萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

深夜雑談:眠たくて。

2015-10-24 00:17:23 | 雑談
あくび猫の伝染性



深夜雑談:眠たくて

猫のあくびは伝染すると言いますが、ウチの同居者=悪戯坊主もあくびします。
で、ウツルかっていうとソウとも言い切れませんが、眠たくなるタイミングは同じような気がします、笑



そんなワケで眠い&明朝めちゃくちゃ早いので寝ます、笑
加筆校正ほか・また後ほどに。


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第83話 辞世 act.23-another,side story「陽はまた昇る」

2015-10-22 22:50:04 | 陽はまた昇るanother,side story
峻厳の底
周太24歳3月



第83話 辞世 act.23-another,side story「陽はまた昇る」

突きあげる衝撃、これは何?

「耐えてくれっ」

すぐ耳もと声が叫ぶ、でも真っ暗で顔が見えない。
低いくせ透る声はよく知っている、その声すぐ震動に遮られた。

「…っ、」

背中から突きあげて冷たい。
登山ザックもアサルトスーツも徹って零度が叩く、ゆすられる。
この今どこで何が起きているのか?すぐ思いだして周太は叫んだ。

「だめっ、えいじ!」

英二、あなたが僕に被さって庇ってる。

「えいじっ、僕の盾になんかならないでっ英二!」

がつんっ、がつっ…ざあっさぁっ、

重たく硬くぶつかる音、きっとヘルメットを氷の礫ぶつかる音。
砂のような音は雪が流れる、そして音つぎつぎ大きくなって轟く。

「…したっ、…んしんしろっ、」

なにか言ってくれる声、でも遮られ聞えない。
ただ音は重たく絶えず大きくなり流れだし、そして轟いた。

がきんっ、どおんっ、

「っ、英二っ!」

なにか砕けた、崩れる。
そんな音弾けて背から突きあげる、肺ぐわり掴まれる。
真っ暗なにも見えない零度の底ゆすぶられて、それでも握っていた銃を抱えこんだ。

―弾はもうない、でも流されたら、

この狙撃銃もし失くしたら、誰がいつ拾うか解らない。
そんな危険は自分を許せない、そして今こんな事態こそ赦されない。
だって自分こそ護りたい、けれど抱きこめてくれる腕は強すぎて動けない。

「えいじっ、だめだ英二やめてっ!盾にならないでっ…ごほっ、」

呼んで叫んで、もう声かき消されてしまう。
崩壊音、擦過音、突き上げる震動に肺からゆすられ喉つまる。

―くるしい、息が…っ、

呼吸できない、だけど叫んでいる。
だって自分こそ唯ひとり護りたいと願った、なのに自分が護られてしまう。

「かお…てでおおえっ、…にくうき…ポケットつく…!」

あなたの声が叫ぶ、何か伝えようとしてくれる。
この声いつも懐かしかった、だって父と似ている。

「えいじっ、えいじこそ口閉じっ…ごほっ、くち開けてたら雪がっ!」

叫び返して祈っている、だって護りたい。
あなた唯ひとり無事ならそれでいい、そんな本音また思い知らされる。

「こ…いっぱ…すえっ、」

ほら叫んでくれる、それなのに音が震動が遮って聞えない。
もう雪崩すぐ迫りくる?

「いやだ!英二を巻きこんでこんなっ、やめてえいじ!」

お願い、もうやめて?

「やめてえいじ!もう息いっぱい吸って口閉じてっごほっ、僕はいいからっ」

きっと雪崩に耐える指示してくれている。
そう解るから止めてほしい、だって自分のこと抱きこんで庇っているのに?

「えいじっ!えいじはなにか被ってるのっ…ごほっえいじもう」

声もう聞えない、ただ音だけ鼓膜つんざいて震える。
そして温度が自分を抱きしめる、強い力いっぱい温もりが自分を抱いて、そして言った。

「きれいだ、」

今、なんて言ったの?

「え?」

こんな時に「きれいだ」と言ったのだろうか。
それほど雪崩は美しい?そんな疑問と、それから呆れと愉快につい微笑んだ。

―英二やっぱり山が好きなんだね、こんなときも、

雪崩に呑まれる、そんな瞬間すら「きれいだ」と見惚れている。
これほど山を愛している人、こんな人なら救かるかもしれない。

「えいじっ、どうか英二だけは生きてっごほっ」

願いごと叫んで、だけどきっと聞えていない。
だって自分もあなたの声もう聞えない、それでも約束きれいに笑った。

「生きてっえいじ!絶対の約束だよっ、」

絶対だ、そうあなたは何度約束してくれたろう?

