To me the meanest flower that blows can give
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/6d/f2/b910f001990a01c7354de6d681750519.jpg)
杜燈火―morceau by Lucifer
震える手、けれど扉を開いて外に出る。
運転席の影から広がった世界は森、そして古く清らかな家。
大きすぎない擬洋館建築はシンプルに美しい、その廻らす森は広かった。
「…奥多摩の森、」
見あげる梢は豊穣の葉擦れ、高く遥かに木洩陽ゆらす。
ふわり頬の撫でる風も山懐そっくりなまま樹木の馥郁が深い。
―こんな庭が個人宅にあるなんて、珍しいよな、
深い森、けれど一般住宅の庭。
そんなアンバランスは、けれど馴染んでいる森と家はしっくりと美しい。
こういう家と庭を護っている人、そう想うだけで溜息こぼれて微笑んだ。
「…やっぱり無理だ、俺には、」
無理だ、自分には勿体無さすぎる相手だ。
そう解っていた、だから雨のベンチで独りきり諦めた。
もう諦めたから、だから約束に頷いて門を潜って今ここにいる。
そんな判断は今ここに立ち、見て、正しかったのだと想えてしまう。
こんな美しい家と庭を護るひと、その隣に自分なんか相応しくない。
―これで諦められる、もう…このまま黙っていればいい、
心そっと想い微笑んでガレージから一歩、芝生の飛石に踏みこむ。
かたん、石とレザーソールが響きあいながら風はシャツを透かして涼ませる。
ふっとコットンを貫けた空気は肌を冷やして寛がす、その心地よさ微笑んだ向こう穏やかな声が笑った。
「おはよう…明日の約束、今日にしてくれたの?」
ほら、こんな抜打ちの来訪だって優しく笑ってくれる。
まだ早朝、けれど端正な浴衣姿は凛と佇んで歓迎の笑顔ほころばす。
こんな笑顔も言葉もすべてが本心なのだと自分には解って、解かるから募ってしまう。
それでも沈黙を決めこんだ想いのままに今、ここで決めたばかりの予定と笑いかけた。
「おはよう、朝早くごめんな?急だけど俺、明後日まで奥多摩の訓練に行くことになったんだ。それで今、ここから庭見させて貰おうと思って、」
本当は明日、庭を見せてもらいに来る約束だった。
けれど来られない理由を作って笑いかけて、その真中で黒目がちの瞳が自分を映す。
そっと睫伏せて、けれどすぐ見あげてくれた瞳は寂しい翳と優しく微笑んでくれた。
「まだ朝ご飯すませてないよね?よかったら一緒していって、コーヒーだけでも…どうぞ?」
どうぞ?
そう勧めてくれる笑顔は素直なまま信じて、疑ってくれない。
そんな笑顔に想いは沈黙のまま身じろぐ、その未練が鼓動を正直に軋ませる。
ただ痛くて、断って逃げたようとして、けれど森の片隅に緋色一輪ゆらいだとき声が出た。
「ありがとう、じゃあ庭だけお邪魔させてもらうな?」
ほら、あの花が自分を手招いた?そんなふう惹きこまれて一歩、また革靴は飛石を踏みだす。
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Another sky of E
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杜燈火―morceau by Lucifer
震える手、けれど扉を開いて外に出る。
運転席の影から広がった世界は森、そして古く清らかな家。
大きすぎない擬洋館建築はシンプルに美しい、その廻らす森は広かった。
「…奥多摩の森、」
見あげる梢は豊穣の葉擦れ、高く遥かに木洩陽ゆらす。
ふわり頬の撫でる風も山懐そっくりなまま樹木の馥郁が深い。
―こんな庭が個人宅にあるなんて、珍しいよな、
深い森、けれど一般住宅の庭。
そんなアンバランスは、けれど馴染んでいる森と家はしっくりと美しい。
こういう家と庭を護っている人、そう想うだけで溜息こぼれて微笑んだ。
「…やっぱり無理だ、俺には、」
無理だ、自分には勿体無さすぎる相手だ。
そう解っていた、だから雨のベンチで独りきり諦めた。
もう諦めたから、だから約束に頷いて門を潜って今ここにいる。
そんな判断は今ここに立ち、見て、正しかったのだと想えてしまう。
こんな美しい家と庭を護るひと、その隣に自分なんか相応しくない。
―これで諦められる、もう…このまま黙っていればいい、
心そっと想い微笑んでガレージから一歩、芝生の飛石に踏みこむ。
かたん、石とレザーソールが響きあいながら風はシャツを透かして涼ませる。
ふっとコットンを貫けた空気は肌を冷やして寛がす、その心地よさ微笑んだ向こう穏やかな声が笑った。
「おはよう…明日の約束、今日にしてくれたの?」
ほら、こんな抜打ちの来訪だって優しく笑ってくれる。
まだ早朝、けれど端正な浴衣姿は凛と佇んで歓迎の笑顔ほころばす。
こんな笑顔も言葉もすべてが本心なのだと自分には解って、解かるから募ってしまう。
それでも沈黙を決めこんだ想いのままに今、ここで決めたばかりの予定と笑いかけた。
「おはよう、朝早くごめんな?急だけど俺、明後日まで奥多摩の訓練に行くことになったんだ。それで今、ここから庭見させて貰おうと思って、」
本当は明日、庭を見せてもらいに来る約束だった。
けれど来られない理由を作って笑いかけて、その真中で黒目がちの瞳が自分を映す。
そっと睫伏せて、けれどすぐ見あげてくれた瞳は寂しい翳と優しく微笑んでくれた。
「まだ朝ご飯すませてないよね?よかったら一緒していって、コーヒーだけでも…どうぞ?」
どうぞ?
そう勧めてくれる笑顔は素直なまま信じて、疑ってくれない。
そんな笑顔に想いは沈黙のまま身じろぐ、その未練が鼓動を正直に軋ませる。
ただ痛くて、断って逃げたようとして、けれど森の片隅に緋色一輪ゆらいだとき声が出た。
「ありがとう、じゃあ庭だけお邪魔させてもらうな?」
ほら、あの花が自分を手招いた?そんなふう惹きこまれて一歩、また革靴は飛石を踏みだす。
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