萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第85話 暮春 act.5-side story「陽はまた昇る」

2016-07-31 23:10:18 | 陽はまた昇るside story
Into my breast and eyes, which I have spent, 還らぬ時に、
英二24歳3月下旬



第85話 暮春 act.5-side story「陽はまた昇る」

山上、青から光散る。

かさり針葉樹林の雪が鳴る、白きらり零れて光さす。
名残の雪が春陽はじいて落ちてくる、きらめく残雪の氷に息が白い。

「俺たちが一番乗りですね、後藤さん?」

笑いかけた口もと靄が白い。
青ひろやかな三月の空、白い尾根の頂上に隣が笑った。

「おうよ、だが国村が同じコースなら競ったろうなあ?」

日焼ほころばす名が名字でいる。
その呼び方に英二は背中ちょっと伸ばした。

「後藤副隊長から見て、山岳救助隊のトップは国村小隊長ですか?」

警視庁山岳救助隊のエース、そう呼ばれる男をどう評価する?
今の本音を聴いてみたい、そんな願いにベテラン警察官は笑った。

「そうさなあ、身びいきだが今は日本のトップだろうよ?光一の基礎能力は抜群だ、」

だが「今」は、なんて区切りに本音が燻ぶる。
残雪まばゆい青の下、白い息と口開いた。

「大学受験が終わったころ、国村さんは山ヤの技術が落ちるってことですか?」
「ブランクが開くのは仕方ないだろう?程度によるだろうがなあ、医学部で社会人入学じゃあ暇もないだろうよ?」

応える声が肚深く響く。
そこにある本音と問いかけた。

「私人の立場で言います、俺は光一がトップから降りることは惜しいです。でも光一がなりたい未来は違うってことですよね?」

こんなこと認めるのは嫌だ、だって憧れだった。
それでも逃げられない現実は言った。

「そうだなあ、あいつは記録なんざ二の次だろうよ?山で生きられたら満足なやつなんだ、」

日焼あざやかな笑顔に雪のかけら降る。
青く高く透る空、森林限界の梢に笑いかけた。

「そうですね、光一は山の医者でいるほうが似合うと思います。警察官でいるよりずっと、」

警察官の姿も似合ってはいた、けれどもっと似合う姿がある。
そんな予想図に山の警察官も笑った。

「だろう?射撃の腕前は警察向きに見えるがな、アレも山の猟銃が本職だからなあ。白衣もしっくり似合うだろうよ、」
「俺もそう思います、」

頷いて笑って、でも肚底が寂しい。

―光一がいない山岳救助隊、か?

あの笑顔が隊舎から消える、そんな想像まだ現実に見えない。
それでも明日は現実化する。

「似合うけど寂しいです、今は、」

本音そっと息白くなる、その靄に視線が止まった。

「あ、」

あれは何だろう?

「どうした宮田?」
「そこのブナ林です、北斜面の、」

応えながら屈んでワカンの留具を確かめる。
きっと雪が深い、そんな予想に肚響く声が言った。

「あの黄色だな宮田、」
「はい、ツェルトだと思います、」

立ちあがり歩きだす、ざぐり雪音アイゼン踏みしめる。

―こんな晴れた真昼にビバークなんて変だ、怪我かそれとも?

雪山日和、それを歩かずツェルトに籠るのは異常だ。
懸念と進む尾根の白銀、高くなる陽に森の陰翳うつろう。

「登山計画書は昨日、多かったですか?」
「日中は良い日和だったからな、雪崩の警戒を促したよ、」

ざぐざぐ雪かきわけ黄色が近づく。
踏みこんだ白い樹肌の森、さくり粉雪がゲイター埋めた。

「後藤さん、昨夜の奥多摩は雪でした?」

森の雪さらさら足もと崩す。
この感触まだ降雪から一昼夜を過ぎない、そんな感覚に副隊長は肯いた。

「夜中に霙が降ったよ、山は吹雪いたと聞いとる、」

ピンポイントの天候悪化は時に予測できない。
天気図では読み切れない山の天候、その白銀に黄色が埋もれる。

―無事でいてくれ、

祈る想い踏みこんで、ずぶり股下まで埋もれる。
北斜面は吹きあげる北風に冷たい、頬かすめる温度すっと下がる。
急転してゆく体感温度ごと光も弱い、尾根と違いすぎる大気と積雪に上司が呼んだ。