『北岳草を見に連れて行くよ、絶対の約束だ、』

あなたがくれた約束たち、あれが一番うれしかった。
だからほら、こんな時なのに自分だって笑っている。

「生きて笑って英二、絶対の約束だよ?」

ほら約束に笑う、きっとあなたも何か言ってくれている。
だけどもう声ひとつ聞えない、それでも温もりだけは抱きしめてくれる。
大きく波うつ震動に呼吸からゆすぶられて苦しい、それでも香ほろ苦く甘くて幸せな記憶が抱きしめる。

「周太、」

ほら君が呼ぶ、名前こうして呼ばれた初めての瞬間が今も抱く。
あのとき全て赦されるのだと想えた、ほんの一瞬だけど、こんな自分でも幸せになれると信じられた。

『きれいだ、周太は、』

そんなこと言うの、あなたくらいだ。

「ごほっ…だから生きて笑って、英二、」

男の自分に「きれいだ」なんて普通じゃない、でもあなたは普通にいつも言ってくれた。
いつも気恥ずかしくて、くすぐったく照れて嬉しいと想う自分にも肚立った。

“男の自分を男として認めてくれない?”

そう想うと悔しくて、だけど嬉しい本音があなたを追いかける。
同じ男で同じ齢、そのプライドが「嬉しい」を否定して、それは今も変わらない。
それでも唯ひとつの感情は今こんな時すらあふれて宝物に抱きしめる、この想い唯ひとつ周太は祈った。

「お父さん、英二を救けて…お母さんと同じくらいたすけてあげてっごほっ、ぅおねがっ」

がごんっばきっ、ざざぁっ…さあっ、

轟音くだけて爆ぜて鼓膜ひっぱたき背中を撃つ。
もう呑みこまれる、その音に突き飛ばされ息止まった。

「っぅ、」

くるしい、でもこのひとをたすけて。



(to be continued)

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文学閑話:山茶花、望郷―Reginald Horace Blyth 

2015-10-22 22:37:14 | 文学閑話韻文系
花ふる故国



文学閑話:山茶花、望郷―Reginald Horace Blyth

近所で山茶花が咲きだしました。
山茶花は日本だと自生種ですが花色は白、で↑コレはご近所の公園に咲く園芸種になります。
自生種なら『万葉集』に詠われていそうなモンですが該当花の説は現在ナシ、でも後代の辞世句でこんなのあります。

山茶花に 心残して 旅立ちぬ

1964年10月28日に亡くなった文学者が遺した辞世句です。
その日の窓に白い山茶花が咲いていたかもしれません、そして「山茶花=日本」であったと思います。
詠人は日本文化研究者でもありました、その日本を愛する想いが第二次世界大戦の戦後処理にも彼を奔走させました。

Reginald Horace Blyth レジナルド・ホーラス・ブライス

ロンドン大学卒業後、京城帝国大学英文科助教授、第四高等学校英語教官を歴任。
戦時下は敵性外国人として収監されながらも日本を愛する心を失わなかった人です。
戦後は学習院大学英文科にも勤め、東京大学から文学博士号を授与されました。

当時、そして今も人種差別の現実は否めません。
有色人種の国は欧米から見れば「下」、その現れのようにブライスの最初の妻は京城時代に離婚して帰国してしまいました。
その後に再婚した妻は日本女性ですが、戦後=敗戦国ともなった日本サイドに英国人が立つことは「異常」軋轢も圧力も強かったと思います。

彼の文学的功績は禅の思想と俳句を世界にひろめたこと。
そのままに辞世句も遺して日本で死去、鎌倉に葬られています。

“山茶花に 心残して”

山茶花は日本と中国の原産でイギリスには無かった花です。
母国には無い山茶花に心遺して逝去する、そこにあるのは「日本=故国」と慕う望郷の想いです。

山茶花は散る花びら一つずつ舞います、白花だと風花ふるよう綺麗です。



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深夜雑談:甘えん坊の夜

2015-10-22 00:52:00 | 雑談
いとけない×いとおしい



深夜雑談:甘えん坊の夜

ウチの悪戯坊主は4歳、いまだに甘えん坊もみもみします。
これ母猫に甘える仕草なんですけど、吸いついてるのはニットパーカーで。
赤ちゃんの時から気に入って→とられてしまいました、自分も気に入ってたのに、笑

