フジの「CHANGE」がひと月半遅れでスタートしたせいもあってか,各ドラマとも最終回を迎える段階に来ている,という達成感のような気分が希薄だ。
その理由としては,ドラマ本体よりも,改変期のバラエティ・宣伝番組の方が数字が稼げる現状を反映して,各ドラマの放映回数が基本である12回から減少してきているということがまず挙げられるだろう。加えて,コミックを原作とする作品が増えつつある一方で,ドラマの1クールでは原作全体をカバーすることが難しいために,原作の途中で物語を無理矢理収束させることが多いことも影響しているのかもしれない。
数字=視聴率という指標によって,毎週非情な判定を受け続けることを宿命とするメディア故に感知できる時代の空気を感じるため,今季もDVDレコーダーのリモコンを押し続けた末に感じたことについて,まとめておきたい。
多くのドラマ愛好家にとって,今季の目玉は「ごくせん」と「ROOKIES」という熱血学園ドラマ対決だったようだが,私は残念ながらどちらにも食指を動かされることはなかった。
断っておくが,別に学園ドラマ自体が駄目,というわけではない。「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」や「ドラゴン桜」が持っていた熱いエネルギーには,圧倒された口だ。
しかし「感動一直線」にも「至高の師弟愛」にも縁の薄い青春時代を過ごした私としては,正面から「青春」の迷いが持つ「尊さ」を説かれたり,迷える子羊を教え導く教師の「正しさ」がドーンと正面に出てきた瞬間に,条件反射的に引いてしまうのだ,どうやっても。
これら高視聴率の2番組に代表される,若者をターゲットとした番組を除いて見渡すと,残りは基本的に「働く」ことの困難さを表現しようとしている=ドラマ視聴者としてはあまり多くを期待できない,就業層を対象としていると思しき番組群が多く目に付いた。
そんな中でも「元祖低視聴率女優」という有り難くないニックネームが定着しつつある上戸彩が,またもその定説を強化してしまった「ホカベン」は,実は見応えのある法廷ドラマになっていた。
「アンフェア」で数字を取った秦建日子が脚本監修に廻って,若者の成長物語と法廷ものをつなげる,という意欲的な試みは,新人弁護士上戸彩とニヒルなやり手の先輩に扮した北村一輝というコンビの凸凹度がはまったことが,ハッピーエンドに寄りかからないビターな作劇と良い方向に相乗効果を生んで,かなりの程度で成功している。
難を言えば,早い段階で北村の暗い過去をちらつかせておきながら,最後の2回に到るまで,それがドラマの深化に寄与していかなかった点,また本来複雑なキャラクターだったはずの大杉漣演じる事務所の所長と北村の関係が,殆ど描かれないままフィナーレを迎えそうなこと等,幾つか不満はあるが,最後に流れるトータス松本の主題歌が毎度心に沁みる位に,上戸彩の哀しみが伝わってきた。これはかなり凄いことだ。
同じ日本テレビの「おせん」は,蒼井優の連ドラ初主演が話題になりながら,「ホカベン」と同様に視聴率は10%を超えられない状態が続いている(初回のみ10.3%)。しかしドラマ自体は,蒼井優の「天才肌」の演技に呼応するように,毎回「味噌」や「米」,「麹」など食材や調理法への「職人」的なこだわりを丁寧に描いて,結構な重みを感じさせる。
その重みは,主人公チームが毎回対決する相手が,実は「時代の流れ」という,老舗の料亭にとっては極めて厄介な代物であることに起因しているのかもしれない。そして,その相手に真っ向から立ち向かわなければならないが故に,映画出演時よりも肩に力が入ってしまっているように見えてしまう蒼井優の演技に,独特の臭みを感じる視聴者が少なからずいるだろうことも,容易に想像できる。
しかし,これが本格的な芸能界復帰作となる内博貴のオーバーアクションに代表される,チーム「壱升庵」の温かさ,そして何より「あっち」や「~でやんす」をものにした若女将を演じる蒼井に,「青臭い」一所懸命さを感じられる視聴者は,贔屓のサッカーチームを応援する気分で,彼らの奮闘を楽しむことが出来たはずだ。