「宮田、踏抜きに気をつけろよ?雪が緩んでいる、」

ずずっ、引きこまれるよう雪が脆い。
三月終りらしい足場に慎重と笑った。

「この感じ一年ぶりです、こんな時に不謹慎ですけど、」
「その気持ちわかるよ、たしかに不謹慎だろうがな?」

深い声が笑ってくれる、この空気が懐かしい。
こんなふう共に山を駆けた秋から春、あの時間へ帰りたくなる。

―青梅署に戻れたらいいな、俺、

第七機動隊も嫌いじゃない。
より高度な訓練も積める、同僚の技術に刺激も多い。
それでも今この駈けてゆく雪嶺が鼓動をつかむ、そこに峻厳を見ても。


(to be continued)

【引用詩文:John Donne「HOLY SONNETS:DIVINE MEDITATIONS」】
霙:みぞれ

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ちいさな幸せの記録

2016-07-31 19:25:12 | 雑談
幼少期の悪戯坊主です、出先の隙間時間に携帯で見つけて。笑
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山歩雑談:夏山のキケンと安全

2016-07-31 03:08:08 | 解説:用語知識


今日っていうか昨日はめずらしく夕方に山歩きしたんですけど。
いつもなら朝5時出→8時前には登りだし→昼前に下山、でも今日は寝坊した&先に用があり、
ソンナワケで予定していた山は延期して、慣れている短時間+楽ちんルートに変更して16時ごろ着きました。

そこは標高1,700メートル付近の森+草原、稀少種の植物や蝶がすむ山上の花園です。
知られちゃったら人わんさか来そうなもんだけど、悪路マイナー林道がそういう環境を守っています、笑

登山図には名前も載っているんですけど、通ったとしてもフツー気づかず素通りするようなカンジの場所。
自分も偶然に通ったとき「あれ?ここ良いコースじゃね?」と寄ってみたら以来それから常連に、笑
ソンナワケで人はいつも少なくて、夕方なんて無人or慣れてるカンジの人しかいない。

が、今日はなぜかリゾートふぁっしょんな女の子がいました。

半袖+七分丈パンツ+パラソルくるくる回し、一人で草原の中ぶらぶら歩いている。
駐車スペースにコンパクトな車一台、どうも一人で運転して一人で来たらしい。

あーコレ放置ほったらかしたらヤバいんだろうな?

って思いました率直ヤバイなあと、笑

そのとき時間は16時半=日没まで2時間くらい。
森なら真っ暗になる時間、草原も傾く日+斜面の影で暗くなり始め。
アブも蜂も飛んでいる山上の花園、高い草叢の底はヘビもいる+森はクマの痕跡もある。
きっと一人ほったらかしたらクマも鹿も来るだろう、ゴハンになる草や実もある場所だから。

山のお花畑だわ散歩しましょ、

ってカンジだったんだろうけど、でも危ないですよマジで?
そういう危険を解かっていないから無謀してたんだろうけど。

草原は転落の心配はない、が・山は街燈ナシ真っ暗で月が出ても足もとは見えません・で、転ぶし+道に迷ってアタリマエ。
転倒すれば捻挫etc動けなくなることもある、で・山は電波が入り難くて救助が呼べない・呼べてもすぐ来てはもらえません。
だから山は照明+救急用具は持って行くのがアタリマエ、低山だろーが初心者コースだろうが同じです。

かつ山は天候も急転しやすくて、朝は晴天でも午後は豪雨雷雨なんてよくあります。
今日も雨の匂いがしました、自分のトコは降っていなくても近くで降っている=すぐ雲が流れて降りだす可能性大ってことです。
自分の経験になっちゃいますけど夏は特に急転しやすいなー思います。



夏山は朝露が降ります、夜間に冷えた空気の湿気が水滴になるワケです。
その朝露が日昇=気温高くなるごと蒸発して→霧になり→霧が雲になって雨を降らせます。
ようするに一日で水が変化しまくり循環するワケです。

コレ夏山はよくあることで、八月の富士山も雷雲しょっちゅう湧きます。
そのため夏は霧に巻かれやすく、霧に濡れると体温が奪われて低体温症を起こします。
低体温症が悪化すると凍死になるワケですが、夏山だからと軽装で登った凍死の遭難例も珍しくありません。

