萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

天高く、稜線の秋

2020-09-17 21:54:02 | 写真:山岳点景
すすき銀色、秋日きらめく 
山岳点景:明神岳2017.9


秋の初め、ススキ原っぱ×青空がキレイでした。
残暑まだ厳しい日もあるけれど・山野は花も風も雨も凛ときれいです。
【撮影地:山梨県山中湖村2017.9】

リアル山ずーーーーーっと登れていない→ナマりそうでマズイです。
緊急事態宣言出てないとは言っても×県境越えての外出自粛で近場の里山散歩・のち午後はおうち時間なココントコ週末、笑
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夕染め色、曼珠沙華

2020-09-17 12:48:20 | 写真:里山点景
夕染めに朱、赤、緋色きらめく里の秋 
里山点景:彼岸花ヒガンバナ2013.9


秋初めの夕刻、夕陽きらめく赤がキレイでした。
残暑まだ厳しい日もあるけれど・山野は花も風も雨も凛ときれいです。
【撮影地:神奈川県丹沢山麓2013.9】

リアル山ずーーーーーっと登れていない→ナマりそうでマズイです。
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第86話 建巳 act.11 another,side story「陽はまた昇る」

2020-09-17 10:06:00 | 陽はまた昇るanother,side story
A 5 ou 6 heures du soir 
kenshi―周太24歳3月末


第86話 建巳 act.11 another,side story「陽はまた昇る」

甘辛い、醤油なつかしい香。
あたたかな湯気、それから母の笑顔。

「おいしい、やっぱり周のごはんがいちばんね?」

黒目がちの瞳きらきら笑ってくれる、その額はえぎわ銀色ひとすじ。
こんなふう心労かけて、それでも変わらない幸せに微笑んだ。

「ありがとう…僕も、うちのごはんが好きだよ、」

おいしい、母との食卓は。
こんなふう母子ふたり食事すること、幸せだ。

―寂しいときもあったのに、ほっとする…ね、

母子ふたりきり、それが寂しかった。
でも寂しさは父がいなかったからだ、消えた空気が虚ろすぎて。

『帰ったらお花見しよう…約束だよ?』

約束だよ、そう言って笑ってくれた。
あの声も笑顔も忘れられない、十年とっくに過ぎた今も。
このダイニングも椅子そのままで、そんな食卓に醤油あまやかに温かい。

「独活のきんぴら、今日もすごく上手ね、」

やわらかなアルトが笑ってくれる、その声に湯気ほろ甘く香り高い。
自分も箸はこんで、胡麻油こうばしい甘辛さに微笑んだ。

「ん…」

懐かしい味ふわり広がる。
この味たどる想いに母が言った。

「本当においしいわ、お父さんの味そっくりね、」

言葉ひとつ、鼓動そっと響く。
母も同じだ、ふたり向きあう食卓に微笑んだ。

「よかった…お父さんの味にしたかったんだ、」

父は料理が好きだった。

『周、今日は何が食べたい?』

休みの日いつも訊いてくれた、そうして台所で一緒に笑った。
エプロン姿も似合った父、器用な手いつも包丁が綺麗だった。

「どれもおいしいわ、この季節のお父さんの得意料理ばかりね、」

やわらかなアルトが笑って、黒目がちの瞳が微笑んでくれる。
この笑顔を父も見ているだろうか?ほろ甘い食卓に口を開いた。

「お母さん、僕、お墓参りに行ってきたんだ…退職届を出した帰りに、」

聴いてほしかった。
もう返事はもらえない、それでも話したかった願い微笑んだ。

「お父さんに報告ちゃんとしたかったんだ、おじいさんにも、おばあさんにも…みんなに聴いてほしくて、」

今、食卓はふたりきり。
けれど本当は二人じゃなかった、そんな想いに母が微笑んだ。

「そうね、ちゃんと家族には話したいわね、よかったね?」

黒目がちの瞳やわらかに肯いて、やさしい唇ほころばす。
こんなふう肯定してくれる家族に、温かで周太は笑った。

「ん、話せてよかったよ…」

笑いかけて母も笑ってくれる。
その頬すこし細くなった、それだけ心配かけた痛み疼く。

「お母さん、いっぱい食べてね?」

ほら声になる、だって肩も細くなった。
ニットやわらかなライン、けれど記憶より痩せたひとは綺麗に笑った。

「うん、いっぱい食べるわ。おかわりちょうだい?」

笑って茶碗を差し出してくれる。
受けとって、その細くなった手に軋んだ。

―おかあさん痩せた…いつのまに、

母と二人、ゆっくり顔を見る時間ずっと無かった。
その間いつから痩せたのだろう、なぜ?

