◎一学期終業式 レジメ
一学期が終わりました。
楽しみにしていた生徒諸君もたくさんいることでしょう。忙しかったこの学期を振り返り、是正すべきところは是正し、うまくいった部分はますますうまくいくように夏休みは力を大いに貯めましょう。そして、二学期、ますます飛躍してください。
今日は以下の三点について述べます。
一、学ぶ楽しみを見つけてください
江戸時代の学者である広瀬淡窓先生は、大分県の日田市で私塾「咸宜園」を開き、多くの俊秀を育成されました。入門者は4,000人以上に及び、高野長英、大村益次郎などが門下から出ております。なかでも、わたくしの愛好している漢詩があります。以下に紹介しましょう。
桂林荘雑詠示諸生
広瀬淡窓
桂林荘雑詠、諸生に示す
休道他郷多苦辛 道[い]うを休[や]めよ 他郷苦辛多しと
同袍有友自相親 同袍[どうほう]友有り 自[おのず]から相い親しむ
柴扉暁出霜如雪 柴扉[さいひ]暁に出[い]づれば 霜 雪の如し
君汲川流我拾薪 君は川流を汲め 我は薪[たきぎ]を拾わん
(訳)
よその地へ来て苦労が多い、などと言ってはいけない。
仲の良い友だちが出来て、親しみ合うではないか。
朝早く、柴の戸を開[あ]けて外へ出ると、雪のように霜が降りている。
さあ、君は川の水を汲んで来たまえ。僕は山で薪を拾って来よう。
咸宜園での共同生活の一コマであります。「清貧」の暮らしと、その中で勉学に励む青少年たちの心意気がよく伝わってきます。
寒い冬。そして緊迫感。
塾生同士の温かい友情。
分担して食事の支度をする場面。
これと同じなのが、論語学而篇。
「朋[とも]有り遠方より来たる、亦[ま]た楽しからずや」
学ぶことは実に楽しい。
これくらいでないといけません。昨日の自分と今日の自分ではまったく違うと実感できるくらいになりたいものであります。そこには真剣さがなければならない。
さらに大学や短期大学、専門学校等に行かれた場合、あるいは就職で他郷に出られた場合、この漢詩は強く強くわたくしたちを励ましてくれるものであります。
道[い]うを休[や]めよ
他郷苦辛多しと
これぞ、名言であります。
二 苦辛とは
上記の苦辛という言葉もまた味わい深いものであります。
先賢は教えて下さっています。
愚はよく他の欠点を挙げるが、自己の欠点を知らない。
話はうまいが、行いはつまらぬ。
若い時はうかうかして過ぎ、壮時にはせかせか動き廻り、老年には愚痴ばかりになり易い。
正に、敗事は多く得意の時に因り成功はつねに苦辛の日に在る。
そうなのです。苦辛の日々にこそ、わたくしたちの成長の糧があります。辛い日々こそ飛躍へのチャンス。ですから、辛いと思ってはなりません。今こそチャンスなのです。
今を大事にしましょう。
今こそ、勉強するしかありません。
怠けていてはなりませんぞ。
淡窓先生の「淡」を、なにもしないふんわりと生きているという意味で解釈してはなりません。あっさりしているというような意味でもありません。これは実に味わい深いものがあります。
茶道をやる生徒がこの中にもたくさんいると思います。
わたくし自身は茶道は全く疎いのでありますが、煎茶道というのでは、聞くところによると第一煎でお茶の甘みを味わい、第二煎で苦みを味わうのだそうです。
つまり甘みの奥に苦みがあります。
最後の第三煎で渋みを味わうのだそうです。
つまり、甘、苦、渋を通り越した至極の味、至極の境地を「淡」というのです。これはなかなかの深みのある淡窓先生の号であります。
甘さだけで少年時代を送り、やがて十分苦みを味わい苦労していく壮年時代、さらに年をとって渋みの出る晩年。
こうした人生を俯瞰する味わいをたった一字で現しているわけです。これだから学問というものはたまらない。楽しくて、楽しくて。一冊の漢和辞典でもずっと眺めていると尽きせぬ宝がある。
三 「熱いハートに火をつけよ」
◎知人A氏の場合
(経歴略)
方法論ではなく、実際にやったかやらないかです。「熱いハートに火をつけよ」ということが最重要です。各種いろいろな学習方法があります。このあたりは先生方によくご指導を願うこと。ノートの取り方も千差万別いくらでもあります。しかし、それだけにこだわっていてはなりません。Z会とか、世界史の教科書の索引欄から全てを口頭で説明できるとか。あるいは京大式情報カードを使いこなしているとか。わたくしの好きなスタイルですが。重要事項は、自己の頭脳の中にしっかりと書き込みましょう。ノートやカードはそのための手段です。
問題は「その勉強法を実際にやれるかどうか、やったかどうか」です。方法論のみにこだわって、中身を忘れてはなりません。
「なぜ私は一生懸命勉強するのか?」
この問いに確固たる答えを持つ。これが成功の第一条件。勉強に対する「強い思い」を維持するために絶対に必要なもの。「自分のハートに火をつけるため」であって、「誰かに聞かせるため」ではありません。
頑張れ、頑張れであります。
以上の三点について、とりとめもなく述べて参りました。
これまで、担任の先生や、学年主任の先生方、指導部長の先生に繰り返し繰り返し生活、勉強等多方面にわたって具体的指導をされてきたと思います。どうか、健康で、安全な夏休みを送ってください。くれぐれも犯罪行為には関わらないように、お願いします。
二学期、成長した諸君の元気な姿を見ることを楽しみにしております。
以上