晴天、なだらかで見晴らし良い→1時間後→濃霧・豪雨で道迷い+行動不能

なんて遭難ケースは夏山であることです。
どんな楽ちんコースでも天候変化で難易度も変化するのが山、室内や街中のスポーツとは違います。
ソンナワケで・ちょっと散歩なんて軽い気持ちからの遭難死は珍しくありません。

寺院の脇道からなにげなく山歩きを始めて、
暗くなり、道に迷い、ヘッドライトも無く登山靴ではない足は疲労で転び、
そして翌日に駐車場から200メートル付近で疲労凍死の遺体で発見、なんて事故が2、3年前にもありました。
その現場になった寺院は観光客も多いカナリ有名なところです。

春にも残雪のころ、気圧配置の急転で降った雪で凍死した遭難事故もありました。
現場は東京都奥多摩の山、標高2,000メートル未満の地点・北斜面、軽装備の登山者でした。
この事故も装備+山と天候の知識と的確な判断があれば助かったケースです。

北斜面と南斜面では気温がズイブン違います、もし南斜面にビバークすれば凍死は免れたかもしれない。
ビバーク=緊急時露営するなら焚火すればよかった、でも雪中に火を起こす技術は知らないと難しい。
アイゼンを持っていれば雪中も安全な行動が可能=体力消耗も少なく自力下山もできたかもしれない。

夏と春の遭難2例、どちらも共通するのは「軽装備」「無知識」安易が原因です。



この↑霧写真を撮ったときも下界は晴れていました、同じ地域でも山上と平地は全く違う天候だったワケです。
こんなこと普通によくあります、平地と山を同じ尺度で測れないよってことです、笑

朝と午後も天候変化は激しいのが山、
かつ山の夕暮は平地より早くあっというまに暗くなります、そのため午後発の山行は原則アウト。
夕方から登って翌朝にご来光なんて登山もありますけど、経験者のサポートなしでは危険です。

○暗い山中の行動は野生獣との遭遇+転滑落の危険も大。
○山小屋も15時には着くことが常識、遅刻すれば怒られてアタリマエなのは遭難危険度が高いためです。
○下山完了は遅くても16時、夏は日が長いためツイ遅くなりがちですが危険は変わりません。
○慣れたルートでも自然環境は変化→崩落・倒木・野生獣の棲みつきなど、道もそのときどき変化する可能性があります。
○夏山の遅い午後は雷雲発生・集中豪雨など天候変化も大きいです、観天望気の技術&装備きちんとしてください。
○単独行はクマの遭遇率がどうしても高くなります、初心者ルートやハイキングコースでも山=野生獣の生息地と理解してください。
○…やむを得ない単独行はラジオで人声複数を演出しましょう、手負いのクマは食人の可能性が高く危険度MAXです。
○草原地帯ではアブ・蜂・ヘビとの遭遇は通常モード+葉でカブレるなど有り、長袖長ズボン+登山靴が無難です。
○夏の森はヤマビルが大発生することも。。帽子+首元ガード+長ズボンなど対策して安全。

ちなみに夏の丹沢は山蛭ヤマビルの大発生で有名です、
もしヤマビルにたかられると=吸血されて流血騒ぎになります、笑
で、ヤマビルを防ぐには女性が履くタイツ+長ズボンのWガードが有効なんだとか。



また、山でカメラを使う場合、
○集中して野生獣の接近に気づかない→遭遇→襲われる、なんてことも。
○三脚は持たない方が無難です、担いだ三脚を枝にひっかけ転滑落・三脚のバランス崩して転落なんてことも。
○登山道での撮影は他の人の通行を妨げないこと、カメラ使用者を避けて転落となれば責任問題が起きます。
○撮影の邪魔だと草木を折ったりしない、条例違反も当然ですが「山」への畏敬なく山の撮影など無理です。

ラストに、最低限のことですが、

○山の三品は最低限必携=水・照明・雨具
○足もとは登山靴、履き慣らしておかないと怪我します。
○防寒具は夏山でも必携、真夏でも山は天候・時刻で冷えこみます。

今日っていうか昨日ちょっと危なっかしい人を見た&夏休み夏山シーズンなのでコンナの書いてみました。
自己過信は遭難事故の元、単独行・午後発・悪天候と夜間は避けて無難です。

山は安全万端こそ楽しくで、笑
ちょっと真面目に47ブログトーナメント

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