「この白魚のかき揚げ最高ね、さくさくほっくり美味しい。ワインあけちゃおうかしら?」

ほら?元気に食べてくれている。
幸せそうな口もと昔のまま、額ふんわり明るい、病に傷む空気もない。
けれど肌ふっと透けるようで、そして痩せた。

―葉山のお家でもごはん、しっかり食べてたはずなのに…おばあさまも菫さんも何も言ってなかったけど、

飯櫃くゆる甘い香、しゃもじ動かしながら考えめぐる。
しばらく世話になった大叔母の家、そこで母はリラックスして笑っていた。
だからこそ心配で、くゆる湯気ごし尋ねた。

「お母さんは、菫さんのごはんは好みだった?」

こんな質問、変かな?
けれど気になるまま茶碗と差しだして、母が微笑んだ。

「ありがとう、菫さんのごはん?」
「うん、おばあさまと菫さんと…ごはんお世話になってたから、」

肯いて箸とりながら、母の目そっと見つめる。
黒目がちの瞳もこちら見て、そのまま笑ってくれた。

「すごくおいしかったわ、おばさまのお料理もおいしくて。でも周のご飯がいちばん好きよ?」

あなたがいちばん、そんな眼ざし笑ってくれる。
言われて気づいて、熱ふわり首すじ染めた。

「…あ、僕そうじゃなくて…」

首すじ熱が昇る、ほら頬まで熱い。
だって子供じみた質問になってしまった、恥ずかしさに母が微笑んだ。

「菫さんはたしかにプロよ?おばさまもベテランだもの。だけど私は、周太の味がいちばん好きなの。」

ああほら、やっぱり「いちばん好き」を言われたいのだと思われている。
思わせてしまう自分が気恥ずかしくて、ただ箸うごかした。

―やっぱり子どもっぽいんだ僕…もう24歳なのに、

大学も出て、警察官になって。
そして退職も経験した、それでも子ども扱いさせてしまう。
こんな自分だから、あなたに甘えているだけなのかもしれない?

―お父さんに似てるって思ったんだ、僕…英二のこと、

今座るダイニングテーブル、あなたが座った笑顔に想った。
本開く姿にも想ってしまった、そして、山登るあの背中に父を見た。

―ファザコンな自覚あるもの僕…だから、似ててなおさら、

大叔母の息子の息子、そんなことは知らなかった。
それでも父を重ねて、それくらい似ている。

『あれは他人の空似とは違う、馨さんと表情が似すぎているんだ。英語の発音までそっくりで、』

父の友人でザイルパートナー、そんなひとも似ていると言う。
そして自分は惹かれて惹かれて、今この食卓にも追いかける。

『うまいよ、周太、』

このダイニング、切長い瞳が笑ってくれた。
白皙の笑顔ほころんで、ダークブラウンの髪がランプに艶めいた。
端整な唇すこやかに箸はこんで、あの低いきれいな声が笑っていた、ここで。

『英二って呼んだけど、私のことは呼ばなかったよ?私が看病してるとき湯原くん、何度も英二って』

怪我に病に熱うなされて、そのさ中も呼んだ名前。
看病してくれたのは大好きな女の子、それなのに呼んだのは男性の名前。
それだけ想っている、逢いたい、あなたに逢いたい、けれど本当に正しい?

『その男と本気でケリつけんと失礼じゃねえ?周太の気持ちはどっちつかずだろ、』

友達が言ってくれたことは率直、自分そのままだ。

『異性愛者は信頼できるって命題は“偽”だろ?ソレと同じに同性愛だからってコト無いな思うわけ、単純に・周太だから偏見を挟まないってダケ、』

異性愛、同性愛、偏見。
そんなふう友達は言ってくれた、偽らない言葉だと自分でもわかる。
そういう相手だから信頼できる、ともに学ぶ道を選ぼうと決めた、だからこそ分からなくなる。
そういう相手に言われた「だから偏見を挟まない」それは相手次第で変わる可能性だ。

