Have the remembrance of past joys, for relief Of coming ills. 援護の縁

第85話 暮春 act.4-side story「陽はまた昇る」
ざくり、
残雪アイゼンを噛む、ザラメの雪に光はじく。
溶けて凍った氷雪ざらざらゲーター擦る、煤けた雪面は春が近い。
春陽ふる緑ない森の底、それでも芽吹きあわい梢に去年が映る。
『あの日に戻って、俺はね、英二と一緒に頬を叩いてもらえたんだ…だからうれしい、』
去年三月の雪崩事故、そして泣いてくれた笑顔。
あの病室で自分がどれだけ幸福だったか、君は今も信じてくれるだろうか?
だってメール一通が届かない。
「は…、」
すこし笑って息が白い。
凍えた息ゆれて森に融ける、消えてゆく呼気に記憶が痛い。
『俺が英二に出逢ったから、今の全てが始まったでしょう?…始まりの原因が俺なの、だから全てを俺が受け留めたくて、』
違う、君のせいなんかじゃない。
『でも卒業式の次の日、英二が受けとめて頬、叩かれたでしょ?あのとき本当は英二の隣にいたかった…一緒に叩かれたかったんだ、』
ぜんぶ俺のせいだ、それなのに君は頬を母にさしだした。
そうして叩かれて、それでも微笑んで涙こぼして、そんな君に俺は何をしてきたろう?
「ごめん周太…、」
そっと呼びかけて雪を踏む、ざぐりアイゼン軋んで一歩登る。
雪に軋む靴底の感覚ほら、記憶の顔だ。
『俺が来たからね。もう大丈夫だよ、俺の可愛いアンザイレンパートナー?』
雪崩の谷底、駈けてきた明るい笑顔。
あの背中に負われて自分は救われて、けれど自分は何を救えたろう?
「…ごめんな光一、」
声こぼれて三月の雪崩が映る、あの日は朝から雪だった。
今は登る森どこも陽ざし優しい、大気も凛と雪を山を凍てつかす。
春三月も頬ふれる山風まだ冷たい、それでも春麗らかな光に瞳細めた。
「うん…?」
木洩陽ふる枯木の森、遠くに青い背が光る。
中肉中背、その慣れた足どりに鼓動ふわり明るんだ。
「後藤さん!」
呼びかけて脚つい速くなる。
ざくざぐアイゼン踏みだし雪また深い、登るごと深まる雪かきわける。
春三月、それでも積雪まだ凍れる斜面はゲイター埋めて英二はピッケルふるった。
ざっ、ざぐりざくっ、
ラッセルかきわけ雪を進む。
白銀はじく木洩陽にワカンのトレース残る、その主が振りかえった。
「おう、宮田。おまえさんが二番手か、」
肚響いて深い声、この声どれくらいぶりだろう?
ただ懐かしく雪かきわけて笑顔に辿りついた。
「おひさしぶりです副隊長、参加されてたんですね?」
「あたりまえだ、病人あつかいするなよ?」
からり浅黒い顔が笑ってくれる。
あいかわらず明るくて、けれど皺すこし増えた笑顔に微笑んだ。
「薬は飲まれているんでしょう?吉村先生の許可はどのくらいですか、」
手術から数ヵ月が経つ、それでも元通りには難しい。
そんな病を経た男は愉快に笑った。
「足慣らしにも今日は出てイイととさ、それより宮田?昇進と入学おめでとさん、」
登山グローブはめた手さしだしてくれる。
あいかわらず大きな掌と握手して、きれいに笑いかけた。
「ありがとうございます、でも申し訳ありませんでした、」
謝らないといけない、この人には。
その願いに再会した山中、日焼あざやかな笑顔は言った。
「なんだ謝ったりして、光一の退職のことかい?」
「はい、」
頷いて握手そっとほどく。
向きあった雪の斜面、熟練の山ヤは笑ってくれた。
「あれは俺でもドキッとしたぞ、SATの顔をテレビに晒すなんてなあ?でも謝るってことは宮田、おまえさんワザとやったな?」
深い瞳まっすぐ見つめてくれる。
この眼ざしに嘘吐きたくない、そんな願い微笑んだ。
「俺が全ての責任を負うつもりでした、国村小隊長に責任をとらせて申し訳ありません、」
自分一身のこと、そう想っていた自分は甘い。
それだけ傲慢だった思い上がりに肚響く声が言った。
「本当に申し訳ないと想ってくれるならな、おまえさんが山ヤの警察官を護ってくれるかい?」
春の陽ふる残雪の山、かすかな風に聲が響く。
大きくはないクセ肚まで沁みる声と聲、ただ真直ぐ見つめ肯いた。
「俺の出来る限りを尽くします、」
出来る限り、それは望まれる道と別かもしれない。
それでも叶うだろう未来に最高の山ヤは笑ってくれた。
「宮田の出来る限りか、いろんな土台から護ってくれそうだなあ?」
わかっているよ?