そんな赤ん坊時代の寝顔はこんな↓カンジです。



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流星群の夜@曇天

2015-10-21 23:54:17 | 雑談
雲隠れ×夜話



流星群の夜@曇天

タイトル通り曇@神奈川県、おかげで流星群まったく見えません、笑
それでも半月が金色きれいだったから撮ろうとして、

…が、それも雲隠れに。

そんなこんなで22時以降たまにベランダ見に行って、
結局なんも撮れなかったから写真は前に撮ったイメージです、笑



今日の半月は↓これよりちょっと欠けた位。



〆は今年の九月中秋で。



第118回 1年以上前に書いたブログブログトーナメント

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深夜雑談:同居者の寝相

2015-10-21 01:07:13 | 雑談
ゴキゲンと寝床



深夜雑談:同居者の寝相

手を前に伸ばして寝る悪戯坊主、なんですけど。
ナンダカちょっと機嫌悪そうなのはお気に入りのクッションがないからで、笑



天気いいから干しちゃった↑時はこんな貌してることもあります。
で、クッションある時はこんな↓感じです。

ねこの写真ブログトーナメント



明日っていうか今日だけど、朝になったらAesculapiusの加筆Ver載せます。
悪戯坊主ともども眠いので取り急ぎ、笑


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山岳点景:初秋そまる 2015.early Autumn

2015-10-20 21:05:03 | 写真:山岳点景
Hence in a season of calm weather



山岳点景:初秋そまる 2015.early Autumn

八月終わりから十月半ば、山では黄葉が始まります。
上は富士山2合目あたり、このあいだの土曜に撮ったばかりです、笑



下は三頭山の八月末、雲こめる霧の森です。
霧ふる山、この湿度×低温に陽が照ると木々は染まります。



撫子は常夏の花とも呼びます、そのままに夏から秋が花の季です。



秋初める八月の末、松虫草の薄紫が山の草原を彩ります。



秋の七草、女郎花の金色に風も涼やかです。



秋の山は茸をよく見ます↓紅天狗茸ベニテングダケはとくに有名ですね、笑



ススキの尾根は青空に映えます。



陽に透ける穂の銀色が好きです。



中秋の名月。



大菩薩峠の十月初め、紅葉あちこち染めだします。



日蔭は肌寒い、でも澄んだ空気に太陽まぶしいです。
この寒さ×日照が色あざやかに染めます。



秋の葉色は朱色から紅葉と黄葉、どちらが好みですか?



竜胆が咲くと秋も深まります。



紫紺、白、濃淡さまざまの竜胆ですが奥多摩から山梨の山は薄紫をよく見ます。



秋そまる森は足元も秋、朝露の草紅葉は特にきれいです。



下は富士山にて、火山らしい溶岩に苔の露きらめきます。



これから秋深まる季、楽しみです、笑

第147回 過去記事で参加ブログトーナメント


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第83話 辞世 act.22-another,side story「陽はまた昇る」

2015-10-20 10:02:01 | 陽はまた昇るanother,side story
freezing point
周太24歳3月



第83話 辞世 act.22-another,side story「陽はまた昇る」

かちり、

構えた狙撃銃、スコープ覗きこむ。
接眼部すこし目から離す、その間隔は200メートル先が明確に見える程度。
この距離がないと射撃時の反動で目の周り痣つくることになる、その視界に窓を見た。

―狙える、これなら…反射がなければ大丈夫、

太陽光させばガラスが反射する、そうなると見え難い。
けれど暗ければ室内の明るさ透けてクリアになる、そんな窓は人影たち映す。

―三人いる、小屋主さんが一番奥…白髪まじりの人が官僚の人で、じゃあこの人が?

スコープとガラス窓のむこう横顔三つ、誰もが眠らず起きている。
午前6時は山小屋の朝として早くない、そんなことも教えてくれたのは父と、それから今すぐ傍いる人だ。

―英二も言ってたね、山なら朝ごはんの時間だって…みなさん少しは食べたのかな、

見つめるスコープの横顔三人、かすかに窺える表情は明るくない。
けれど荒れたふうでもなくて、ただ疲労の窶れが輪郭を削っている。

―籠城なんて疲れるよね、するほうだって…これだけ見えたら外さない、

きっと大丈夫、外さない。
すこしの安堵と銃をおろし周太は右手のグローブ脱いだ。

「…さぅ」

寒い、そう言いかけて声飲みくだす。
いま声を聴かれたら困る、そんな相手が視界の端に静寂と片膝つく。

―もう覚悟してるんだ、英二は…どうして、

どうして君は今、こんなに穏かなのだろう?

