子供はかまってくれない

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2009年TVドラマ春シーズンレビューその4:「MR.BRAIN」

2009年06月06日 14時34分19秒 | TVドラマ(新作レヴュー)
今年4月の番組改編で完全な一人負け状態に陥ったと報道されているTBSだが,先週末に劇場公開された映画版「ROOKIES/卒業」は,配給元の東宝が「興行収入90億円が視野に入った」と豪語するほどの猛ダッシュを見せた。その原動力の一つとして,出演者の同時多発投入という,形振り構わぬTBSの大宣伝作戦を挙げることに異論を唱える人は少ないはずだ。
ある意味,読売巨人軍全盛期の日テレを凌ぐほどの「ROOKIES」露出量に,辟易していた人もまた少なくないのではないかと思うのだが,そこは「勝てば官軍」の世界。昨年の稼ぎ頭「花より男子」を上回る勢いを生み出した戦術で,低迷傾向に底を打った形のTBSは,今後一層「質より量」という傾向を強めていくことだろう。

そんなTBSの半ば開き直った姿勢が顕著に出ている,もう一つの起死回生策が,木村拓哉主演の「MR.BRAIN」だ。
地下鉄の駅構内に張り出されていたポスターのキャストを見た時,誰がメインで誰が客演なのか,見当もつかないくらいの出演者の多さに呆れたのだが,木村拓哉主演作品としては「CHANGE」に続いて放送期日を遅らせた,いわば「後出しジャンケン」に懸けるTBSの決意は,並々ならぬものがあったはずだ。
当然,初放送日前の番組宣伝は「ROOKIES」に比肩しうる物量作戦と相成ったのだが,結果はしっかりと付いてきた。初回の24.8%,第2回の22.0%共に,同期のドラマの中では群を抜く数字で,ここまでのところはTBSの描いた復活シナリオ通りに来ているように見える。

しかし肝心のドラマの中身は,正直かなりお寒い。
警察(刑事)が解決できない事件に,学者が物証と犯罪心理の両面から挑むというプロットは,福山雅治最大の当たり役となった「ガリレオ」そのものという印象を受ける。そこで「MR.BRAIN」は「ガリレオ」との差別化を図るため,主役を取り巻く大勢の人間と九十九(木村)との絡みという,「ガリレオ」にはなかったサブ・プロットを打ち出してきた。しかしかつて同枠で話題を呼んだ「ブラッディ・マンデイ」でも登板した蒔田光治の脚本は,本来は無名かつ個性的な俳優で埋められるべきポジションに,ずらりと有名どころを並べてしまったキャスティングも徒となったのか,まともに交通整理も出来ない状態に陥っているように見える。
木村拓哉は元来,独自の演技の型で突き進むというよりも,彼を取り囲む周囲とのやり取りの中で引き出されるヴィヴィッドな反応に輝きを持たせてきた役者であるだけに,大勢の共演陣が錯綜する設定は,これまでのところは彼の持ち味を殺す方向にしか作用していない。どこかで香川照之とのガチンコ勝負,というシンプルな仕立てに舵を切り直す必要が生じるのではないだろうかとも思うが,今が旬の水嶋ヒロを格上げし新旧イケメン対決としてみるのも一興か。

脳に関する九十九の講釈も,単なる医者のトリビアの域を出ておらず,ドラマの謎解きを深化させる道具にはなっていない。
更に決定的なウィークポイントとして,美術のレベルの低さを挙げたい。ドラマの主な舞台となる科警研のセットは,低予算のSFドラマに出てくる秘密基地レベルの安っぽさで,のけぞった。TBSのドラマといえば,かつて同じ木村拓哉主演の「華麗なる一族」でも,豪華な室内セットを組みながら,物語の鍵となる肖像画のお粗末さが全てを台無したという前歴を持っているが,「MR.BRAIN」のセットの軽さはそれを上(下?)回る出来だ。

綾瀬はるかの正しく美しいボケを楽しむことと,キネマ旬報の連載で香川照之本人が書いていた「香川照之≒トータス松本」説を思い返しながら,二人が画面に並ぶシーンを捜すことだけでも,もう1,2回は付き合えそうだが,このまま何らの改善が図られなくとも,結局20%は割らずに走りきるのだろうなきっと,とため息をついてみたりする。


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