そんなトーン笑ってくれる、この笑顔ずっと自分は仰ぐだろう。
そう想えるほど明るく徹る山ヤの声に改めて頭下げた。
「後藤副隊長、自分の独断で山岳救助隊にご迷惑をおかけしました、ほんとうに申し訳ありませんでした、」
唯ひとり救いたかった、それだけだ。
それだけのために自分は自分の仲間すべて巻き添えにした、その罪に山の警察官は微笑んだ。
「たしかに迷惑だったなあ?俺も上から絞られた、蒔田はもっとだ、」
「はい、本当に申し訳ありません、」
頭下げて名前が軋む、あの男はどんな顔したろう?
―蒔田さんの立場は責められるだろうな、でもたぶん、
地域部長、蒔田徹警視長。
警視長は警察法第62条に警視総監、警視監に次ぐ第3位の階級として規定されるノンキャリアの最高階級。
地域部長は本部セクションとして交番や駐在所、110番受付ほか事件対応配備の担当である通信指令室などを運用管理し統括する。
ノンキャリア警察官の頂点で現場担当トップ、しかも警視庁山岳会副会長でもある男なら無責任でいられるはずがない。
そして、湯原馨警部の同期だった。
『学者志望だって聴いていたから警察学校で同姓同名を見た時、本当に俺は驚いたんだ。あの湯原馨がここにいるはずが無い、』
そう語った貌は篤実だった、記憶たむける声も。
『大学1年の冬だ、アイスクライミングの自主トレに北大の仲間と層雲峡に行ったら偶然、湯原と先輩が登っていてな、綺麗な登り方だった、』
語る眼ざし明るんだ、声かすかな熱を帯びた。
ただ誇らしい、そんな貌に声に言葉の真実が判る。
『憧れだからだよ、大学時代からのな?』
―あの言葉が本心だから俺が残留できている、これからもっと、
蒔田が自分に告げた言葉、その真偽はこれから証明される。
敵か味方か?判れてゆく分岐点に山の男が微笑んだ。
「まあ、俺も蒔田も溜飲下がったのが本音だがな?でも蒔田に会ったら礼を言っとけよ、今夜の送別会も来るだろう、」
同じ気持ちだ、そう笑ってくれる。
それでも謝らないといけない頭を下げた。
「ありがとうございます、でも申し訳ありません。国村さんを次の山岳会長にするご期待を裏切って、申し訳ありませんでした、」
あの山っ子にどれだけ期待をかけていたか?
その一端を見つめてきた想いに最高の山ヤが笑った。
「もういいんだよ宮田、光一は元から辞めたかったんだ、」
皺きざまれた日焼ほころんで、肚響く声しずかに徹る。
深い瞳まっすぐ自分を見つめて静かな明るい声は告げた。
「俺はな宮田、光一に目的をもたせてやりたかったんだよ?あの山っ子に登る理由をあげたかった、」
から…から、
頭上の梢かすかに鳴らす、雪山しずかな風そっと頬なでる。
今は多くの隊員たち登るはず、それなのに静寂たたずんで後藤は言った。
「光一は雅樹くんを亡くしたろう?それで両親まで亡くしちまった時はもう、山に登らなくなってなあ…笑っても目が笑わない子になっちまったよ、」
あの男が笑わない、
そんな貌は想像できない、それくらい底抜けに明るい眼。
それでも笑わなかった現実を静かな声が響く。
「畑の山は仕事だから登る、そう言うからなあ、だから警官にして山岳救助隊にひっぱりこんだよ?事前練習だって色んな山も連れてったんだ、」
だから光一は記録がある、早熟な頃から。
その理由たち見つめる雪の森、深い朗らかな瞳は言った。
「光一に登る理由と生きる意味をやりたかった、で、あいつは山の医者を理由と意味に選べたろう?だからもう警察は辞めて良いんだ、」
登る理由、生きる意味、だからだ?
