萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第84話 整音 act.2-side story「陽はまた昇る」

2016-02-23 22:02:43 | 陽はまた昇るside story
That being red,
英二24歳3月



第84話 整音 act.2-side story「陽はまた昇る」

鉄柵はるかな屋上の先、緋色が大地を染めてゆく。

「質問は三つだ、答えるか鷲田英二?」

新しい名前を影が呼ぶ、その頭上ブルーブラックの夜空が消える。
朱い黄金の雲ながれゆく、焼けつく地平のシルエット黒に描かれる。
じき貌も見えるだろうか?逆光の影たたずんだ制服姿に英二は微笑んだ。

「SATは発砲許可が要らないんですか、伊達先輩?」

問いかけながら感心してしまう、やはり本職だ?

―逆光を背にして表情を隠してる、狙撃にも有利だ、

朝陽の手前2メートル先、制帽の貌は影にしずむ。
こちらが見え難いぶんだけよく見えるはず、その立位置に意志が解かる。
そんな制服姿は右手ホルスター離さない、高くない身長、けれど静かな威圧感が告げた。

「質問すべて答えるならこちらも提供する、そのつもりで連絡先を教えたんだろ?」

落着きすぎる静かな低い声、低いくせ屋上の風にも澱まない。
穏やかなくせ威圧感がある、この声いつも聴いていたのだろうか?

―この男がいつも周太の隣にいたのか、

いま顔は制帽の翳かすんで見えない、それでもどんな男か解かる。
この数ヵ月イヤホン通して知っていた男、その現実に微笑んだ。

「情報をくれるんですか、SATは守秘義務が厳しいのに?」

守秘義務に関わる質問するよ?

そんな宣言だとこの男なら解かるだろう。
投げ返した朱い屋上2メートル先、銃把ふれる男は言った。

「宮田の両親は健在だ、姉もいる、なぜ来てない?」

質問三つ、その最初がこれなんだ?
しかも今度は「宮田」と言った、これは「被疑」だろうか。

―俺の正体を探ってるのか、経歴書が本物か疑って、

名字ふたつ呼び分ける、それは「別人」の疑惑だろう。
その考えも仕方ないかもしれない?意図を量りながら笑った。

「俺の病室を警護してくれたんですか?ありがとうございます、」

今すでに「来ていない」確認済、それなら伊達も昨夜からここにいる。
その理由は数時間前に聴いた通りだろうか?

『警察病院へ護送中だよ、おふくろさんも一緒だ、あの黒虎みたいな男もね?』

昨夜そう上司は教えてくれた、けれど変更があったかもしれない?

―もし周太がいるなら張りつくだろうな、でも伊達はここにいる、

あのひとは別の場所にいる、そこは安全だろうか?
それとも逆かもしれない?思案2メートルむこう沈毅な声が言った。

「家族が来ないのは異様だ、何度もニュースが流れて気づかないはずがない、」

事実の羅列たしかめてくる、この質問きちんと裏付あるだろう。
それだけ慎重な男だとイヤホンの半年に知った、その有能に瞳細めた。

―もう俺の家族関係は洗ったのかな、疑うならまずそこだろうけど…調べるが伝手あるのか?

この男は拳銃を携え現れた、それは「警戒」の表れだ。
警戒するのは「異様だ」にあるのだろう?その推理を話させたくて仕掛けた。

「尋問ですか、あなたの部下で友人を救った俺に?」

本来この男は感謝するはず、公私どちらからも。
そんな人間関係へ笑いかけた先、制帽の翳すこし動いた。

「質問に答えろ鷲田英二、なぜ宮田の家族は来ない?」

さあ、この回答なんてしたらいい?
考え呼吸ひとつ、綺麗に笑いかけた。

「俺の付添人に聴いてみろよ?そのほうが信用するだろ、」

言葉遣い変えて笑いかけて、制帽の翳かすかに動く。
わずかな揺れ、それでも崩せた隙間へ穏やかに微笑んだ。

「俺にも家の事情があるんだ、伊達さんなら解かるだろ?」

あなたなら解かる、こんな言い方ひとつの殺し文句だ。
このまま畳みこめるだろうか?もう一つのカード示した。

「いまさら俺も嘘つきませんよ、携帯の番号も信頼がなかったら教えないだろ?」

こちらは信じている、だから信頼を預けてほしい。
そんな提案にこの男どう反応するだろう?見つめたシャープな瞳は言った。

「号外の写真は人質救助の劇的シーンじゃない、傷ついた山岳レンジャーと隊員が映っている、なぜだ?」

これは手強いな?

―乗らずにまた質問か、ほんとブレないな?

心裡そっと舌打したくなる、そして可笑しい。
可笑しくて笑いたくなる、だって自分の思う通りにならない。

―やっぱり有能なんだな、性格的にもさ?

狙撃手の適性、そこに備わる冷静と明晰が目の前にいる。
こういう相手はめずらしい、つい愉快で笑ってしまった。

「それを俺に訊くって、どういう経緯ですか?」

ストレートに訊き返して笑いかけて、朝陽すこし高くなる。
まだ逆光まぶしくて、それでも少し見え始めた制帽の貌は言った。

「岩田が湯原を狙撃したのは誰の命令だ?」

いま、なんて言った?

「…え?」

何を言われたのだろう誰が「誰を」狙撃した?
言われて止められた思考のまんなか沈毅な声が告げた。

「あの病院の駐車場で湯原は撃たれた、誰の命令だ?」

あのひとが、撃たれた?

“岩田が湯原を狙撃した”

なぜそんなことになる、なるはずがない。
だって自分はブレーキを掛けた、それなのになぜ?

『君は…あの観碕を倒せるのか?君は誰なんだ、』

そう岩田は言った、それからメモをとりペン奔らせた。
あのメモは偽りじゃない、それなのに何が起きた、どこで間違えた?

確めたい、今すぐに。

「…、」

瞬間、脚はコンクリート蹴って目の前の影を掴んだ。



(to be continued)

【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】

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