雪壁の蒼い影、片膝ついた横顔が白皙あわく光る。
ゆるい風はためく合羽にウェアの青すかす、ヘルメットも青く雪上の闇にとける。
その頭上はるか銀色またたいて月が明るい、こんな時でもこのひとは山が似合う。

―それくらい山が好きなんだね…山も英二を好きなんだ、なのに僕は、

想い吐息こぼれてマスク透る。
白い靄くゆらせ雪壁とけこむ、そんな冷気に凍える指でヘッドランプ探った。

かちっ、

かすかな音に光の輪ふわり照らしだす。
暁闇の底にぶく銃器は光る、その薬室に弾丸一発だけ籠めた。

かちり、

装填の音に緊張ゆるやかに昇りだす。
ただ一発、それしか時間は与えられない。

『ブッシュ帯なので足場から崩れる危険があります。上部でセラック崩壊が起きれば連動しやすいです、下は遮るものが樹林帯までありません、』

足場から崩れる危険、セラック崩壊。
どちらも雪崩まきおこす意味、そんな危険地帯で発砲すればどうなるのか?

―雪崩が起きたらもう撃てない…きっと逃げる時間もない、ね、

発砲が生みだす衝撃波が雪面ゆらす、そして崩れる。
流れだす雪に足場なんて定まりっこない、狙撃どころか自身の命さえ定まらないだろう。
だからチャンスは一発だけ、ここから先は迷っていられない現実ただ一点を見つめた。

「十時の方向、オレンジ色の小さな灯です、人の動きは見えますか?」

訊いてくれる声が近い、でも距離はとってくれている。
狙撃の邪魔にならない配慮よく知る相手に呼吸ひとつ、肚底ずっと深く声出した。

「…スコープなら、」

スリング左腕に巻きながら視線は標的へむける。
蒼白い尾根の上、黒いシルエット燈す灯が遠いくせ近い。

―絶対に外せない、誰も、

願いごと銃床を肩にあて雪壁のすきま銃口を出す。
接眼部すこし目を離しスコープのぞきこんだ視界、白い影ゆるくかすめた。

「この谷は強い風が昇ります、その風が吹雪で積もった新雪を雪煙にするんです、風向きの目安にしてください、」

きれいな低い声が告げてくる、その通りに雪煙ゆるかに標的を隔てゆく。
この白が風の強さも向きも測らせる、そして煙幕になって気づかせない。

―下からは見えないよね、山小屋からは…これも仕組まれたことなら観碕さんは、やっぱり…?

なぜ「山小屋」を選んだのか?それは観碕なら当たり前かもしれない。

『犯人は山小屋に立て籠もり中、人質は小屋主ほか3名。内1名は総務省官房審議官、犯人の要求は強盗殺人犯の無罪判決だ、』

犯人は山、人質は官僚、その背後には「あの男」観碕がいるとしたら?
それなら「遭難」を起こすようなやり方も納得がいく、だって観碕はおそらく憎んでいる。

『お祖父さんとも山によく登ったよ、お祖父さんは奥多摩が好きでね…だから庭も奥多摩と同じ木をいくつも植えてるんだ、』

山を登るひと、奥多摩が好きなひと。
それだけが父に教えられた祖父だった、あとは何も知らされていない。
それだけ山を好んだのだと祖父の教え子も話していた、だから「山小屋」を選んだのかもしれない。

―観碕さん、あなたはそんなにもお祖父さんを…どうして、

なぜ、あなたは祖父を貶めたい?

その答すこし解かる気がする、確信なんてまだないけれどきっと図星。
想い見つめるスコープの底ゆるやかに白紗かすめて低い声が告げた。

「雪煙の動きで解かると思いますけど弾道は煽られると思います、かなりの風速だと思って下さい、」

おだやかな低い声に蒼い斜面を白い幕が這いのぼる。
音もなく蒼白やわらかに近よせ視界そめて、頬かすめた冷気に氷軋んだ。

ぎしっ…

軋む音は雪壁の芯から起きる、きっと弛みだした。
そんな音に視界も明るみだす、わずかな日照に山が反応しだした。

―もう日が昇る、もう雪がくずれる…時間がない、

太陽が照らせば1時間で3度上昇もある、その気温変化に雪壁ふかく音うまれだす。
けれど無線まだ入らない、下は状況どうなっているのだろう?