―だから俺は光一に惹かれるのか、俺と同じ理由だから、
生きる理由、生きる意味、ずっと自分も探していた。
そうして山と山岳救助隊を選んだ、その先を歩く笑顔は言ってくれた。
「なにより宮田、おかげで周太くんを救えたろう?あの子も光一も警察から解放してやれたんだ、だからもう謝るな、」
ぽん、
そっと背中を敲いてくれる、その手が大きい。
この掌どれだけ自分を押してくれたろう、鼓動ごと軋む温もり笑ってくれた。
「二人を救ったのは宮田だ、おまえは最高のレスキューだなあ?」
そんなこと、言ってもらう資格なんてあるだろうか?
そう自問する、ぐさり自責が穿たれる。
だってそれだけのこと二人にしてしまった、二人とも体ごと奪って何をした?
「すみません…俺、」
想い零れて声になる、視界にじんで溢れだす。
零れて溢れて鼓動ゆるやかに解かれて、その背中そっと大きな掌がくるむ。
「泣いてもいいんだ宮田、ここは山だ、」
とん…とん、
掌そっと背をさする、やわらかに緩みが響く。
背中ほどく大きな掌は温かい、ただ温もり優しく聲が響く。
「ここは山だからなあ…おまえのまんまでいい、おまえで良いんだ、」
(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」/William Wordsworth「Lines Compose a Few Miles above Tintern Abbey」】
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英二24歳3月下旬

第85話 暮春 act.4-side story「陽はまた昇る」
ざくり、
残雪アイゼンを噛む、ザラメの雪に光はじく。
溶けて凍った氷雪ざらざらゲーター擦る、煤けた雪面は春が近い。
春陽ふる緑ない森の底、それでも芽吹きあわい梢に去年が映る。
『あの日に戻って、俺はね、英二と一緒に頬を叩いてもらえたんだ…だからうれしい、』
去年三月の雪崩事故、そして泣いてくれた笑顔。
あの病室で自分がどれだけ幸福だったか、君は今も信じてくれるだろうか?
だってメール一通が届かない。
「は…、」
すこし笑って息が白い。
凍えた息ゆれて森に融ける、消えてゆく呼気に記憶が痛い。
『俺が英二に出逢ったから、今の全てが始まったでしょう?…始まりの原因が俺なの、だから全てを俺が受け留めたくて、』
違う、君のせいなんかじゃない。
『でも卒業式の次の日、英二が受けとめて頬、叩かれたでしょ?あのとき本当は英二の隣にいたかった…一緒に叩かれたかったんだ、』
ぜんぶ俺のせいだ、それなのに君は頬を母にさしだした。
そうして叩かれて、それでも微笑んで涙こぼして、そんな君に俺は何をしてきたろう?
「ごめん周太…、」
そっと呼びかけて雪を踏む、ざぐりアイゼン軋んで一歩登る。
雪に軋む靴底の感覚ほら、記憶の顔だ。
『俺が来たからね。もう大丈夫だよ、俺の可愛いアンザイレンパートナー?』
雪崩の谷底、駈けてきた明るい笑顔。
あの背中に負われて自分は救われて、けれど自分は何を救えたろう?