これを契機に蒼井優がTVに本格参戦するのかどうかは判らないが,TVの側から見ると,新しい輝きを放つ原石の登場が,制作サイドの創作魂に火をつけたことは間違いないだろう。(この項続く)
その理由としては,ドラマ本体よりも,改変期のバラエティ・宣伝番組の方が数字が稼げる現状を反映して,各ドラマの放映回数が基本である12回から減少してきているということがまず挙げられるだろう。加えて,コミックを原作とする作品が増えつつある一方で,ドラマの1クールでは原作全体をカバーすることが難しいために,原作の途中で物語を無理矢理収束させることが多いことも影響しているのかもしれない。
数字=視聴率という指標によって,毎週非情な判定を受け続けることを宿命とするメディア故に感知できる時代の空気を感じるため,今季もDVDレコーダーのリモコンを押し続けた末に感じたことについて,まとめておきたい。
多くのドラマ愛好家にとって,今季の目玉は「ごくせん」と「ROOKIES」という熱血学園ドラマ対決だったようだが,私は残念ながらどちらにも食指を動かされることはなかった。
断っておくが,別に学園ドラマ自体が駄目,というわけではない。「マイ☆ボス マイ☆ヒーロー」や「ドラゴン桜」が持っていた熱いエネルギーには,圧倒された口だ。
しかし「感動一直線」にも「至高の師弟愛」にも縁の薄い青春時代を過ごした私としては,正面から「青春」の迷いが持つ「尊さ」を説かれたり,迷える子羊を教え導く教師の「正しさ」がドーンと正面に出てきた瞬間に,条件反射的に引いてしまうのだ,どうやっても。
これら高視聴率の2番組に代表される,若者をターゲットとした番組を除いて見渡すと,残りは基本的に「働く」ことの困難さを表現しようとしている=ドラマ視聴者としてはあまり多くを期待できない,就業層を対象としていると思しき番組群が多く目に付いた。
そんな中でも「元祖低視聴率女優」という有り難くないニックネームが定着しつつある上戸彩が,またもその定説を強化してしまった「ホカベン」は,実は見応えのある法廷ドラマになっていた。
「アンフェア」で数字を取った秦建日子が脚本監修に廻って,若者の成長物語と法廷ものをつなげる,という意欲的な試みは,新人弁護士上戸彩とニヒルなやり手の先輩に扮した北村一輝というコンビの凸凹度がはまったことが,ハッピーエンドに寄りかからないビターな作劇と良い方向に相乗効果を生んで,かなりの程度で成功している。
難を言えば,早い段階で北村の暗い過去をちらつかせておきながら,最後の2回に到るまで,それがドラマの深化に寄与していかなかった点,また本来複雑なキャラクターだったはずの大杉漣演じる事務所の所長と北村の関係が,殆ど描かれないままフィナーレを迎えそうなこと等,幾つか不満はあるが,最後に流れるトータス松本の主題歌が毎度心に沁みる位に,上戸彩の哀しみが伝わってきた。これはかなり凄いことだ。
同じ日本テレビの「おせん」は,蒼井優の連ドラ初主演が話題になりながら,「ホカベン」と同様に視聴率は10%を超えられない状態が続いている(初回のみ10.3%)。しかしドラマ自体は,蒼井優の「天才肌」の演技に呼応するように,毎回「味噌」や「米」,「麹」など食材や調理法への「職人」的なこだわりを丁寧に描いて,結構な重みを感じさせる。
その重みは,主人公チームが毎回対決する相手が,実は「時代の流れ」という,老舗の料亭にとっては極めて厄介な代物であることに起因しているのかもしれない。そして,その相手に真っ向から立ち向かわなければならないが故に,映画出演時よりも肩に力が入ってしまっているように見えてしまう蒼井優の演技に,独特の臭みを感じる視聴者が少なからずいるだろうことも,容易に想像できる。
しかし,これが本格的な芸能界復帰作となる内博貴のオーバーアクションに代表される,チーム「壱升庵」の温かさ,そして何より「あっち」や「~でやんす」をものにした若女将を演じる蒼井に,「青臭い」一所懸命さを感じられる視聴者は,贔屓のサッカーチームを応援する気分で,彼らの奮闘を楽しむことが出来たはずだ。
これを契機に蒼井優がTVに本格参戦するのかどうかは判らないが,TVの側から見ると,新しい輝きを放つ原石の登場が,制作サイドの創作魂に火をつけたことは間違いないだろう。(この項続く)