狙撃の瞬間まで後どのくらい?雪は保つだろうか。

―もう狙える位置にいる、でも突入準備が…こんなに隠れ場所もないところで、

構える前、目視した現場は雪と岩場だけで遮蔽物がない。
見晴らしよい尾根に小屋ひとつ、そんな場所で近づくなら夜陰を使うだろう。

―だから伊達さんが指揮を執ってる、雪のなか…夜と雪の森を、

今、道なんて使えない。

『登山道を使えばあの小屋から見られてしまうでしょう、斜面の森を駈けあがります。人選は私に任せてください、』

そんなふう上司に直言した横顔はいつもどおり沈毅で鋭利だった。
たぶん選んだ人数は少ないだろう、それでも「同時発砲」するつもりかもしれない。

『俺も援護するから絶対に帰れ、』

伊達が言った「援護」は意味ひとつじゃない。
そう想えて心配になる、もしかしたら自分より危険を冒すつもりで?

―まさか伊達さん、でもそれじゃ、

気づいて接眼部から眼すこし遠ざける。
ぼやけて、けれど広くなった視界に窓の下が見えた。

「…っ、」

息呑んで鼓動が凍る、そんな冷厳の底かちり無線つながった。

「…S1-2 from S1、OK?」

なにが「OK」だっていうの、こんなこと?

―ちょっと逸れたら伊達さんに当たる、しかも単独で、

スコープのむこう標的になる窓の直下、パートナーは独り銃を構える。
わずかでも弾道が逸れたら当ってしまう、そして今は谷から風が噴きあげる。

―どうして伊達さん、無茶だ、

見つめる視界に呼吸から凍てつく、胸ふかく冷えてゆく。
こんなこと自分は出来ない、こんなこと聴いていない、それでも言われた。

「…You promised to follow it, OK?」

従うって約束したろう?

『伊達さんの指示に従います、』

そう言ったのは自分だ、それを今こんなふうに確かめられる。
こんなこと考えていなかったのは自分の迂闊、でも頷きたくなくて、けれど言われた。

「Don't make light of me. OK?」

そんな言い方されたら、どうしたらいいの?

“俺をなめるな、いいな?”

こんな言い方あんまり「らしく」て笑ってしまう。
こんなふう受けとめてくれるパートナーに何応えればいいか、その答そっと頷いた。

「…I protect you」

あなたを護るのは自分だ。
もう誰も死なせない、願いに無線の声かすかに笑った。

「…OK, Go,in your timing」

指示が出た。

集中そっと細まるスコープの視界、輝度ゆるやかに明るます。
あわい雪煙かすめて白む、その一点オレンジ色の窓にトリガーふれかけ雪軋んだ。

「…っ、」

雪壁が鳴る、息呑まされる。
ぎしり、きしっんっ、氷化した深く呻きあげる声に動けない。

―撃ったら崩れる、そうしたら英二は?

きしっ、ぎしんっきり…っぎし、
呻きだす雪壁にトリガー弾けない、だって恐い。
もし弾いたら崩れるに決まってる、逃げる時間なんてない、そして死なせてしまったら?

『周太、北岳草を見せてあげるよ、』

ほら記憶ですら笑顔まぶしい、あの笑顔が雪山に輝く瞬間が好きだ。
あの笑顔だけ見つめて自分も幸せだった、あの幸福すら今、自分は砕くのだろうか?

―撃てない、英二がいるのに、

逃げて、ここからいなくなって?