(外山日出男)
一学期が終わりました。
楽しみにしていた生徒諸君もたくさんいることでしょう。忙しかったこの学期を振り返り、是正すべきところは是正し、うまくいった部分はますますうまくいくように夏休みは力を大いに貯めましょう。そして、二学期、ますます飛躍してください。
今日は以下の三点について述べます。
一、学ぶ楽しみを見つけてください
江戸時代の学者である広瀬淡窓先生は、大分県の日田市で私塾「咸宜園」を開き、多くの俊秀を育成されました。入門者は4,000人以上に及び、高野長英、大村益次郎などが門下から出ております。なかでも、わたくしの愛好している漢詩があります。以下に紹介しましょう。
桂林荘雑詠示諸生
広瀬淡窓
桂林荘雑詠、諸生に示す
休道他郷多苦辛 道[い]うを休[や]めよ 他郷苦辛多しと
同袍有友自相親 同袍[どうほう]友有り 自[おのず]から相い親しむ
柴扉暁出霜如雪 柴扉[さいひ]暁に出[い]づれば 霜 雪の如し
君汲川流我拾薪 君は川流を汲め 我は薪[たきぎ]を拾わん
(訳)
よその地へ来て苦労が多い、などと言ってはいけない。
仲の良い友だちが出来て、親しみ合うではないか。
朝早く、柴の戸を開[あ]けて外へ出ると、雪のように霜が降りている。
さあ、君は川の水を汲んで来たまえ。僕は山で薪を拾って来よう。
咸宜園での共同生活の一コマであります。「清貧」の暮らしと、その中で勉学に励む青少年たちの心意気がよく伝わってきます。
寒い冬。そして緊迫感。
塾生同士の温かい友情。
分担して食事の支度をする場面。
これと同じなのが、論語学而篇。
「朋[とも]有り遠方より来たる、亦[ま]た楽しからずや」
学ぶことは実に楽しい。
これくらいでないといけません。昨日の自分と今日の自分ではまったく違うと実感できるくらいになりたいものであります。そこには真剣さがなければならない。
さらに大学や短期大学、専門学校等に行かれた場合、あるいは就職で他郷に出られた場合、この漢詩は強く強くわたくしたちを励ましてくれるものであります。
道[い]うを休[や]めよ
他郷苦辛多しと
これぞ、名言であります。
二 苦辛とは
上記の苦辛という言葉もまた味わい深いものであります。
先賢は教えて下さっています。
愚はよく他の欠点を挙げるが、自己の欠点を知らない。
話はうまいが、行いはつまらぬ。
若い時はうかうかして過ぎ、壮時にはせかせか動き廻り、老年には愚痴ばかりになり易い。
正に、敗事は多く得意の時に因り成功はつねに苦辛の日に在る。
そうなのです。苦辛の日々にこそ、わたくしたちの成長の糧があります。辛い日々こそ飛躍へのチャンス。ですから、辛いと思ってはなりません。今こそチャンスなのです。
今を大事にしましょう。
今こそ、勉強するしかありません。
怠けていてはなりませんぞ。
淡窓先生の「淡」を、なにもしないふんわりと生きているという意味で解釈してはなりません。あっさりしているというような意味でもありません。これは実に味わい深いものがあります。
茶道をやる生徒がこの中にもたくさんいると思います。
わたくし自身は茶道は全く疎いのでありますが、煎茶道というのでは、聞くところによると第一煎でお茶の甘みを味わい、第二煎で苦みを味わうのだそうです。
つまり甘みの奥に苦みがあります。
最後の第三煎で渋みを味わうのだそうです。
つまり、甘、苦、渋を通り越した至極の味、至極の境地を「淡」というのです。これはなかなかの深みのある淡窓先生の号であります。
甘さだけで少年時代を送り、やがて十分苦みを味わい苦労していく壮年時代、さらに年をとって渋みの出る晩年。
こうした人生を俯瞰する味わいをたった一字で現しているわけです。これだから学問というものはたまらない。楽しくて、楽しくて。一冊の漢和辞典でもずっと眺めていると尽きせぬ宝がある。
三 「熱いハートに火をつけよ」
◎知人A氏の場合
(経歴略)
方法論ではなく、実際にやったかやらないかです。「熱いハートに火をつけよ」ということが最重要です。各種いろいろな学習方法があります。このあたりは先生方によくご指導を願うこと。ノートの取り方も千差万別いくらでもあります。しかし、それだけにこだわっていてはなりません。Z会とか、世界史の教科書の索引欄から全てを口頭で説明できるとか。あるいは京大式情報カードを使いこなしているとか。わたくしの好きなスタイルですが。重要事項は、自己の頭脳の中にしっかりと書き込みましょう。ノートやカードはそのための手段です。
問題は「その勉強法を実際にやれるかどうか、やったかどうか」です。方法論のみにこだわって、中身を忘れてはなりません。
「なぜ私は一生懸命勉強するのか?」
この問いに確固たる答えを持つ。これが成功の第一条件。勉強に対する「強い思い」を維持するために絶対に必要なもの。「自分のハートに火をつけるため」であって、「誰かに聞かせるため」ではありません。
頑張れ、頑張れであります。
以上の三点について、とりとめもなく述べて参りました。
これまで、担任の先生や、学年主任の先生方、指導部長の先生に繰り返し繰り返し生活、勉強等多方面にわたって具体的指導をされてきたと思います。どうか、健康で、安全な夏休みを送ってください。くれぐれも犯罪行為には関わらないように、お願いします。
二学期、成長した諸君の元気な姿を見ることを楽しみにしております。
以上
(外山日出男)