蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

秋高く…(2)あゆみちゃんマップ

2015年10月10日 | 季節の便り・旅篇

 南国の空は何処までも青く高く、太陽は限りなく近かった。気温25度、木陰を吹く風は涼しかったが、日差しは痛みを感じるほどに眩しい。緑濃い山の稜線が、鋭いスカイラインで青空を切り取る。カリフォルニアの真っ青な空を思い出しながら、ホテルを走り出た。

 30分足らずで、飫肥の城下町に着く。
 資料によると、五万一千石、九州の小京都・飫肥(おび)城の藩主伊東家は藤原氏南家の子孫で、遠く鎌倉時代の工藤佑経にまで遡る。6代伊東佑持のときに、足利尊氏より曽於郡に所領を賜り日向に下って曽於郡城に居城を構え勢力を拡大、これを伊東家の初代とする。
 10代義佑は、飫肥城を攻めとり48城を各地に配して日向国内に覇権を樹立したが、天正5年(1577年)島津に敗れて豊後に落ちた。天正15年、秀吉に仕えた佑兵(すけたけ)が九州平定に功績をあげ、飫肥城を与えられて大名として復活する。以降280年余、飫肥城五万一千石を14代で治めた。
 飫肥…珍しい名前に、その由来が気になる。定かではないが、土地が肥沃で食べるものに困らなかったからでは…という説がネットにあった。

 中国からの大型クルーズ船の寄港もなく、今日は静かな佇まいだった。この町の観光には「あゆみちゃんマップ」という楽しい企画がある。1100円でマップを買うと、全施設入館料込みで、豫章館と庭園、松尾の丸、飫肥城資料館、小村寿太郎記念館などすべてを観て、町歩きしながら5つのお店で食べもの・飲み物などのサービスを受けられる。
 日差しに汗をかきながら、42の対象の中から5つを選ぶ悩みを楽しんだ。商家資料館で姫アイスと絵ハガキセット、吉田寝具店で手作りのお札入れ、旧山本猪平家で寿太郎巻、こだまで卵の厚焼き、ku ru mu.で珈琲、安藤商店でうまくち万能醤油、おび天本舗でおび揚げ牛蒡天…それぞれに穏やかな人柄の店の人と会話を交わしながら、静かな城下町の「食べあるき・町あるき」を楽しんだ。
 名物「卵の厚焼き」とは「出し巻玉子焼き」の一種と思っていたら、実は和風プリンともいうべきスイーツだったのは驚きだった。

 何処に旅しても異口同音に言われることがある。アジア隣国からの旅行者が爆発的に増え、爆買いとマナーの悪さで顰蹙を買う昨今。ド派手なファッションで傍若無人に姦しく騒ぎ立て、街を散らかし、トイレを汚し、前も洗わずにずかずかと湯船にはいりこむ姿は眼を覆うものがある。だから、最近は温泉宿も隣国の団体の予約がないことを確かめて宿を取るのが習慣になった。空港でも、爆買いした荷物をスーツケースに詰め替え、空の段ボールを通路に置き散らす姿がニュースに出る。
 そんな中で、台湾からの旅行者のマナーの良さをよく言われる。此処飫肥で立ち寄った店のお婆ちゃんからも同じ指摘があった。文化の違いだろう、各国語で書かれた注意書きも、読めない人たちもいるらしい。添乗員の教育も遅れているのだろう。国内旅行でこんな煩わしさを感じるのは腹立たしいし、「観光立国」、「おもてなし」という言葉が空虚に感じられる。

 閑話休題。

 ひりつく鼻の頭に夏の名残を確かめながら、3時にホテルに戻った。ゴルフを終えた客が慌ただしく風呂を浴びて帰っていくのを横目で見送りながら、ゆったりと露天風呂に浸った。湯船に照り返す日差しが眩しく、あとはただ、静かな寛ぎの時間が待っていた。
 ひと眠りして、夕飯は買って来た食材で部屋食。寝る前の露天風呂は、今夜は独り占め。綺麗な星空を見上げながら、吐口から落ちる湯の音に耳を傾けていた。カシオペアが中天に広がり、一筋の流れ星が夜空を切った。
                  (2015年10月:写真:飫肥城)

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