『男の愛人は邪魔な立場になったんだ宮田は。いわゆる権力者だ、その後継者として宮田は鷲田になった、』

権力者、後継者、そんな言葉の意味くらい自分だって解かる。
けれど上司で先輩でパートナーだった人は、敢えて現実を言ってくれた。

―伊達さんが言うとおりなんだ…賢弥が僕だからって言ってくれるように、

あの先輩は心配してくれている、あの友達も。
それほど今この現実は「邪魔」にされるほど、男が男を想うなんて一般的には「無い」ことだ。

“けれど、冷たい偏見で見られる事も知っている。ゲイと知られて、全てを否定された事もありました”

勤務していた交番の管轄、新宿のかたすみ座りこんでいたサラリーマン。
彼の貌は蒼白い絶望、それでも立ちあがって彼は言った。

『もういいやと思えました、』

もういいや、そう言った片頬は自嘲に笑っていた。
そうして彼が歩きだし、言ったこと。

『もうこれで他の男を探します、』

あれは諦め、それとも希望?
そんな問答こうして蘇るのは、それだけ迷う自分。
あの夜あの背中、同性の恋人を求めて得られず街へ戻った背中は他人事じゃない。

―僕も由希さんの前で泣いたもの…英二も泣くのかな、

あなたは泣くのだろうか?
あの切長い美しい眼は、誰かを想う涙あふれるだろうか?

今、あなたは誰を想ってるの?
そこに自分はいるの?

「周?」

呼ばれた名前に戻される、
瞬きひとつ、見つめた食卓に周太は微笑んだ。

「ん…?」
「考えごと、どうしたの?」

やわらかなアルトが訊いて、鼓動そっと敲かれる。
ずっと考えていたこと声にしていいのだろうか?

「うん…」

あのひとのこと、彼女のこと、これからのこと。
話したい事あふれている、その全てに母の本音を聴きたい。
想い、ひとつめに口ひらいた。

「英二が僕に、この家に関わるのは、正義感なのかもしれないって。」

鷲田英二、それが今のあなたの本名。
その事実を教えてくれなかったのは、なぜ?

『いわゆる権力者だ、その後継者として宮田は鷲田になった、』

告げたのは任務の上司でパートナーだった。
告げられた最初の想いは「なぜ?」どうして他の声で聞かなくちゃならないの?

「英二はね、何も僕に言ってくれないんだ。本当に大切なことは、」

どうして話してくれない、いつも。
そんなあなたは別世界の人になってしまった、そういう名前をあなたは選んだ。
ほんとうは追いかけたい、でも怖い、もう変わってしまった名前に怯えてしまう。

「話してほしいよね、周は、」

やわらかな声が微笑んでくれる。
やさしい相槌は変わらない、生まれた時から知る瞳に周太は告げた。

「本当に大切なことを話さないで、ずっと一緒にはいられないって僕は思うんだ…お父さんがそうだったように、」

父は黙ったまま消えてしまった。
何も言わないで、大切なこと独り胸にかかえて死んだ。

「お父さんは悩んでること言わなかったでしょう?それはお母さんと僕を守るためだったよね、でも…僕もお母さんも苦しいよ、」

ずっと哀しかった、苦しかった、解らなくて。
そうして消えてしまったひとの席を見つめて、続けた。

「お父さんがもし話してくれていたら、お母さんも何かできたかもって思ってきたでしょう?死なせなかったんじゃないかって、」

もし話していたら?
そんなこと何度もきっと考えている、母は。

「お母さんが何かすることは難しいかもしれないよね、でも、おばあさまに相談するって思いついたかもしれないでしょう?」

母なら、きっと提案していた。
それでも出来なかった過去に、黒目がちの瞳が微笑んだ。

「うん…そうよ、何度も思ってるわ、」
「僕もね、なんども思ってきたよ、」

肯いて見つめて、母の瞳ゆっくり瞬く。
きっと泣きたいだろう、それでも微笑んでくれるひとに言った。

「だから英二にも同じこと思うんだ、話してくれないひとはずっと一緒にはいられないから、」

あなたは嘘つき、秘密だらけだ。
それは僕を守るためだとしても、それでも。

「お父さんは、お母さんと僕を守るために黙ってて、でも話してくれたら、生きて今もそこに座ってたかもしれない…だから英二に苦しいんだ、」

今、見つめてくれる母の隣。
そこに父が座って笑ってくれた、その可能性にあなたの今が哀しい。
だからこそ考え続けた未来へ、呼吸ひとつ、口ひらいた。

「お母さんは、僕に結婚してほしい?」

※校正中
(to be continued)
【引用詩文:Jean Cocteau「Cannes」】

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斗貴子の手紙
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