「…ごめんな光一、」
声こぼれて三月の雪崩が映る、あの日は朝から雪だった。
今は登る森どこも陽ざし優しい、大気も凛と雪を山を凍てつかす。
春三月も頬ふれる山風まだ冷たい、それでも春麗らかな光に瞳細めた。
「うん…?」
木洩陽ふる枯木の森、遠くに青い背が光る。
中肉中背、その慣れた足どりに鼓動ふわり明るんだ。
「後藤さん!」
呼びかけて脚つい速くなる。
ざくざぐアイゼン踏みだし雪また深い、登るごと深まる雪かきわける。
春三月、それでも積雪まだ凍れる斜面はゲイター埋めて英二はピッケルふるった。
ざっ、ざぐりざくっ、
ラッセルかきわけ雪を進む。
白銀はじく木洩陽にワカンのトレース残る、その主が振りかえった。
「おう、宮田。おまえさんが二番手か、」
肚響いて深い声、この声どれくらいぶりだろう?
ただ懐かしく雪かきわけて笑顔に辿りついた。
「おひさしぶりです副隊長、参加されてたんですね?」
「あたりまえだ、病人あつかいするなよ?」
からり浅黒い顔が笑ってくれる。
あいかわらず明るくて、けれど皺すこし増えた笑顔に微笑んだ。
「薬は飲まれているんでしょう?吉村先生の許可はどのくらいですか、」
手術から数ヵ月が経つ、それでも元通りには難しい。
そんな病を経た男は愉快に笑った。
「足慣らしにも今日は出てイイととさ、それより宮田?昇進と入学おめでとさん、」
登山グローブはめた手さしだしてくれる。
あいかわらず大きな掌と握手して、きれいに笑いかけた。
「ありがとうございます、でも申し訳ありませんでした、」
謝らないといけない、この人には。
その願いに再会した山中、日焼あざやかな笑顔は言った。
「なんだ謝ったりして、光一の退職のことかい?」
「はい、」
頷いて握手そっとほどく。
向きあった雪の斜面、熟練の山ヤは笑ってくれた。
「あれは俺でもドキッとしたぞ、SATの顔をテレビに晒すなんてなあ?でも謝るってことは宮田、おまえさんワザとやったな?」
深い瞳まっすぐ見つめてくれる。
この眼ざしに嘘吐きたくない、そんな願い微笑んだ。
「俺が全ての責任を負うつもりでした、国村小隊長に責任をとらせて申し訳ありません、」
自分一身のこと、そう想っていた自分は甘い。
それだけ傲慢だった思い上がりに肚響く声が言った。
「本当に申し訳ないと想ってくれるならな、おまえさんが山ヤの警察官を護ってくれるかい?」
春の陽ふる残雪の山、かすかな風に聲が響く。
大きくはないクセ肚まで沁みる声と聲、ただ真直ぐ見つめ肯いた。
「俺の出来る限りを尽くします、」
出来る限り、それは望まれる道と別かもしれない。
それでも叶うだろう未来に最高の山ヤは笑ってくれた。
「宮田の出来る限りか、いろんな土台から護ってくれそうだなあ?」
わかっているよ?
そんなトーン笑ってくれる、この笑顔ずっと自分は仰ぐだろう。
そう想えるほど明るく徹る山ヤの声に改めて頭下げた。
「後藤副隊長、自分の独断で山岳救助隊にご迷惑をおかけしました、ほんとうに申し訳ありませんでした、」
唯ひとり救いたかった、それだけだ。
それだけのために自分は自分の仲間すべて巻き添えにした、その罪に山の警察官は微笑んだ。
「たしかに迷惑だったなあ?俺も上から絞られた、蒔田はもっとだ、」
「はい、本当に申し訳ありません、」
頭下げて名前が軋む、あの男はどんな顔したろう?
