白内障手術後の「はげしい運動禁止」が解禁を迎え、また今月締切の論文原稿も仕上がった。
図書館通い詰めによる運動不足を解消しようと、まだ大学が夏季休業中なのを利用して、
晴天を迎えた月曜に、丹沢の大山(1252m)に行った。
この歳になっても早起きが苦手なので、自然の目覚めで8時すぎに起き、
出勤ラッシュが終わった電車に乗った。
大山にはケーブルカーが中腹まで達している。
遅めの出発だったこともあり、早めに山頂に達したいので、往きはケーブルに乗ることにした。
月曜の昼前だから、乗客などいないだろうと思っていたら、意外に客がいる。
定年後の老人だけではない。
大学生は確かにまだ休みだ。
あとは理容・美容業界の人と博物館勤務の人たちだろうか。
以前と違い、最近はおしゃれな「山ガール※」が目につく。
ここ大山にも、伊勢原の駅からバス・ケーブルと同じ車内に山ガールが一人。
※山ガールとは、おしゃれな出で立ちの若い女性に限定する。
若くても観光客的素人タイプや逆にワンゲル女子部員的武骨な身なりの女性は除外。
今回の大山にも女性は多くいたが、山ガールといえるのは1人だった。
ケーブル上の阿夫利神社下社(696m)に着いた。
相模湾から江ノ島まで見える。
下社から登山が始まるのだが、
まず私が山ガールに先行して登り出す。
ところが、後ろから登ってくる山ガールのペースが速い。
どんどん接近してくる。
私が若い時は、山では必ず前方にいる人を追い抜き、決して追い越されることはなかった。
ところが、山から一旦リタイアし、
高尾山から再スタートした今の私では、残念ながら山ガールの猛追をかわす脚力がないことを悟った。
なにしろ「山ガール」なのだがら、若く、山歩きにも慣れている。
せめてもの意地で、見晴らしのいいところで立ち止まり、
休憩を装って、山ガールに道を譲った。
山特有の軽い挨拶をして彼女が通りすぎる。
勿論、真の休憩でないので、すぐ出発。
だが、山ガールのペースは驚くほど速く、あっという間に見えなくなる。
追い越されっぱなしとは悔しいが、かくも速度が違うので、追いつく意欲もわかない。
ところが、しばらく登っていくと、目の前の平坦地であの山ガールが座って昼食をとっていた。
確かに時刻は正午頃で、昼めし時だ。
でも私は山頂で摂りたいので、空腹を我慢して、山ガールに目礼をして、通り過ぎる。
図らずも「追い越されたまま」という事態を解消できた。
だがこれが、この後私に不必要な意地を張らせることになろうとは…。
マイペースで登り、携帯電話で銀行からかかってきた投資相談を長々とやりとりし、
山頂ももうすぐというところで、ふと後ろを見ると、なんとあの山ガールが真後ろに迫っている。
一度は諦めたレースだが、再びリードを得た今となっては、意地でも負けられない。
それに、山頂というゴール直前で追い抜かれることほど悔しい事はない。
だが、あちらはエネルギー充填済み、こちらはエネルギー充填直前のカラカラ状態。
私は意地でカラ元気を出して、幸い心肺機能は元気だったため、
ふらつく足にむち打ち、彼女を引き離して頂にゴールした。
下社から標準タイム90分のところを75分できた。
若い時なら60分で来れたが、今のコンディションなら、これで充分か。
山頂で昼食をとり30分休んで見晴らし台に向った。
後から来た山ガールはまだ休んでいる。
標高差500m下の見晴らし台へはけっこうきつい下りで、
それでも先行者をつぎつぎと追い抜いていく。
そんな私の後ろで靴音がしたので、振り返ると、なんとまたあの山ガール。
私以上のハイペースで降りてきて、先行した私に追いつかんという所だ。
ここで追い抜かれてはなるまじと、ギアを入れ替え、ペースを速める。
山ガールとの距離がどんどん開く。
見晴らし台に着いた。
ベンチにどかっと腰を下ろし、きつい下りで痛くなった足のために靴ひもを弛める。
山ガールがやってきて、離れたベンチに座り、水を飲んでいる。
私はこの先の下山ルートとして、下社にもどるか、日向薬師に降りるか迷っていた。
一服した山ガールは下社方向に下っていった。
しばらく休んで私も下社に下ることにした。
山ガールに最後の勝負を挑むためではない。
ここまで抜きつ抜かれつだったから、
同じルートを完遂したくなっただけ。
下社までは平坦な道で楽だった。
山ガールは往きと同じくケーブルカーで降りたはずだが、
男坂を下ると麓まで20分という標識を見て、ケーブル代450円を浮かすことにした。
ところが、これが失敗だった。
男坂は、ケーブルの軌道に沿った直線ルートで、その実体は「坂」ではなく、硬い自然石の階段なのだ。
今までの下りで、充分に膝を痛めていた。
特に右膝は膝関節症を患っていて、それがために登山の再開を一年延期したほどだ。
硬い自然石の石段は、一歩踏み降ろすたびに容赦なく膝に響く。
その苦痛を麓までずっとあび続けなければならない。
男坂は二度と通るまいと心に誓いながら、
半泣き状態でやっと、石段の終わりのバス停にたどり着いた。
一日の運動として充分な汗をかいた。
ただ、若い山ガールに意地をはって、ハイペースにしたため、疲れが膝に来て、
その疲れた膝に、延々とつづく石段の試練を与えてしまった。
膝の後遺症が出ないことを祈るのみ。