今年の秋は唐突にやってきた……というより、夏が未練がましい残暑をいつまでも引き摺っていたから、ようやく秋らしくなったに過ぎないのだが。
10月14日、抜けるような秋空の「体育の日」に、13年前に始めたウォークラリーで11,397歩、5キロあまりを歩いた。校区5自治区から820人が参加する盛大な大会だった。
Aコースは、階段と坂道の多い少しハードな道を歩く。リーダーの責任上、前々日に試し歩きしておいたからコースは頭に入っている。
途中、繁りを深めてきた「九博の杜」の歴史や、九州国立博物館の総ガラス張りの壁面を空と見間違えて激突死する野鳥に警告を与える為に、2か所に置かれたフクロウのデコイの説明などを挟みながら、最年少の幼児の足に合わせて1時間40分掛けて歩いた。
翌日から1泊で、近郊1時間で届く原鶴温泉に走り、疲れを癒した。時折り突風が車を揺する。遠く南の海上から近付く大型台風が、この夜に牙を剥いて伊豆大島に襲い掛かり、激甚な災害を齎すとは思いもせずに南に走っていた。
鄙び過ぎるほどに鄙びた古い宿だった。普段着のままのフロントや部屋係、雑然とした佇まい、今時温水洗浄便座がないトイレなど、「外したかな?」とちょっと足が竦んだが、料理の味付けは申し分なく、量もたっぷりで、牛シャブの肉を半分残すほどに豊かだった。
しかも、この時節に部屋食で、貸切家族風呂が使い放題!これで1泊2食付6,800円は、むしろ贅沢の極みである。地域の皆さんが銭湯感覚で貰い湯に来ているのも、ほのぼのとして実にいい。
台風26号が大陸から寒波を引き寄せ、この夜から急激に気温が下がった。
実は数日前から鼻の具合がおかしくなり、小鼻が腫れて痛みがひどくなっていた。朝一番で耳鼻科に駆け込んだ。X線を撮り(生まれて初めて、自分の頭蓋骨を見た!)、副鼻腔炎と診断されて、抗生剤、鎮痛消炎剤、抗アレルギー剤など3種類の薬を5日分処方された。それを服んで原鶴温泉に走る頃から、身体に異常が生じた。
頭がボウッとして顔がほてり、倦怠感がひどい。ものを言うのも億劫なほどの怠さに苛まれた。温泉宿の夕飯の定番の冷酒も家内に任せ、折角の温泉も湯あたり状態になって、3度目の朝の入浴を断念する始末だった。(その分、家内が4度も湯に浸かって元は取ったのだが。)
帰り着いて、夕刻からの博物館環境ボランティア活動の自記温湿度計記録紙交換作業を何とかこなして、そのままダウンした。
翌日の家内の定期検診に向かおうとしたら、車の前輪がバーストしており、急遽タクシー、電車、バスを乗り継いで一人で行かせる羽目になった。弱り目に祟り目、踏んだり蹴ったりである。不貞腐れて、一人かこちながら家で休養した。
3日服んだところで鼻の具合も落ち着いたし、医師に相談して薬の服用をやめたら劇的に体調が戻った。薬が強すぎたのか、相性が悪かったのか……「どの薬が合いませんでしたか?」と医師に訊かれても、3種類同時に服んでいるのにわかる筈もない。薬も、ひとつ間違うと毒……シンドイ体験だった。
夏の苛烈な日差しを避けて、寒冷紗を掛けた半日陰に置いていた山野草の鉢を、再び日当たりのいい場所に移して冬支度を整えた。ピンクの大文字草が開き、ホトトギスも今盛りである。日陰に何本も立つツワブキの花の黄色が鮮やかに目に沁みる。ラカンマキに這わせたカラスウリがオレンジ色に色付き、そして……件のリュウキュウネズミウリ(琉球鼠瓜)ならぬオキナワスズメウリ(沖縄雀瓜)の、2cmほどの小玉西瓜のような緑の実の一つが、真っ赤に色付いていた。30輪ほど付いた実が真っ赤に染めあがる頃、秋の向こうに冬将軍の先駆けが見え始めることだろう。
きしり鳴く蟋蟀が侘しさを募らせながら、もう秋の足取りに躊躇いはない。
(2013年10月:写真:色づいたオキナワスズメウリ)