―蒔田さんの立場は責められるだろうな、でもたぶん、
地域部長、蒔田徹警視長。
警視長は警察法第62条に警視総監、警視監に次ぐ第3位の階級として規定されるノンキャリアの最高階級。
地域部長は本部セクションとして交番や駐在所、110番受付ほか事件対応配備の担当である通信指令室などを運用管理し統括する。
ノンキャリア警察官の頂点で現場担当トップ、しかも警視庁山岳会副会長でもある男なら無責任でいられるはずがない。
そして、湯原馨警部の同期だった。
『学者志望だって聴いていたから警察学校で同姓同名を見た時、本当に俺は驚いたんだ。あの湯原馨がここにいるはずが無い、』
そう語った貌は篤実だった、記憶たむける声も。
『大学1年の冬だ、アイスクライミングの自主トレに北大の仲間と層雲峡に行ったら偶然、湯原と先輩が登っていてな、綺麗な登り方だった、』
語る眼ざし明るんだ、声かすかな熱を帯びた。
ただ誇らしい、そんな貌に声に言葉の真実が判る。
『憧れだからだよ、大学時代からのな?』
―あの言葉が本心だから俺が残留できている、これからもっと、
蒔田が自分に告げた言葉、その真偽はこれから証明される。
敵か味方か?判れてゆく分岐点に山の男が微笑んだ。
「まあ、俺も蒔田も溜飲下がったのが本音だがな?でも蒔田に会ったら礼を言っとけよ、今夜の送別会も来るだろう、」
同じ気持ちだ、そう笑ってくれる。
それでも謝らないといけない頭を下げた。
「ありがとうございます、でも申し訳ありません。国村さんを次の山岳会長にするご期待を裏切って、申し訳ありませんでした、」
あの山っ子にどれだけ期待をかけていたか?
その一端を見つめてきた想いに最高の山ヤが笑った。
「もういいんだよ宮田、光一は元から辞めたかったんだ、」
皺きざまれた日焼ほころんで、肚響く声しずかに徹る。
深い瞳まっすぐ自分を見つめて静かな明るい声は告げた。
「俺はな宮田、光一に目的をもたせてやりたかったんだよ?あの山っ子に登る理由をあげたかった、」
から…から、
頭上の梢かすかに鳴らす、雪山しずかな風そっと頬なでる。
今は多くの隊員たち登るはず、それなのに静寂たたずんで後藤は言った。
「光一は雅樹くんを亡くしたろう?それで両親まで亡くしちまった時はもう、山に登らなくなってなあ…笑っても目が笑わない子になっちまったよ、」
あの男が笑わない、
そんな貌は想像できない、それくらい底抜けに明るい眼。
それでも笑わなかった現実を静かな声が響く。
「畑の山は仕事だから登る、そう言うからなあ、だから警官にして山岳救助隊にひっぱりこんだよ?事前練習だって色んな山も連れてったんだ、」
だから光一は記録がある、早熟な頃から。
その理由たち見つめる雪の森、深い朗らかな瞳は言った。
「光一に登る理由と生きる意味をやりたかった、で、あいつは山の医者を理由と意味に選べたろう?だからもう警察は辞めて良いんだ、」
登る理由、生きる意味、だからだ?
―だから俺は光一に惹かれるのか、俺と同じ理由だから、
生きる理由、生きる意味、ずっと自分も探していた。
そうして山と山岳救助隊を選んだ、その先を歩く笑顔は言ってくれた。
「なにより宮田、おかげで周太くんを救えたろう?あの子も光一も警察から解放してやれたんだ、だからもう謝るな、」
ぽん、
そっと背中を敲いてくれる、その手が大きい。
この掌どれだけ自分を押してくれたろう、鼓動ごと軋む温もり笑ってくれた。
「二人を救ったのは宮田だ、おまえは最高のレスキューだなあ?」
そんなこと、言ってもらう資格なんてあるだろうか?
そう自問する、ぐさり自責が穿たれる。
だってそれだけのこと二人にしてしまった、二人とも体ごと奪って何をした?
「すみません…俺、」
想い零れて声になる、視界にじんで溢れだす。
零れて溢れて鼓動ゆるやかに解かれて、その背中そっと大きな掌がくるむ。
「泣いてもいいんだ宮田、ここは山だ、」
とん…とん、
掌そっと背をさする、やわらかに緩みが響く。
背中ほどく大きな掌は温かい、ただ温もり優しく聲が響く。
「ここは山だからなあ…おまえのまんまでいい、おまえで良いんだ、」
(to be continued)
【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」/William Wordsworth「Lines Compose a Few Miles above Tintern Abbey」】
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