見つめる破片を握りしめ踵返し、歩き出した。

―屋上なら、

せめて見送りたい、

そう願うままエントランスを通りぬけて廊下を歩く。
速まってゆく足どりに素足の痕は紅い点を残して、やがて消えてゆくだろう。
点、点と赤の辿らす足痕は歩幅を広げて消えるまま階段を昇り、駆け出してゆく。
もう伝えられない想い、けれど唯ひとつ願う行く先だけでも今、一瞬でも永く見たい。

傍にいたい、

唯それだけを願い、見つめて。




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