だって今また気づいてしまった、唯ひとり全部ひきかえだっていい。
あなた一人を救えるのなら何だって構わない、こんなことワガママでも嫌だ。

―死なせられない、英二だけは…誰よりもあなたはだめ、

誰より、あなたは幸せになってほしい。

唯それだけだ、そんなこと今この瞬間に気づいてしまった。
唯一発を撃てば雪の底へ呑みこまれる、こんな死線で気づいた願いが瞳こぼれた。

―撃てない、英二が…このひとだけは死なせたくない、

死なせたくない、唯ひとり。

唯ひとり唯ひとつの想い、そう見つめた初めての秋からどれくらい経つ?
もう一年以上が過ぎて、その時間は幸せよりも泣いた数多いのが現実だ。
秘密いくつも挟まって、離れた時間も幾夜つまれ隔たって、でも嫌だ。

―英二だけは笑ってほしい、だって僕を救ったのは、

だって英二、あなたの笑顔ひとつに救われたんだ。

『湯原、飯行こ?』

警察学校の日常、あなたは食事に誘いに来た。

『湯原、ちょっと教えて?』

ノックに開けた扉、あなたテキストとノート持って笑った。
ジャージ姿でベッド座りこみ真剣で、そして笑ってくれた。

『そう考えると解かりやすいな、湯原やっぱ頭良いな、』

湯原、そう呼んでくれた時間は6ヶ月。
あの半年がいつのまにか名前で呼ばせて、そして秋は幸せだった。

『周太、奥多摩の秋を見せるよ?』

蔦の紫紅、楓の朱赤、落葉松の黄金、錦秋あざやかな山の道。
雄渾はるかな黄昏、銀色またたく紺青ふかい夜、朝陽まばゆい雲海と富士の青。
下山の道は初雪が舞った、黄葉の林ぬけて苔やわらかな森の底ココアを飲んだ、そして一本のブナ。

『俺の特別の場所だよ、後藤さんが譲ってくれたんだ、』

黄金きらめく大樹、その光は森の冠。
大らかな梢いっぱい空を仰いで抱く、あのブナは幾星霜を超えたのだろう。
そのふりつもる時間ごと大樹はまぶしかった、あの美しい場所へこのひとを帰したい。

『周太、名前で呼んで?』

黄金きらめく樹下、初めて呼んだ想い忘れられない。

―英二、やっぱり生きて、

願い鼓動あふれて叩きつける、もう逆らえない。
想い捻じ伏せる方法なんて知らない、ただトリガーの指は凍えてゆく。
明るみだす視界に小屋の窓だけ映る、その人影ただ見つめるまま大好きな声が言った。

「大丈夫、俺が隣にいる、」

隣にいる、って。

『周太の隣が俺の居場所だ、』

そうだ、あなたの居場所はここだった。
それで自分も約束してしまった、そのままに今も居ればいいの?
そう願いたい、それが間違った願いごとだとしても唯ひとつ約束と想いに指が動いた。

銃声、そして雪嶺また一弾が響いた。

「…行け、」

銃声ふたつ、そしてスコープにアサルトスーツ独り跳びこむ。

「っ、」

危険だ、あんな至近距離は何されるか解らない。
しかも単独で跳びこんだ、こんなルール違反はらしくない。

「…だ、」

割れた窓ガラス、鈍く光る狙撃銃と小柄なくせ広い肩、そして倒れこむ登山ウェア抱える。
抱えられた男は腕から赤色ゆるやかに流す、けれど手元きらり光った。

「伊達さんっ、」

声勝手に呼んで、だけど聴こえない。
ひび割れる音、崩れる音、轟音は鼓膜ひっぱたき視界が消えた。



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山岳点景:翠×山紅葉 2015.Oct.

2015-10-19 23:59:11 | 写真:山岳点景
A freshening lustre mellow



山岳点景:翠×山紅葉 2015.Oct.

紅葉@山梨県道志村↑です。
忙しかった今日、ちょっと加筆ほか気力アレなので写真まとめます、笑



道志村は標高900メートル前後、撮った土曜朝は雨×寒い。
白っぽい空に赤色は映えます。



道志村→富士山の標高1,900メートル付近へ。
山頂は雲むこう見えないけれど、白紗に黄葉やわらかです。



ここは草紅葉もアレコレ見られます、下は蓬ヨモギ。
草餅にするアレですけど紫×赤×緑のグラデーションはカッコいい、笑



朝露ふくんだ赤一葉、とけた霜かもしれません。



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深夜雑談:昨日+α、秋夕

2015-10-19 00:25:04 | 雑談
twilight@Road



深夜雑談:昨日+α、秋夕

昨日っていうか一昨日は山@ちょっと遠出な山梨と静岡の県境アタリ、
今日というか昨日は用事→実家でケーキ×コーヒー=ケーキ食べるような特定日だったワケで、笑
そんなこんなで加筆校正は朝に繰り越しですけれど、昨日今日と帰路の風景それぞれ貼ってみました。



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